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ちょっとしたV字回復の経営 #6 ブラックボックス

これはちょっとした規模の赤字の事業部門がV字回復するまでの話。事業の規模としては10億円くらいです。

事業をよく知る中堅社員
この事業をここまで運営してきた中心には10年以上のキャリアを持つ一人の中堅社員Aの存在が大きかった。他部門に異動することもなく、若手時代からこの道一本でやってきて、事業の全ての領域を知る存在だった。

部下は誰もが何かわからないことがあればもちろんA氏に相談し、判断を仰いだ。知識と経験では右に出るものはおらず、上司でさえも運営のほぼ全権を任せていた。

事業のブラックボックス
A氏はここまでの功労者であることは間違いがなかったが、反面問題点もあった。

・上司が口出しできない
この事業では何度か部の責任者が変わっている。その誰もが、この事業に対する知識を持ち合わせておらず、A氏に運営を任せきりだった。そうなるとA氏の判断が事業の判断となり統制が効かない場面が出てきていた。

・営業部との軋轢
A氏は業務が増え、仕事が忙しくなってくると保守的になり、新規の顧客との取引に対して様々な条件や制約を付けることがあった。オファーを断るためのルールだった。これまでなかったルールがA氏の一存で突然生まれ、それが営業の現場を混乱させていた。また、仲の良い営業担当には柔軟な対応をするがそうではない営業担当にはメールも返さない、といった明らかな対応の差があり、事業自体が信頼を失いかけていた。

・成長の限界
全ての判断を行っていたA氏だが、顧客が増えてくると対応しきれなくなり、クレームなどにより顧客を失うことが増えてきた。組織ではなく、A氏個人が対応するキャパに限界が来ていたのか、ある時から増えては減ってを繰り返して結局はA氏個人の目の届く範囲でしか事業が行えなくなっていた。また、経営の数字責任はなかったので膨張状態ができてしまったのも無関係ではない。

このような状況で、会社全体としてこの事業を拡大させようというムードが徐々になくなっていっていた。

<問題点>
・判断には一貫性が無く、現場が混乱していた
・A氏の能力の限界が事業の限界であった
・管理者が丸投げで口出し・指導ができない

この見えない部分を事業のブラックボックスと位置づけ、個人の判断から組織で判断できる体制へと変化させ対応力と社内の信用を取り戻す必要があった。

暗黙知を形式知に
個人の頭の中だけにある知識「暗黙知」を組織として使える知識「形式知」に変えて、組織全体で一貫性をもって取り組むことにした。

ただ、どうやって暗黙知を把握し、形式知とするかはその判断が求められる場面が来ないとわからない。闇雲にルールやマニュアルを作ろうと思っても、個人の頭の中を見ることはできないし、A氏にヒアリングして進めようにも協力を拒む可能性があった。何しろこれまでは自分がルールだった、それを明らかにすることは権限が狭まることを意味する。

しかしここが成長のボトルネックである限り速やかに取り組まなければならない。現場での問題を明らかにし、形式知を増やしていくことが必要だ。

その手段としてA氏の業務範囲を限定した。業務部門、開発部門全てを見ていたA氏を開発部門に専念してもらうことにする。業務部門には新任の責任者を据えた。これにより一時的に対応力が落ちるかもしれない。しかしこれで業務上起きる問題について都度対処してルール化していけば組織力がつく。形式知にする。さらに営業部とも密接に関わるところなので、部外に対してもこれまでとは違った協力体制を示せる。

この時A氏がどのように感じていたかはわからないが、A氏とはこれから先様々なシーンで意見が対立していくことになる。

(つづく)

まとめ
・事業規模が小さいうちは個人の裁量でなんとかなるが、いずれ限界が来る
・現場での判断に「一貫性」が無ければ信用を失う
・暗黙知を形式知に、マニュアル化による組織力をつける

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