step by step.大嫌いな英語。

stay home. よし、英語の学習をしよう!そう思った人も少なくないでしょう。私もその1人だ。一緒に頑張りましょう。

あ、これは「英語が上達する方法」を書いたわけではない。

英語が嫌いで苦手な私の、無理矢理やらざるを得なかった「英語学習」において、印象に残っている英会話の先生のことを思い出したので、ちょっと書いてみる次第です。

70歳近いニュージーランド出身のおじいちゃん先生は、私がただ知っている単語を並べるだけのカタコトの英語を一生懸命聞いてくれて、絶対間違っているのに「完璧だ!」と褒めてくれた。出来ないことを嘆くと「大丈夫、step by step」と何回も言ってくれた。私にとって、英語の文法より大事なことを教えてくれた先生だ。

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英語の教科書の英文を丸暗記すればテストで高得点を貰えた中学・高校に通っていた私は、毎回教科書上のキャラクター同士の英語の会話を丸暗記してはそのまま解答用紙に書き続けたおかげで優秀な成績を修めたらしいく、おバカなのに推薦をもらい、第一志望の大学に入ることが出来てしまった。

案の定、大学の英語の授業には全く付いて行けなかった。授業中に配られる英検1級とTOEFLで出題された英文を、当てられたその場で訳すという授業だった。訳せないと授業点を引かれ、周りの学生から白い目で見られた。何となく、で訳しても、それでは不十分だ、と言われた。

完璧に文章を書かないとマルをもらえない、完璧に訳さないとマルをもらえない。そんな英語が大嫌いになった。

勿論今まで勉強してこなかった自分が圧倒的に悪いのだが、別に英語なんて今後使わないし…と完全に逃げていた。

しかしある時、人生レベルで英会話を避けては通れない場面に直面してしまった。人はこういう時に初めて事の重大性に気付き、やっと後悔する生き物なのである。

やばい。嫌いだけど仕方ない。オンライン英会話も含め、あらゆる情報をかき集め、私はとある、小中学生向けの小さな個人経営の英会話教室に通うことにした。

私の英会話の先生は、いかにも「定年したから好きなことをして余暇を過ごそう」といったような人だった。中国人を奥さんに持つ先生は、挨拶も含め日本語を話しているところを見たことが無い。もしかしたら日本語を話せないかもしれない。

「授業の進め方はあなたが決めていい。テキストを持ち込んでもいいし、私が持っているテキストを使ってもいい。」と先生は言った。私は、「英会話を上達させたい。」と言った。だから私達はいつも、先生自身や私自身話、要は世間話をしてレッスンを進めた。

先生の趣味は絵を描くことと裁縫。いつも自分で縫ったという上品なベストとネクタイを身につけており、新しいものが出来ると見せてくれた。たまに自分で描いたポストカードサイズの絵もプレゼントしてくれた。夫婦でカフェを経営していることも知った。

一方私は、名前の由来や印象に残っている旅行先、夢の話、大学で専攻していた分野の話をした。

大学の話から、「福島の原発についてどう思う?」なんて質問をされたことがあった。上記の通り中学生レベルの単語しか分からない私は、日本語でもスラスラと答えられない高度な質問に、単語を辞書で何回も何回も調べながらカタコトで発言した。

先生はそれを一生懸命理解しようとしてくれた。焦って「えっと、なんだっけ…」と日本語を漏らすと、「slowly」と言ってくれた。

めちゃくちゃな英語でも「完璧だ!」と言い、その後優しく、「こうした方がもっといいよ」 と正しい文法に直して黒板に書いてくれた。

ある日私は、「今まで英語から逃げてきた、全然分からない、上達しない」と嘆いた。勿論カタコトの、一語一語の間が1秒くらい空くくらいのスピードで。

先生は、「大丈夫、段々出来るようになるよ。step by step」と言ってくれた。

私が弱音を吐く度に先生はいつも「step by step」と励ましてくれた。

出来ないことを恥ずかしく思ってはいけない。皆最初は出来ないんだ。完璧な英語を話そうとしないで。step by stepだよ…

ああ、そっか、そうだよね。
今までの私の英語学習は何だったんだろう。

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その後「どうしても避けては通れない道」は英会話のおかげか通過することが出来た。

もしかしたらオンライン英会話の方が短期的に英語が上達したかもしれない。高度なテキストを使ってボキャブラリーも増えたかもしれない。

でも、先生はそんなことよりずっと大切な事を教えてくれた。

先生、お元気ですか。

教室に先生が入ってきて、私を見るなり「今日の髪型いいね」「今日はメガネなのかい?似合ってるよ」「春らしい服だね!」と芸術家らしく褒めてから始まるレッスンが好きでした。

中国拳法を披露してくれたり、なんなら一緒に狭い教室で体を動かしましたね。

私が卒業するとき、社長さんに「あなた達のレッスンはいつも笑い声が聞こえていました」と言われました。

先生。そこから更に数年経って、現在私は割と普通に英語を使う部署に身を置いています。相変わらず英語は苦手だし嫌いですが、オトナになってから「完璧に喋らなくていい」事を学んだ私は、先生のおかげでいくらか自信を持つことが出来ています。

もっともっと成長した姿で先生に会いに行きたいです。



最後まで読んで下さりありがとうございます。いい日になりますように。