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寒さの中の温もり

衣替えをした矢先に雪が降るような季節。あと少しすれば「今年の桜は散るのが早いな」と、例年通り思うのだろうか。

以前、観劇した舞台の中で、こんなセリフがあった。「徳川が滅び、時代が変わっても、この桜は相も変わらず、咲いては散ることを繰り返してゆくのだろうな。私たちの大切にすべきことは、そういう景色だと思わぬか—。」

劇中では叙情的なシーンであったが、こういった感慨は私たちの生活の中においても実は多い様に思う。

毎朝会う掃除のおじさんとの挨拶。道に横たわっている猫。就業前の一杯のコーヒー。
玄関を開ける音。夕飯の匂い。気付いたら歌ってしまう風呂の時間。決まった時間に来る微睡み。寒いと駆け込むベッド。
横で寝ている君の体温。静かな寝息。穏やかな寝顔。静かに口にするおやすみなさい—。
おはようで目覚める朝。台所に立つ君の後ろ姿。

寒さの中にある温もり程、穏やかな気持ちにされせるものなんてないよな、なんて寝坊の言い訳をしながら、私たちの日常は通り過ぎてゆく。

#エッセイ #ひとりごと #日常