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博士と妻 第三回 指輪物語

文化記号論的に言うと、結婚指輪は記号の意味と機能として考えられる。それは、二人の間の約束や契約という意味として、あるいは周りの人には「お知らせ」として機能する。

今回は結婚指輪の話なのだが、この「お知らせ」をめぐること。

私と妻は、結婚して結婚指輪を購入することで指輪を嵌める生活が始まった。結婚指輪については改めて述べたい。ところで、「お知らせ」としての最初の難関が行きつけの散髪屋なのだった。

というのも、行きつけの散髪屋は店長始めとして若い店員さんが二人いて、一人は結婚しているのだが、独身の店員といつも「最近どうですか?」と独身の近況報告をし合っていたのだった。私は妻と交際するようになって、そのことを話さなかった。

しかし、髪は伸びてくるので散髪に行かねばならない。つまり、どうやら大学の関係者よりも先に、私の結婚指輪を散髪屋の皆さんに見られることになりそうなのだった。

私は、最初に結婚指輪の「お知らせ」を散髪屋の皆さんにするのは気が乗らなかった。だから、今回は指輪をポケットに仕舞って次回の時に話そうかとも考えた。しかし、もし指輪をなくしてしまったら大問題だし、指輪を隠すのも何か違うと思った。

という訳で、指輪をして散髪屋に行ったのだった。もし聞かれたら正直に話そうと思った。しかし、店はそれどころではなかったのである。

店員の一人が事故で大怪我をして、てんやわんやになっていたのだった。幸い次回には復帰されていたが。

結局、私の結婚指輪は誰にも気づかれることはなかった。

今となっては、あの時気づかれて「お知らせ」しても良かったのか、そうではなかったのか、はてさて。

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