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「つながり」を読み解く英文読解(11)~連結表現④:逆接・対比~

【1】[02.20] 逆接(an adversative conjunction:逆態接続):A⇔B

▼前回までは「順接」について扱いました。今回は「逆接(逆態接続)」を扱います。

▼「順接」とは,〈Aという前提から予測可能なものとしてBという内容が導けるときのAとBの関係〉のことでした。これに対して「逆接」とは,〈Aという前提から,Bという内容が期待を裏切る意外なものとして受け止められるときのAとBの関係〉のことです。

▼たとえば,A「私はインフルエンザに罹った」という情報から,B「学校を休んだ」という情報は予測可能なものとして導けます(順接)。これに対し,A「私はインフルエンザに罹った」という情報に,B「私は学校に行った」という情報が続く場合,BはAという前提からは意外なものとして受け止められる情報で,この2者は,「しかし」や「それにもかかわらず」といった連結表現で結ぶことになります。これは「インフルエンザに罹ったのであれば,学校を休むべきだ」という〈背後期待〉があるためで,「学校に行った」のはその期待に背く内容であるからです。

【2】「逆接」と「対比」

▼さて,ここで一つ考えたいことがあります。次の日本語を英語に訳す場合,「が」をどう訳せばよいでしょうか。

「私の車は赤い,彼の車は白い」

▼おそらく,"My car is red, but his car is white." とする人が多いのではないかと思います。しかし,厳密に言えば,この場合,Aの「私の車が赤い」という前提から,Bの「彼の車が白い」ことが「予想外の内容」だということはできません(「私の車は赤い」という前提から「だから彼の車も赤であるべきだ」という期待を読み取ることができないため)。よって,この場合は but ではなく,and や while を使い,AとBが「対比(comparison)」の関係であることを示さねばなりません(*1)。

ex) My car is red, and his car is white.
ex) My car is red, while his car is white.

▼「A,しかし(それにもかかわらず)B」という「逆接」の場合,通常,情報の重要度はAよりもBの方に置かれます。この時,重要度が相対的に低いAを「譲歩」と呼ぶことがあります。これに対して「対比」とは,AとBを比べてその相違点を述べることで,この場合,AとBの情報の重要度はどちらかが上でどちらかが下,というわけではありません

▼英語には,たとえば while のように,「逆接」と「対比」の両方の意味を含むCD(Cohesive Devices:連結表現)があります。そこで,ここでは「逆接・譲歩」と「対比」を表すCDをまとめて紹介します。

【3】[02.21] 逆接・譲歩(A,それなのにB)

▼〈A,しかし/それなのにB〉という「逆接・譲歩」を表す主なCD(Cohesive Devices:連結表現)は次の通りです。

(1) 等位接続詞
・A, but / yet B(A,しかしB)
・A and B
*Aが「譲歩」であることを示すために,Aのところに,indeed / of course / (it is) true that S + V が使われることもある。また,Aのところに譲歩を表す助動詞 may が用いられることも多い。
(2) 従属接続詞
・although / though / whereas / while / as A, B など(AだがB)
(3) 関係詞
・-ever / no matter~ A, B(どんなにAでも,B)
(4) 副詞
・A.  However / Nevertheless / Nonetheless / Unfortunately, B など(A。しかしB)

▼逆接・譲歩を表すCD(Cohesive Devices:連結表現)に注意しながら以下の例文を読んでみましょう。

ex-1) Central to traditional Christian thought was the claim that one's status carried no moral meaning. Jesus had been the highest man, but he had been a carpenter. Pilate* had been an important imperial official, but a sinner. It therefore made no sense to believe that one's place in the social hierarchy reflected actual qualities. One could be intelligent, kind, capable, quick and creative and be sweeping floors. And one might be corrupt, mean, sadistic and foolish and be governing the nation.
注 Pilate キリストを処刑したローマの総督
(2010年度一橋大学前期日程)
出典:Alain De Botton, Status Anxiety, 2004, p.79
〈語彙〉□ central to A Aにとって中心的な  □ traditional 伝統的な  □ Christian キリスト教の  □ thought 思想  □ claim that S + V~ SVが~という主張  □ status 地位  □ carry O Oを持つ  □ moral 道徳的な・倫理的な  □ meaning 意味  □ Jesus イエス  □ carpenter  大工  □ imperial 帝国の(ここではローマ帝国のこと)  □ official 役人  □ sinner 罪人  □ therefore ゆえに  □ make no sense 意味をなさない  □ place 地位  □ social hierarchy 社会階層  □ reflect O Oを反映する  □ actual 実際の  □ quality 資質  □ intelligent 知的な  □ capable 有能な  □ quick 頭の回転が速い  □ creative 創造的な  □ sweep floors 床の履き掃除をする  □ corrupt 堕落した  □ mean 意地悪な  □ sadistic 嗜虐的な・サディスティックな  □ foolish 愚かな  □ govern O Oを統治する
〈和訳〉伝統的なキリスト教の考え方の中心にあったのは、人の地位は道徳的な意味を持っていない、という主張であった。イエスは最も高潔な人物であった、彼は大工であった。ピラトは地位の高い(ローマ)帝国の役人であった、罪深い人であった。ゆえに、社会階層における人の地位が実際の資質を反映していると信じることは意味が無かったのだ。人は、知的で、親切で、頭の回転が速く、創造的でありながら床の掃き掃除をしていることもありうる。そして、堕落して、意地悪で、サディスティックで、分別も無いのに、国を統治している者もありうるのだ。

⇒太字の but と and がそれぞれ,逆接を表しています。後半の2か所の太字の and は,前後の内容から対立的なものを結んでおり,but の言い換えとして用いられていると考えることができます。

ex-2) Although crying has been documented in apes, elephants and even camels, it seems that only humans produce emotional tears, and it is only in humans that crying behaviours persist into adulthood. The challenge is to explain why this should be so, given that tears also run the risk of signalling our presence to predators.
(英文は2014年度東京工業大学前期日程)
出典:http://www.theguardian.com/science/2013/apr/14/why-do-humans-cry-biology
〈語彙〉□ crying 泣くこと  □ document O Oを記録する  □ ape 類人猿  □ elephant 象  □ camel ラクダ  □ emotional 感情に根差した・感情的な  □ behavious 行動(behavior)  □ persist 持続する  □ adulthood 大人  □ challenge 問題・課題  □ given that S + V~ SがV~ということを考慮すると  □ run the risk of doing~ ~する危険を冒す  □ signal A to B AをBに示す  □ presence 存在  □ predator 捕食動物
〈和訳〉泣くことは類人猿,象,ラクダですらも記録されてきたが,人間だけが感情に根差した涙を流すように思える。そして,泣く行動が大人にまで続くのは人間だけである。問題は,涙が捕食動物に対して私たちの存在を示す危険を冒すことにもなるということを考慮すると,なぜこれがそうなのかを説明することだ。

〈although S1 + V1~, S2 + V2…=(確かに)S1はV1~だが,S2はV2…〉というかたちで〈譲歩・逆接〉が示されています。

【4】[02.22] 対比・対照・比較(A,他方B/AはBとは異なる)

▼〈A,一方/他方/逆にB〉という「対比・対照・比較」を表す主なCDは以下の通りです。

(1) 等位接続詞
・and / or
(2) 副詞(句)
・alternatively / conversely / in contrast / instead / on the contrary / on the other hand など
(3) 従属接続詞
・as / while / whereas など
(4) 前置詞
・unlike など
(5) その他
・比較級
・different / differ など
・some~, (and) others…

▼以下の例文で、対比を表すCDを確認しましょう。

ex-1) ①After receiving a gift, tradition may demand that the person open the gift right away or, alternatively, wait before opening the gift. ②In many Western cultures, etiquette requires the receiver to open the gift immediately and show appreciation for the thoughtfulness of the giver. ③In Asian cultures, on the other hand, the gift may be accepted with appreciation and then set aside to be opened later. ④The gift will then be opened in private to avoid appearing greedy or impatient.
(英文は2009年度近畿大学[2/14実施]/2019年度日本大学N方式)
出典:Casey Malarcher, Reading Advantage 4 (3rd Edition)
〈語彙〉□ receive O Oを受け取る  □ gift 贈り物  □ tradition 伝統  □ demand that S (should) do~ Sが~することを求める  □ right away すぐに  □  Western 西洋の・西欧の  □ etiquette エチケット  □ require O to do~ Oに~するよう求める  □ receiver 受け取る人  □ immediately すぐに  □ appreciation 感謝・評価  □ thoughtfulness 思いやり・思慮・配慮  □ giver 送り主  □ accept O Oを受け取る  □ set O aside / set aside O Oを脇に置く  □ later あとで  □ in private 人目の無いところで  □ avoid doing~ ~することを避ける  □ appear C Cに見える  □ greedy 貪欲な  □ impatient 待ちきれない・いらいらした
〈和訳〉贈り物を受け取った後、伝統によって、人がその贈り物をすぐに開けることが求められるかもしれないし、あるいは逆に、贈り物を開ける前に待つことが求められるかもしれない。多くの西洋文化では、エチケットにより、贈り物を受け取った人がその贈物をすぐに開けて送った側の配慮に感謝を示すことが求められる。他方、アジアの文化では、贈り物は謝意を持って受け取られるが、それから後で開けるために脇に置かれてしまうかもしれない。そうなると、その贈り物は、欲張りに見えたり待ちきれなく見えたりすることを避けるために、人目の無いところで開けられることになるであろう。

⇒①がこの段落のトピックセンテンス(中心となるセンテンス)で、②にWestern、③にAsianという固有名詞が用いられているので、①の内容の具体的説明だとわかります。①では〈A or alternatively B=A、あるいは逆にB〉というかたちでAとBを対比し、その対比が②と③に受け継がれています。つまり、②がAの具体的説明、③がBの具体的説明と言えるわけです。また,②と③の間では対比を表すために conversely(逆に)というCDが使われています。

ex-2) Some experts believe only a genuine, full smile, confers health benefits. Such a smile, commonly referred to as a Duchenne smile, after the 19th century French neurologist who first described it, activates major muscles around the mouth and the eyes. By contrast, a standard social smile, which is sometimes called a Pan Am smile after the polite expression the former airline's stewardesses used to greet passengers, activates only the muscles around the mouth.
(英文は2014年度同志社大学法学部、グローバル・コミュニケーション学部[2月8日実施])
出典:http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424127887323699704578326363601444362
〈語彙〉□ experts 専門家  □ genuine 真の  □ full 完全な  □ confer O Oを与える・授ける  □ health benefit 健康上の利益  □ commonly 一般に □ refer to A as B AをBと呼ぶ  □ Duchenne デュシェンヌ。Guillaume Benjamin Amand Duchenne (de Boulogne),[1806-1875]。19世紀のフランスの医師・神経学者。[参考] https://en.wikipedia.org/wiki/Duchenne_de_Boulogne )  □ after A Aにちなんで  □ neurologist 神経学者  □ describe O Oを記述する・描写する  □ activate O Oを活性化する  □ major 主要な  □ muscle 筋肉  □ standard 標準的な  □ social 社交上の・社会的な  □ polite 丁寧な・礼儀正しい  □ expression 表情・表現  □ former 以前の・かつての  □ stewardess スチュワーデス(現在はflight attendantなどと呼ばれる)  □ greet O Oにあいさつする  □ passenger 乗客
〈和訳〉専門家の中には,真の完全な微笑みだけが健康上の利点を授けてくれると信じている人もいる。そのような微笑は,最初にそれを記述した19世紀のフランスの神経学者にちなんで,一般にデュシェンヌスマイルと呼ばれているが,口と目の周りの主要な筋肉を活性化する。対照的に,標準的な社交上の微笑みは,かつての飛行機のスチュワーデスたちが乗客にあいさつするために用いた礼儀正しい表情にちなんでパンナムスマイルと時に呼ばれているが,口の周りの筋肉だけを活性化する。

by contrast(対照的に)によって,デュシェンヌスマイルとパンナムスマイルを対比しています。

ex-3) Anosmia ― complete loss of the sense of smell ― often leads to depression. Conversely, people with severe depression often show a diminished sensitivity to odors.
(英文は2010年度立教大学社会学部・コミュニティ福祉学部[福祉]・現代心理学部[映像身体][2/14実施])
出典:The Hidden Force of Fragrance: Boost your health and mood by surrounding yourself with pleasant scents. By PT Staff, published on November 1, 2007 - last reviewed on April 22, 2012 https://www.psychologytoday.com/articles/200711/the-hidden-force-fragrance
〈語彙〉□ anosmia 嗅覚障害  □ complete 完全な  □ loss 喪失  □ sense of smell 嗅覚  □ depression 鬱状態  □ severe 深刻な  □ diminish O Oを減らす  □ sensitivity 感受性・感知すること  □ odor 匂い
〈和訳〉嗅覚障害は,嗅覚を完全に失うことだが,たびたび,鬱状態につながることがある。逆に,深刻な鬱状態の人々は匂いに対する敏感さが少なくなることが多い。

⇒ conversely(逆に)によって,1文目と2文目が対比されています。

▼逆接や対比のCDを見たら,
 ① 何と何が「逆」または「対立関係」にあるのかを把握し,
 ② 情報の重要度に偏りがあるのか(逆接・譲歩),同じなのか(対比)
を考えることが必要です。また,逆接や対比のCDが用いられていなくても,内容的に2つの情報が対立的になっている場合もありますので,読みながらその都度〈予測⇒修正〉を繰り返しましょう。

【注】

*1:『ジーニアス英和大辞典』のbutの項目には以下のような記述があります。

「意味内容から前後の節で論理的に対立関係になければbutは用いられない:My car is black, and yours is yellow. 私の車は黒だが君のは黄色だ。」

 ただし,実際にはそこまで厳密に区別せずに使われていることも多いようで,単純な対比で but を使っている場合も見うけられます。

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