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2024/03/17(日)の日記「1人時間とバスタイム」

「娘ちゃん、トイレしてから連れてきてー!」

バスルームから、少しくぐもった夫の声がする。
いつもとは違い、今日は夫が、2歳の娘と7歳の息子をお風呂に入れてくれるのだ。

私は久々の1人バスタイムを楽しみに思いながら、娘をトイレに誘った。

「娘ちゃん、お風呂でおしっこ出ちゃうから、トイレでおしっこしようね」
「えー。なんでー?」

お風呂に入る気満々にバスルームのドア前に駆けてきた娘は、不服そうに唇を突き出した。
私はそれに構わずに、バスルームの前にあるトイレを開ける。
子ども用のアンパンマンの便座をトイレの便座の上に乗せた。
アンパンマン好きな娘は、パッと顔を輝かせ、いそいそとズボンとオムツを脱ぎ、アンパンマンのトイレに満足気に座る。
この単純さが可愛く愛おしい2歳児である。

「でなかったー。」
娘は眉間に皺を寄せ、少し考えるような顔をした後、アンパンマンから降りて、向かいにあるバスルームへトコトコ走る。
娘はよくこの表情をする。
眉毛がいつも少し下がり気味で、困ったような顔が通常運転だ。

娘の次は息子がバスルームへ向かった。
娘も息子も、お風呂が大好き。
お湯に浸かると、なかなかあがろうとはしない。

不意に訪れた、1人時間。
それはほんの僅かな時間。
やることは娘と息子の着替えの用意、新しく買った娘の春服の名前書き、布団にシーツをかけたり枕にカバーを付けたり…と、1人時間の充実とは言いがたいものがあるが。
それでも、誰にも邪魔されない1人時間は嬉しいものだ。

「娘ちゃんがあがるよー!」
「マぁマぁー!!!」

あら、いつもより早い。
娘がバスルームからご機嫌で出てきた。

娘のお気に入りのふわふわのバスタオルをひろげると、モチモチでホカホカの娘がバスタオルごと抱きついてくる。
その暖かさと重みが心地よい。
冷えないように急いで体を拭く。
娘はすぐ乾燥して湿疹が出るので、保湿ローションとクリームを全身に塗るのが日課だ。

保湿ローションを手に取り、体に塗る。
「つめたーい。」
娘も小さな手でクリームをペチペチと顔に塗る。
「つめたいねぇ。塗らないとかゆかゆになるよー。」
「かゆかゆ、いやー。」

塗り終わると、すぐにオムツを履かせる。
「オムツ履こうねー。」

すると娘がご機嫌に、ニコニコと私を見上げて言った。
「おしっこしたー。」

「ん?いまなんて?」

「おしっこしたー。」

「いましたの??」

慌てて娘の足元を確認する。
娘は昨日、バスマットの上でおしっこしてしまったのだ。

しかし、バスマットには不自然な濡れはない。
娘の体も濡れてはいない。

ということは、お風呂でのことか?
嫌な予感が脳裏をかすめる。

「娘ちゃん、おしっこ、洗うところでしたの??」
「うん。」
娘はバスルームのドアを指さした。

洗い場でおしっこをしたとして、夫は気がついて娘の体を洗い直しただろうか??

私はこの時、無意識に、嫌な予感に気が付かない振りをして、洗い場おしっこ説を採用していた。

確認のため、バスルームのドアを開ける。
浴槽のお湯に肩までしずめて、何やら楽しげに話していた夫と息子がこちらを見た。
「娘ちゃんおしっこしたらしいけど、おしり流してくれた??」
「え?おしっこ???気が付かなかった。」

洗う前なのか、後なのか??
もやもやと嫌な予感が引っ込めた奥底から湧き上がってくる。

夫が娘に聞く。
「娘ちゃん、おしっこしたの?」
「うん。」
娘が指をさした。
「おしっこしたー。」
指さす先は…。

夫と息子の浸かっている浴槽である。


「娘ちゃん、この中でおしっこしたの?」
恐る恐る浴槽を指さす私に、困ったように下がった眉毛で目を細めて笑う娘。
「うん!」

私は、先程気が付かない振りをして、心の奥底に押し込めた嫌な予感の正体を知った。
浴槽の中でおしっこした説を、私はどうしても信じたくなかったのだ。


だって、今日は一人優雅なバスタイムが私を待っているはずだったのだから。


「顔にお湯つけちゃったよー。」
「だから今日は早く上がるって言ったのかー?」
怒涛の時間が始まった。
夫と息子は、シャワーし直し。
娘も洗い直し。
もちろん、全身に塗りたくったクリームは流れ落ちただろう…。

バタバタと娘と息子を拭いたり、再びクリームを塗ったり、服を着させたり。

そんなこんなのあと、いざ待ちに待った私の一人バスタイムには、空っぽの浴槽が待っていた。

それでも1人のシャワータイムだって特別なのだが。

疲れたけれど笑える本日のバスタイムであった。

良い一日だったな。


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