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今日気持ちよかった音楽: Puma Blue - Hounds

2023年1月現在、Spotifyで59万の月間リスナー、一番の人気曲は2,000万超え再生と、去年秋まで知らなかったことが恥ずかしいPuma BlueことJacob Simon Allen。

近年、多くの才能を輩出しているサウス・ロンドン出身という経歴は、前回書いたNilüfer Yanyaとも同じで、同地からはTom MischArlo ParksBlack Country, New Roadblack midi、etc……。「そうだったんだ!」という人気者が続々で恥を上塗られたが、ともあれ話はPuma Blueです。



脳汁全開"Voicemail Ballads"

調べてみるとブリット・スクール時代っぽい映像も出てきて驚くが、"Puma Blue"最初期の音源は、とにかくスッカスカ。凪に揺らぐ音色で細々と爪弾かれるギター、"Voicemail Ballads"なんて称される憂いを湛えた官能的な歌声。ベースもドラムも最小限のこの気持ちよさは、くずパチ的に表現するなら脳汁全開! "汁音"というべき快楽にあふれている。

ジャンルで言えばジャズが基調になるのだろうが、ロック、オルタナ、HipHop、Lo-Fi、ソウル、R&Bなどなど。本人の口からも様々な影響やフェイバリットが挙げられるのは現代ならでは。
私は00~10年代に隆盛を極めたGlo-fiが大好きなのだけれど、Washed Outを初めて聴いた時に近い衝撃を感じた。特に2017年に発表のEP『Swum Baby』は、傑作『Life of Leisure』と同じフォルダに入れて一生愛でることになりそうだ。



谷崎潤一郎『陰翳礼讃』を冠した1st ALBUM

2018年には初の来日公演もあったようでなんとも口惜しいが、その3年後には待望の1st ALBUM『In Praise of Shadows』を発表。タイトルは谷崎潤一郎『陰翳礼讃』の英訳である。ちなみに、同作のDeluxe盤には「Postcard From Tokyo」なんてタイトルの楽曲も。

ともあれ、すでにアンダーグラウンド界隈で注目を集めていた彼の初アルバムは話題を呼び、インタビュー記事なども方々が掲載。BjorkのコラボレーターでもあるMarta SalogniとHeba Kadrがミキシングとマスタリングを担当し、芸術的な美しさがさらに際立った作品として、より広く響いていった。私は知らなかったけど。



最新シングルはバンドでブリストル・サウンド

そして2022年秋。Puma Blueは新作「Hounds」を発表。不穏な響きのベース・ラインと、ミドルテンポの軽快なリズム。美しくも不安を煽るような歌声に、やがてユニークなアルトバリトン・サックス(たぶん)が熱量を高めていく怪奇な1曲だ。
本人はブリストル・サウンドからのインスパイアとしているようだが、容易な紐づけの失礼は承知で、00年代あたりのradioheadMUSEが好きな方なら、けっこう良い汁が出ると思います。

また、これまでラップトップで綿密なサウンドを作ってきた彼だが、本作では印象的なベース・ラインを基にジャム・セッションして作り上げたそう。こちらを聴く限りでは、その方策による次回作以降にも大きく期待できそうだが、果たして。



余談というでもないけども、1stアルバムのRemix盤に入っている「Velvet Leaves- Anja Ngozi & Maxwell Owin - Cashmere Mix」が、懐かしのエレクトロニカっぽくてかなり好き。本当に見事なアーティストで、20~30代のころに聴いてたらメロメロになってた。