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あなたの恋は叶いますでしょう

「この前ね、占いしてもらったんだ。そしたらさ、あなたの恋は叶いますでしょうって言われちゃった」

嬉しそうにそう話すのは僕が恋をしているミズキであった。
彼女はその溌溂とした雰囲気と誰にでも優しく話しかける性格でクラスだけでなく、学年や学校中で人気者であった。

そんな性格のためか、学校中の男子の注目の的であり、彼女の心を射止めてやろうと下心満載の男どもがいつも彼女を囲っていた。

休み時間になると彼女は身動きが取れないくらいに次々と話しかけてくる輩が現れる。しかし彼女は嫌な顔一つせず丁寧に対応している。
そういうところが彼女の良いところだ。

そんな彼女に僕は恋をしていた。きっかけはなんとも単純だが、修学旅行のバスでたまたま席が隣同士になったからだ。

バスで何時間も隣同士で座っているので当然会話もする。彼女の人気は入学当時から知っていたのだが、話すのはその時が初めてで、そもそも女子とあまり会話をしたことがない僕は何を話したらいいかわからないぐらい緊張していた。

しかし、彼女は丁寧に話を聞いてくれ、時々質問を挟みながら楽しいひと時を過ごした。
そんな彼女ともっと話をしたいと思い、いつしか彼女のことをいつも目で追っていた。
これはきっと恋なのだ。そう気が付いた時にはもうその恋に落ちていた。

「ミズキはさ、誰か好きな人とかいる?」
こそこそと彼女に質問をした。
内心ではすごくドキドキしながら彼女の答えを待っていた。 

「えー、ないしょ」
彼女は黒板に顔を向けて授業を聴いている格好をしている。

「なんだよー、教えろよ」
なぜ僕がこんな赤裸々な話を彼女と話をできるのかというと、それは授業中だからだ。

ひと月前の席替えで何と僕は偶然にも彼女の隣の席になったのだ。
天にも昇る思いであった。
また修学旅行の時の様に彼女と話ができるのだ。それも毎日。
それからは彼女と秘密の会話が始まった。
大した内容ではないけれど、彼女がいるだけで、それだけで授業が楽しくなった。

「だって君、なんだか口が軽そうなんだもん。誰かに言われたら恥ずかしいから言わない」
「ってことは好きな人、いるってことか」
「あ……」
そういって彼女はほんのり顔が赤くなる。
「やっぱり」
僕はドキドキを隠しながら、そして彼女に好きな人がいることに秘かに落胆した。

そういえばサッカー部のキャプテンに恋をしているという噂を聞いたことがある。
まさかその彼ではないだろうか。
彼は高身長で甘いルックスをしていて女子の間では人気があった。
もし彼のことが好きであるならば、美男美女カップルでお似合いだな。
勝手に妄想をして、なんだか悲しい気持ちが胸に広がっていた。
「教えてほしい?」
「え?」
「だから、好きな人。教えてあげよっか?」
彼女は机に突っ伏しながら僕だけに聞こえる声でそう聞いてきた。
勝手な妄想をしてみじめな気分であったため、自暴自棄になり言った。

「じゃあ、せっかくだから教えてもらおうかな」
「なにそれ?そんなんだったら教えない」
頬を膨らませて怒った顔をする。

「すみません。教えてください。」
ここが教室ではなく、グラウンドであったら、すぐに土下座をしていたであろう勢いでお願いした。

「じゃあ、一つ私のいうこと聞いてね」
「え、聞いてないよそんなこと」
「だめー。君の好きな人、教えてよ」
まさか好きな人に好きな人を聞かれるとは思わなかった。
だめだ、言えない。

「い、いるわけないだろ」
「なーんだ。つまんないの」
その後、急に彼女は話をやめて黒板に向かってノートを書きだした。それっきり彼女は僕に話かけてこなくなった。

ぼくは何か彼女に悪いことをしたのだろうか。授業が終わり、休み時間になっても、休み時間が終わり次の授業になっても、彼女はなぜかよそよそしい態度を取っていた。

嫌われてしまったのか?
何が原因だ、必死に考える。
やっぱり好きな人を言わなかったのがいけなかったのだろうか。

そうであったとしても、やっぱり彼女には言えない。
ぼーっとしていたら、いつの間にか放課後になっていた。
帰ろうとしていたら彼女が急に話しかけてきた。

「あのさ、今日一緒に帰らない?」
いつもの帰り道、車通りがほとんどない道でが二人並んで歩く。
いつも通りでないのは彼女がいるからだ。
二人とも何を話すでもなく、ただひたすらにまっすぐ足を進めている。

この沈黙がつらい。なぜ彼女は急に話さなくなったのか。
ずっと考えていたけれど答えは出ないままであった。
このままじゃダメな気がする。
僕は思い切って彼女に話かける。

「あのさ、どうして一緒に帰ろうとしたの?」

少し考えた後彼女は答えた。
「うん。君に言ってないことがあるから」
彼女はいつになく元気がないように感じた。

「なに?」
僕はおそるおそる聞いた。

「えっとね、私が占いしてもらったのは実は、君の運勢だったの」
彼女は続けた。
「だからね君に好きな人がいたら、その恋が叶っちゃうんだなって思ったら、なんだか悲しくて」

僕の運勢?なぜ彼女は僕の運勢を。

「ど、どうして?」
「だって、君と毎日授業中にこっそり話すのとか楽しかったんだもん。それに修学旅行の時も。それができなくなると思うと元気もなくなるよ。何言っているんだろうね、私」
彼女は前を向いて、自嘲気味に照れ笑いをしている。その横顔は何とも美しかった。

「ミズキ、その、あの」

そのあと、僕は人生で初めての告白をした。
生まれて初めての告白は思っていたより大きな声で空に響いた。
彼女の泣いているような、喜んでいるような笑顔はいつまでも僕の心に残っている。
僕の青春の一ページはこうして幕を下ろした。
いや、幕は開いたのだ。


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