見出し画像

本当?新聞を読むひとほど投票に行く?新聞普及率と都道府県議会議員選挙投票率との相関関係の分析

Tittiby の記事によると,ニューヨークタイムズの有料購読者数が 1036万人になったとあります。この数には紙媒体の購読者数とデジタルでの購読者数が含まれています。デジタルの購読者数は 970万人とあるので,紙媒体の購読者は66万人に過ぎません。デジタル版への移行が進んでいますね。

紙媒体かデジタル化といったちがいはあれど,新聞というものは私たちのくらしにかかせないもののようです。今回はその新聞の役割について考えてみましょう。


新聞の役割

2013年ですから,今からもう10年以上まえのこと,日本新聞協会が,「新聞の公共性と役割」という文書を発表しています。それによると,新聞には民主主義を支える重要な役割があると書いてあります。

https://www.pressnet.or.jp/keigen/files/shimbun_koukyousei_yakuwari.pdf

民主主義とは何か

国や地方自治体のルールを決める際,そこに私たち国民も関わることができる仕組みを民主主義といいます。私たち一国民が例えば国会での話し合いに参加することはできませんので,その話し合いにいくひとを決める選挙は民主主義にとって非常に大切なものであることがわかります。

新聞には民主主義を支える重要な役割があると日本新聞協会は言います。本当に新聞にそんな力があるのでしょうか。

新聞に民主主義を支える力があるのか

新聞に民主主義を支える力があるならば,その民主主義を支える選挙に投票というかたちで参加することの意義を伝え,投票行動を促す力があると考えることができます。そうであるならば,新聞をよく読む地域のひとほど,投票にいくはずです。因果関係を分析することは非常に難しいので,今回は相関関係に限り,新聞普及率と選挙投票率との間に関連があるのか分析してみましょう。

新聞普及率

2023年10月,新聞協会経営業務部が,都道府県別の日刊紙の発行部数と普及度を発表しています。普及度にはふたつの指標があります。ひとつは「一部あたりの人口」です。その県の人口を発行部数で割った値です。もうひとつは,「1世帯当たり部数」です。発行部数を世帯数で割った値です。本記事では,この値を新聞普及率と呼ぶことにします。

選挙投票率

都道府県選挙管理委員会連合会のサイトでは,直近の都道府県知事選挙と都道府県議会議員選挙の投票率のリストが掲載されています。今回は都道府県議会議員選挙の投票率を取り上げることにします。本記事では,新聞普及率と選挙投票率との間に相関関係があるか分析を行います。できればふたつの変数の測定時期が同時期であることが望ましいと言えます。例えば,岩手県の都道府県知事選挙は,令和5年9月3日に行われており,新聞普及率の測定時期と近いとみなせますが,東京都は令和2年7月5日とかなり前になります。都道府県によって実施時期はまちまちです。そこで,本記事では,令和5年4月9日に一斉に行われている都道府県議会議員選挙の投票率を「投票率」として取り上げることにします。

新聞普及率と選挙投票率の相関関係

X 軸に1世帯あたりの部数,Y 軸に投票率をとり,47都道府県をプロットしました。

図1. 1世帯あたりの部数と投票率

1世帯あたりの部数が増えると投票率も増える傾向のあることがわかるでしょう。回帰直線を引いています。相関係数値は$${ .44 }$$ と中程度の大きさの正の相関関係があることがわかります ($${t(43) = 3.225, p = .002}$$)。

この分析から言えることは,新聞普及率と選挙投票率との間には関連があるということです。

結論

新聞普及率と選挙投票率との間に関連があるのか相関分析を用いて検討したところ,両者の間には,相関係数値$${ .44 }$$ と比較的大きい正の相関関係があることがわかりました。両者の間に相関関係がまったくないとしたら,新聞には民主主義を支える力は全然ないと言ってもいいでしょう。しかし,今回の結果からは,新聞が投票行動に影響を与えている可能性があることが示唆されました。

注意すべきこと

新聞には民主主義を支える力があるとような結果が出ましたが,結果の解釈には注意が必要です。

新聞普及率と選挙投票率の間に相関関係があるように見えますが,実際は疑似相関の可能性もあります。例えば,民主主義的風土というものが県別に差があることは十分に考えられます。民主主義的風土が高いほど新聞を読むひとが多く,民主主義的風土の高いほど投票にもよく行くこということは十分に考えられます。図で表すと以下のような関係です。

図2. 疑似相関の例

この分析を行うには,十分なデータがありませんので,今回は疑似相関の検討はできません。また機会を作って分析してみたいと考えています。

おすすめの書籍

この本に戦前の「一県一紙」運動の説明がありました。例えば,兵庫県だと神戸新聞とか,岡山県だと山陽新聞とか地域地域に主要な地方新聞があります。戦前は県内にも複数の地方新聞があったのですが,国の主導で統合され,ひとつの県にひとつの地方新聞というかたちがつくられたそうです。なぜ?国が上手に世論を統制するためだと考えられます。おそろしい話ですが,これからの新聞の在り方を考える際にもおもしろい歴史的事実です。

その「一県一紙」運動のなごりが今もまだ続いており,ひとつの地域にはひとつの地方新聞というかたちが残っているとのことです。

新聞というのは民主主義をささえるはたらきがあると言います。民主主義は話し合いによってものごとを決めるわけですが,いろんな声があって,いろんな立場のひとをおもんぱかりながら,ものごとが進むのがいいと思います。

そういう視点で「一県一紙」の状態を考えると,なんだか窮屈です。

デジタル化が進み,かついろんな新聞を購読できるようになるのが一番いいように思いますが,なにしろ,デジタルの新聞購読料は高い!携帯電話の使用料が安くなってきているように,デジタルの新聞購読料も安くなるべきでしょう。民主主義のインフラとして新聞があるのでしたら,適正な価格であることもまた望まれると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?