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トリノスサーカス⑫『ゆかいゆかい』

小説を書いてからの挿絵、ではなく、
描かれたイラストから発想し小説を書く。
それが『絵de小説』


月1更新。
絵描きの中川貴雄さんのイラストです。
https://www.instagram.com/ekakino_nakagawa/

https://twitter.com/nakagawatakao

○舞台設定○


場所は白百合町。
いろんな動物たちがニンゲンのように暮らす平和な町。
そんな町の中央広場にあるのが、みんなに人気のトリノスサーカス。
トリノスサーカスを舞台に、いろんな動物たちのいろんな物語。


前回まで



前回までのあらすじ

捕まり牢屋に入れられてしまった、悪魔の2人。
そこで、ドララはどうして悪魔の力を使い、
町の者たちを助けるようなことをしはじめたのか、
を静かに語り始めるのだった。


登場キャラクター
ジョーンズ……ブタ。トリノスサーカス団長。
プッリ  ……タヌキ。町長。町の重鎮。
裁判長  ……ハト。町の重鎮。
警察署長 ……サイ。町の重鎮。
エミリ  ……パンダ。トリノスサーカス団員。
フィンレイ……パンダ。トリノスサーカス団員。
ドララ  ……悪魔。
シャバア ……悪魔。ドララの弟。


⑫ゆかいゆかい


裁判所の会議室です。

 ハトの裁判長がいます。
 タヌキのプッリ町長もいます。
 サイの警察署長もいます。
 トリノスサーカス団長ブタのジョーンもいました。

 4匹して無言で腕を組んでいます。
 みんな、頭を抱えていました。

「しかしねぇ……」
 長い沈黙を破ったのはサイ署長でした。

「……あれだけ町を破壊したんだ、このまま無罪放免というわけにはいかんだろ?」

「先ほども言ったが、結果的に見て被害は出ていません」
 ハト裁判長が答えます。

 そこが、みんなの悩みなのでした。

 昨日、鬼達によって町は破壊に破壊されました。
 しかし、とつぜん現れた謎の生物によって、全て元通りに修復されたのです。

 いま町は、何も起こっていないとおなじ状態でした。
 ケガはおろか死者もいません。
 ケガはあの謎の生物が治してくれたのでした。

 被害そのものが出ていないのなら罪には問えない――それがハト裁判長の答えでした。

「そもそも、あの町をなおしてくれたカバのバケモンは何だったんだ?」
「あれはカバじゃないです。心やさしいドラゴンですよ」
 プッリ町長の疑問にジョーンズが答えます。

「ドラゴンンン? 誰がどう見たってカバのバケモンだっただろ?」
「いや、誰がどう見たってドラゴンでしたよ」
「いやいやいや、みんなカバのバケモンって言ってるぞ」
「私もカバに見えましたな」
 ハト裁判長がプッリ町長の後押しをします。

「でもドラゴンです」
「そもそも、どうしてアレがドラゴンだったって知ってるんだ?」
 プッリ町長の最後の疑問に、ジョーンズは笑ってごまかします。
 悪魔の絵の具を使い、自分が描いたとは言えるわけはありません。

「町を助けてくれたのに、それが悩みの種になるとは皮肉な話ですな」
 ジョーンズは話をそらしました。

「ジョーンズくん。君はあのドララが悪魔だと言うことを知ってたのか?」
 サイ署長がたずねます。
「……いいえ」
「本当か?」
 ギロリとニラみつけます。

「オレも仲間で信じられないとでも?」
「そうは言ってない」
「そう思ってますよね?」
「なに?」
「おいおい、き……みたちやめたまえ……」
 2匹がニラみあい、プッリ町長がおたおたしました。

「落ち着いてください!」
 ハト裁判長は続けて、
「私たちが言い合いをしているようでは、2人の処遇を決めるに決めれませんよ」
 ニラみあっていた2匹は気まずそうにイスに座りなおします。

「いっそのこと町のみんなで決めたらどうです?」
 ジョーンズが言いました。

「処遇なんて難しい話にしないで、市民投票という形にして、有罪か無罪かを投票してもらうんですよ」
 
 それは名案!! 

 っという顔を誰もしませんでした。

「それでもし、有罪となったらその刑罰はどうするのですか?」
「無罪になったら悪魔を解き放つのか?」
「その前に、市民投票の費用はどこが出す?」
 口々にまくし立てます。
 ジョーンズはどの質問にも答えられませんでした。

「じゃあぁ、分けて考えるってのはどうです?」
 ジョーンズの言葉に3匹が首をひねります。

「そうだ、そうだよ。やったのはあのヒゲの方で、うちのドララはなにもやっちゃいないんですよ」

「ふん」
 サイ署長は荒い鼻息を出します。

「むしろ助けてくれたんです」
「なにぃ? それは本当か?」
 サイ署長が聞きます。

「ええ、ドララが鬼達は水に弱いって教えてくれたから、退治できたんですよ」

「仲間割れしたんだよ」
 サイ署長は冷たく言います。

「仲間割れ?」
「そうだ、シャバア――もう1人の方がそう言っとった」
「なるほど、で、ドララは一緒にその、シャバアってのと町を壊したと言ったんですか?」

「それは……」

 ジョーンズは何も言わずサイ署長を見たまま、つづきを待ちます。

「……ドララはワシらの決定に従うとしか言わんのだよ」
「だったら、オレの言ったとおりにしてもいいじゃないですか?」
「そうはいかん」
「どうしてです?」
「悪いことをしたことのない悪魔など、この世には存在はしないだろう」
「それは……」
「悪魔は悪魔、それだけで裁かれる理由になる」
 サイ署長はやけに苦い表情でそう言い放ちました。

「そんなことないわよ!」

 とつぜん、女性の大声がひびきました。

「誰です?」
 ハト裁判長が聞きました。
 声がした方、ドアが開きました。

「お前……」
 そこにいたのはトリノスサーカスのマジシャン、パンダのエミリでした。
 エミリが会議室に入ってくると、その後ろからぞろぞろと他の団員たちと町のみんなも入ってきました。

 部屋に入りきらないほどつめかけてきていました。

「黙って聞いてたらなによ、好き放題言っちゃって!」
「なんで聞いてるんだよ」

「聞くでしょ!」
 エミリに一喝され、ジョーンズが黙ります。

「大事な会議の場です。お静かに退出してください」
 ハト裁判長はなれたもので、落ち着いた口調で言いました。

「なにが大事な会議よ! なにも決められないクセに」

「やめろ!!」
 ジョーンズが立ち上がってエミリの肩をつかむと乱暴に振り払われてしまいました。

「刑罰? そんなの決まってから考えたらいいじゃない! 無罪に決まったら釈放よ! 無罪なんだから! 経費? 町の一大事なんだからそれぐらい出したらいいじゃない! ああでもない、こうでもないって、先の不安ばっかり気にしてなにも決められてないクセに、なにが大事な会議よ!」

 誰も、なにも言えませんでした。

「あげくのはてに、ドララさんが悪魔だったからってだけで罪に問うなんて、おかしいじゃない!」
「おかしくはない」

「おかしいわよ!」
 サイ署長にすぐに怒鳴り返します。

「ドララさんはいい人よ!」
 同僚であるパンダの団員フィンレイが、泣くエミリの肩をやさしく抱きました。

「いい人なのは……」
 サイ署長はそれだけ言って黙ってしまいます。

「ボクは……」
 フィンレイはエミリを見ます。

「……ボクたちは、ドララさんに助けてもらったんです」
 エミリがフィンレイに手をそえます。

「いまからしたら、悪魔の不思議な力だったんだろうけど……でも、いまのボクがあるのはドララさんが助けてくれたおかげなんです」

「俺もそうさ」
 言ったのはブタの団員デキアテでした。

「ボクもです」
 衣装係のイヌのコナルズが言いました。

「ボクは新春公演のチケットもらったんだ」
 ネズミのオッチが言いました。

 それだけではありませんでした。

「ワシもだ」
「私もよ」
「オレも助けてもらった」
「ボクもボクも!」
 町のみんなが口々にそう言いました。

「事情は知らないわ――」
 エミリはそう言って続けます。

「――むかしどんな悪いことしてたのかも知らない」
「……」

「でも、いまを見てあげたらいいじゃない。みんなを助けてくれたのは事実なんだから。悪魔だからって、そのことを忘れるのはひきょうよ」
 またエミリは泣き出します。

「悪魔は悪魔、それも忘れちゃいけないんだよ。ワシの立場から言えるのはそれだけだ」 

「署長……あなた」
 ハト裁判長があきれたような声を出します。

「立場立場って、そんなに立場が大事なものなの?」
 エミリが聞くと、サイ署長は深いため息をつきます。

「裁判長……」
「なんです?」

「立場ってのはやっかいなもんですな」

「え?」

「ワシも助けてもらったことがあるんですよ」
 サイ署長は困った顔で首を何度も振りました。

「甘いねぇ」
 シャバアはイヤな笑みを浮かべてそう言いました。

 古びた上着とハット、古い騎兵隊のズボンに、穴を縫ったあとがあるブーツをはいています。

 町のはずれ、トリノスサーカスの団員たち、警察署のみんな、それに町のみんながいました。

 シャバアのとなりには、ウマのロデムが2本足で立っています。

「ココで縛り首にしてくれるのかと思ったのによぉ」
「そんなことはしません」
 ハト裁判長が言います。

「いま言った通りです。私たちはあなたを白百合町から追放すると決めました」

「好きな所に行くがいいさ、2度と戻ってくるなよ」
 サイ署長に言われ、シャバアは鼻で笑います。

「それにちゃんとしたがうオレっちだと思うのか?」
「なにぃ?」

「やめなさい」
 ドララが言うとシャバアは1人声を出して笑いました。

「キサマのことはちゃんと他の警察署に連絡済みだからな。悪さしてみろ、こんどこそ塀の中から2度と出てこれんぞ」

 シャバアは、サイ署長の忠告を『ひゅ~~』っと軽い口笛を吹いていなします。

「さっさと失せろ!!」
 サイ署長のこめかみに血管が浮き出ていました。部下の署員があわてて押さえに掛かります。

「ヒャハハ、ホントに縛り首にされる前におさらばするとしようかね」
 ロデムが4足になると、シャバアがその背に乗ります。

「ドララしゃん」
「ロデム、シャバアを頼みましたよ」
「久しぶりなのに、もっとおしゃべりしたかったよぉ」
「おっほっほほ、今度あなただけで来なさい」
 ロデムはさみしそうにうなずきます。

 そうして、町のみんなに背を向け、歩き出し――たかと思うとすぐ立ち止まり、ふり返りました。

「アニさん」
「なんです?」

「勘違いしちゃヤだぜ」
「え?」

「あの時、あの屋上で、アニさんは昔の頃に戻っていたぜ、立派にな」
「……」

「オレっちがちょっと足を引っ張っただけで戻っちまうんだ」

 そして、その場のみんなに言いました。

「そのことお前ら全員、忘れるんじゃねぇぜ。それがオレっちたち悪魔ってもんなんだよ」

 場が、ざわめきます。

 不安を抱いて顔を見合う者もいます。
 その不安は少しずつ大きくなって――

「大丈夫だよ」
 ジョーンズでした。

「ドララさんは、昔の頃に戻っちゃいなかったよ」

「ふふ、そうかい?」
「そうだ。俺たちがいたから、ちょっと引っ張ったからって転んだりしなかったのさ。トリノスサーカスなめんなよ」

「ジョーンズさん……」
 ドララは声をもらします。
 みんなのざわめきが止まります。

「ふん、そうかい」
 シャバアは余裕の笑みを浮かべていました。
 
 そして再び歩き出します。

「アニさん、これはこれでゆかいゆかいだったよ、はっははははははは」
 こちらをふり返りもせずそう言うと、シャバアは1人笑い、今度こそ去っていきました。

 ドララはいつまでも去っていく弟の姿をながめ続けていました。

 そんな2人と、町のみんなにも、太陽は変わりない光をふり注いでいました。

――了

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