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ヨブンのこと

日曜22:30〜放送されている、高橋みなみさんと朝井リョウさんのラジオ、『ヨブンのこと』が好きでここ1年ほど欠かさず毎週聞いている。

日曜のリアルタイムや、週始まりの月曜の夜、料理をしながら、歯を磨きながらなど、手が塞がっている時に流す。とても聡明な方であろうに、どこか思考が一周回ってめちゃくちゃ面白い朝井さんに突っ込んでいく(?)高橋さんの掛け合いが非常にゆるく笑えて(時には考えさせられて)、週明けのしんどい疲れた五臓六腑に染み渡る。

前々回くらいの、インフルエンザの予防接種を受けながらラジオをする回で(予防接種を受けながらラジオってできるのか…とこの時点で面白い)、予防接種の順序を決めるゲームが行われ、そのお題が「親友になりたい平仮名一文字選手権」だった。耳だけでこのお題を聞いた時、なんのこっちゃわからなかった。「え、なんて言った?」そう思いながら聞き進めるとやはり平仮名から親友を選ぶ選手権だった。わたしの頭では一生思いつかないようなそのお題に、実に衝撃を受けた。

パーソナリティのおふたりだけでなくスタッフの方含め、8名の方々が親友になりたい平仮名を選び、看護師資格を持つ芸人のみほとけさんが順位を付ける。そして1位の方から順に予防接種を受けることができる。

そんな説明などが話された、選手権が始まる前の時間、わたしも考えてみた。親友にしたい平仮名、わたしだったら何を選ぶだろうか。…何一つとしてまっったく思いつかなかった。どんな基準で選んだらいいのか全くわからなかった。

そうこうしている間に、選手権順位発表の時間になった。それぞれ、フォルムやその平仮名が文中でどう使われるか等から、それぞれの性格を導き出し親友を選んでいた。なるほどな〜〜〜と、心が唸った。平仮名を平仮名としてだけで使わない、その視点にただただ脱帽し、加えてその答えの出ない問いに気心知れた仲間とあーだこーだ言う時間が、愛おしく思えた。それぞれのペースでお酒を飲みながらそんなあーだこーだをしたいなあと思いながら、そんな時間が最近減ってしまったように気がついた。

『ヨブンのこと』。ヨブン(余分)は、「本筋とは離れた話」、「聞き漏らしていた話」、「こぼれ話」、「余話」(上記HPより)。そんな話は本筋を、メインテーマを話しきった、もう本当に話すことがない時に訪れるように思うのだ。

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昨年の夏、学生時代の友人の家へ泊まりに行った。大学時代、真面目に授業を受けず、テスト前は助け合い、入ってみたら厳しかったゼミの愚痴を言い合った友人3人。卒業後、一人は名古屋へ行き、一人はベンチャー企業に入り、一人はのらりくらりと秘書をする。そんな交わらなそうな3人で、夕飯を作りながら酒を飲み、飲みながら作り、食べた。はじめの頃は仕事の話、身の上の話、これからの話など、久々に会えばすぐに議題に上がりそうな話をしていた。

しかし、いつからかそんな本筋から逸れ、話題は「色っぽく聞こえる名詞」になっていた。やっぱり最初に「お」を付けた方がいい、鼻濁音は色っぽい、破裂音はなんか違う、そんな話をあーだこーだ言って、結局暫定トップは「おがんも」になった。

それぞれの共通の友人を飲み物に当てはめるとしたら何になるか?という話もした。「100円の天然水」から、「コーラ」から、「高級な水」から「チャイ」までいた。

いつ寝たかもわからない、本当に下らない、時間がたくさんにあるからこそ溢れた話をしていた。

そんな3人で、この9月にも集まった。それぞれがマスクをつけ、アルコール消毒をし、ご飯を食べた。その時はお店だったけれど、そこには前回と同じようにおいしいご飯とおいしいお酒があった。それでも、おがんもの話にはならなかった。

もしそれが誰かの家だったらおがんもの話になっていただろうか。前よりおがんもは遠かったんじゃないか、と思う。それよりも、私たちは共通の敵に話を取られていたような気がする。

きっとヨブンな話は、終わりがなくて、それぞれが何かに共通で心配していなくて、世界が安全で、いつまでも続けられる、そんな時に派生するんだろうなと今ながら思うのだ。外に出ることがあまり良しとされていない、お店も早く閉まってしまう、静かな夜が早く来てしまう今には起こる確率が下がるような気がしてしまった。

ヨブンな話は、平和の象徴な気がしてきたのだった。

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壮大な話にしてしまったけれど、そんなヨブンな話を、それぞれのペースでお酒を飲みながら、またあーだこーだ言える日を、切に願う。

今となっては住む場所も、所属も仕事も異なり、見える景色が交わっているのかわからない私たちを、それでも繋ぎ、心地よい時間を流すのは、そんな余った、溢れた、くだらなくて、不真面目で、楽しい話な気がするんだ。

ちなみに、今のところわたしの親友にしたい平仮名は「え」かなあ。「え、もっと教えて!」「え!そうなの!」「え〜いやだ〜」「え、わかった」…「え」はなんだか正直で、ちゃんと話を聞いてくれて、ちゃんと話してくれそうな気がする。一筆で書けないところ、それでいてそれぞれが独立してバランスを取っているのも、なんだか紆余曲折あったけど自立している感じがする。

あのふたりはなんて言うかな、今度聞いてみよう。


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