見出し画像

夢を捨てた

僕は今空港に来ている。1ヶ月くらい前に突然父親からの電話が鳴り、嫌な予感を抱きながらその電話を取った。「来月末、福岡で親戚の結婚式に参加するからそのつもりで。」僕の予感は外れた。僕は飛行機が好きなのだ。

子供の頃聞かれた。キミの将来の夢はなんですか。ことあるごとに聞かれた。あるとき、この頃の記憶は妙な焦りを生んだ。僕には将来の夢がなかった。
大学生の時分、僕は航空宇宙分野を専攻していた。その4年間、僕はある種の催眠状態にあった。航空業界で働くことが夢だ、そのために大学に入ったんだ、と言い聞かせていた。しかし大して業界研究をせずに臨んだ就職活動の際に、その夢は呆気なく散った。僕は夢を捨てた。しかしそこには悲壮感がない。やっと夢を捨てることができた。半ば強制的に抱かされていた夢は打ち砕かれ、同時に抱えていた焦りが消えたから。

夢を持つことは良いことだと思う。阻む壁を乗り越える糧になるだろう。しかしそれは必須ではない。少し先の、なりたい自分を見据えて過ごす。その繰り返しで人の未来は随分立派な人生になると、僕は思う。

僕は夢を捨てた。だけど飛行機が好きだ。

#エッセイ #ひとりごと