アフター

あるバス通りに建つ家

〜ちょっとした違いが大きな違い〜

素材の話が続いたので今日は箸休めで、今日は失礼を承知で、ある家の門構えを妄想でリニュアルした話を書いて見ます。

以下本文です。


「あ〜こうなるよねえ。視線が気になったんだろうね」

その日私は、仕事で初めて訪れた街で打ち合わせを終えて、最寄り駅までのバスを待っていました。そのとき通りの向かいにあったのがこちらのお宅です。築40年くらい? 30年くらいかもしれません。最近ではあまり見ないような緑色の瓦屋根、2階には和風の天窓のようなものもついていてなかなか重厚感のある作りのお宅です。
でもそれなのに、1階の右側の窓を見てください。

ここはおそらくキッチンなのではないかと思うのですが、窓のところにプラスチックの波板(目隠しの)が貼ってあります。キッチンとはいえ、家の表側ですよ! バス通りの結構往来のある表側にいくら視線が気になるからといって、波板を貼っているのです! こういう光景を見ると大変お節介だとはわかっているのですが、私の「門と庭 設計士」としての心がウズウズと動き始めます。 髪型がくしゃくしゃの美人さんを見た美容師さんのような気分かもしれません。

まず妄想を始めました。この窓に波板が貼られるようになるまでの経緯です。

こちらのおたくは道路側が北側になっています。南側に庭を少しでも広く取りたいのできっと道路に寄せて家を建てたのでしょう。こういう配置の場合南側(道路の反対側にはリビングや和室などが来ることが多く、そこにつながるようにダイニング、そして一番北側(道路側)がキッチンになります。王道のレイアウトです。
きっと奥様が
「キッチンは北側なのね。でも明るい方がいいわ」
とか言われたのでしょう。

設計士はキッチンの前に窓を大きめに空けました。

「出窓にすれば、そこにハーブを置いたりできますよ。ハーブは簡単に育ちます。ミントとかバジルなんか、置いてもいいですよ」

ちょっと気が利いた設計士はそんなアドバイスをしたかもしれないです。
こうして明るく、出窓のあるキッチンができました。キッチンは奥様のお城。明るくてハーブも栽培できる。ワクワクしたことでしょう。

完成近くになってふと気付きます

「キッチンが明るいのはいいけど、道路から丸見えだわ。外構屋さんに壁を立ててもらわなくては」

家の工事が終わる3ヶ月くらい前になって外構屋さんがやってきました。最初の打ち合わせの時

「ここにできるだけ高い壁を立ててください。キッチンが丸見えなんです」

真っ先にお願いしました。

「奥様。ここでキッチンの窓を隠そうと思うと2.4mくらいの壁を立てないとなりません。
今考えているブロックは2.1mまでしか積めないんですよ。それにここに2.4mの壁を立てたら明るくするために開けた窓なのに、光が入らなくなってしまいますよ」

外構屋さんがいうのはもっともです。

門構えが立派に見えるように、門柱のところを少し高くして、むしろ、キッチンの前の壁は一段下げるデザインが提案されました。

「キッチンが暗くなっては元も子もないから、仕方ない」

きっと奥さんは妥協されたのでしょう。

あぁ! なんと残念なことでしょう。明るさと目隠しと両立する方法が本当はあったというのに!

2枚目のスケッチを見てください。出窓の下のところは壁にして上部だけ横長の窓にするのです。こういう窓をハイサイドウインドウと言います。これなら、この窓からは北側の柔らかい光が入り、キッチンの手元がちょうど明るくなります。目の高さは壁なので、通りからの視線も気になりません。

憧れのハーブの緑も背景が白い壁の方がぐっと映えて見えます。

でも現実は、中途半端に高いブロックの壁を立ててしまったために、通りからは閉鎖的な印象だし、キッチンは丸見えだし。
キッチンにレースのカーテンをかけたりもしたようですが、どうしても視線が気になったのでしょう。とうとう後から半透明の波板を打ち付けてしまった。

と、こんなところでしょうか。残念です。

ここまで考え始めると私の妄想は止まりません。

「この家は道路に面した所に緑が一本もない。だから鉢植えを置いてるのかしら」

目隠しにもならず、中途半端に高い壁って一体? 確かに侵入防止の効果は多少あるでしょう。
でもそれよりもっと家がカッコよく見える方法があるのに!  

低い花壇を作って、そこに植物を植えてみます。こうすると家の品格が上がって見えるだけでなく、街ゆく人、バスを待つ人の心も癒されます。

「低い花壇では泥棒が入ってしまうのでは?」
いやいや、今のままでも入ろうと思えば悪意のある人なら簡単に入れてしまいます。
壁を乗り越えなくても、左の駐車スペースのところのアコーディオンドア(伸縮する引き戸)はおそらく鍵かけてない方がほとんどなので簡単に開けてそこから入れますし、開かなかったとしても高さが1.2mくらいですから簡単に乗り越えられます。
そもそも今の作りでは防犯対策にはなっていません。
花壇の下草が茂っていれば、一般の人はそこから立ち入ろうとはしませんし、棘のある植物でも植えておけば、多少は防犯効果も増すというものです。
高い壁が立っているよりぐっと明るく素敵な印象になりました。

さて次は、駐車スペースの入り口です。こういう伸縮門扉はその形状から「アコーディオン門扉」と呼ばれます。昔は駐車スペースといえば、これが使われていました。最近は新規で使う方は減ってきています。理由は見た目が殺風景なのと、倒れやすい。倒れやすいから壊れやすい。
というのが主な理由ではないかと思います。
そして何より、割と簡単に侵入できてしまうので、事実上つけた意味がほとんどないのです。
これをつけるくらいなら、いっそオープンにした方が使い勝手も見た目も良いと思います。
特にこちらのおたくは駐車スペースの上にわざわざ瓦の屋根を作っているほどのお宅です。
どうしても、侵入を防ぎたいのならシャッターをつけることをお勧めします。
シャッターの絵を入れてみます。さらに家の風格が上がってきました。

まだまだ妄想が止まりません! そもそもこの門柱や塀に使われているブロックが気になります。これはコンクリートを少し化粧して、石風に見える様に作られた「化粧ブロック」というものなのですが、このブロック、最初は石風に見えて結構格好がいいのですが、数年経つと次第に汚れてきて、洗ってもなかなか汚れが落ちなくなったのでしょう。現在は「味わい」というより「古びた」雰囲気になってきています。

ここは屋根の瓦に合わせた、緑色のタイル貼りにしてみましょう。そしてもう一工夫! 今は道路境界に沿って門柱が立っています。門柱は少し下がった位置にある方が品格が上がるのですが。多分ドアを開けた時に玄関ポーチの前のステップに当たってしまうからこうなったのでしょう。
これも解決できます! 2枚目のスケッチの様に門扉の前に一段ステップを作りました。こうすることで玄関ポーチの前の階段が要らなくなります。門扉はきちんと開けることができました。

その場で気になることを妄想し、後からスケッチにまとめてみました。

勝手にビフォーアフターいかがだったでしょうか?
※これはあくまで、私の考え方ですので、こちらのお宅を否定するものでは決してありません。

また次回どこかの「気になる門構え」の妄想リニュアルのレポートをしますので、お楽しみに。

※もし、ご自宅の門や庭でお悩みがありましたら、お写真とお悩みを送ってくださればこの様な形でお答えしますので、モニターになってくださる方も募集いたします。

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