神奈川県茅ヶ崎市〜東京都八王子市をつなぐ小さな路線、相模線。
４両編成の電車に乗って茅ヶ崎駅から１駅進むと「北茅ヶ崎」という駅がある。
茅ヶ崎と言えばサザンオールスターズ。でも彼らの曲にあるような華やかな雰囲気はない。
住宅街の中にぽつんと駅舎が立っている。
同じ茅ヶ崎と言えど、海の反対側は全く違う風景が広がる。

「何もないところだと思います。駅ビルもないし、のどか。」
自家製酵母パンJiJi店主の石木さんは言う。
「相模線沿いはごみごみしてないし、神奈川の中にこういう駅があるんだという風景が広がっている。もう少し山側に向かうと、トトロのような景色が広がっているところもあるんですよ。でも自転車を漕げば、茅ヶ崎駅にも海にも行ける。ちょうどいいまちだなと思います。」

自家製酵母パンJiJiは北茅ヶ崎駅から徒歩５分ほどのところにある。小さな川を渡った先にある一軒家ベーカリーだ。そもそも石木さんはなぜパン屋になりたいと思ったのだろうか？
「大学時代、現代美術を専攻していたので何かを作る仕事に就きたいと思っていました。それで卒業後茅ヶ崎駅近くのパン屋で働き、その後鎌倉のKIBIYAベーカリーで働きました。KIBIYAベーカリーの女性オーナーがすごく良い人で、社員同士のチームワークがよくて、お店って楽しいなと思ったんです。」
そこで仕事の楽しさに気付き、いつか独立出来たらいいなぁとぼんやりと思うようになったそうだ。具体的な時期は考えていなかったが、タイミングは突然訪れたと言う。
「この建物、実は祖父の家なんです。祖父が亡くなった時に、この家を継ぐ人がいなくて。その時突然「ここでお店やりたい！」と思ったんですよね。だから祖父の意味を込めて「JiJi」という店名にしました。」

石木さんの作るパンには拘りがある。天然酵母や国産小麦を扱うこと。KIBIYAベーカリーが天然酵母や国産小麦を扱っていたことに影響を受けて、自分のお店を持つなら国産小麦がいいと思っていたそうだ。

「でもKIBIYAベーカリーと同じものを出すのではなく、北茅ヶ崎のまちの人に喜ばれるような、まちの人の日常にあるようなパンを作りたい。メニューはその点を大事に考えています。」

例えば、バターあん塩パン。
桜の時期に桜の酢漬けを乗せたあんぱんを出したらとても人気で、お客様から桜の時期以外にも食べたいと要望があったそうだ。そこでお客様の要望に答えるために、通年で出せる形にしてメニューに加えたと言う。ちなみにパンのあんこは石木さんのお母様の手作りだそうだ。

また、開店当初から人気の商品がチョコ食パン。これは石木さんのお父様考案のメニュー。生地だけでなくチョコフィリングもたっぷり巻き込まれているため、１切れ食べるだけでも贅沢な気分が味わえる１品だ。

「チームで働いていたところから卒業して1人でお店を始めた時、寂しさはありました。でも家族が手伝ってくれたし、お客様も情報をくれたりする。それが楽しくて、１人でやってる感じがしないんですよね。」
独立するまではお客様との接点がなかったけれど、今は接客するのも自分自身。そうするとお客様と話すことになるし、いろんなお客様が来るので会話が楽しいと言う。独立する前と違う形でのチームワークが生まれていると感じた。それにフレンドリーにお話してくださるお客様が多いと言う。そんな風に人との距離が少し近いところも北茅ヶ崎の特徴だそうだ。

最後に今後どういうお店にしていきたいか聞いてみた。
「現状維持が良いです。自分ができる範囲、目を配れる範囲で今いるお客様を大切にしながら生活していきたい。お客さんに喜んでもらうためにパンの種類も季節によって変えていたりして…それができるペースで続けていきたいです。」
自分の作るパンでお客様が喜んでくれること。それが日々のモチベーションに繋がっていると言う。
「私にとってパンを作ることは日常なんです。そこにお客さまが来てくれると楽しい。「あのパンが美味しかったよ」「あのパンまた作る？」とかのやりとりが嬉しいです。「のんびりしたパン屋」と言われるんですけど、それで良いんです。そのペースで進めていきたい。ありがたい環境でお店が出来ていることを嬉しく思っています。」

取材中お店にいらっしゃるお客様にも、にこやかな笑顔で接している石木さん。
そんな石木さんの人柄に惹かれてお店を訪れる方も多いのではないかと感じた。
帰る頃にはおいしいパンだけではなく、人と人の何気ないやりとりの中で生まれるあたたかな気持ちも一緒に持ち帰ることが出来るパン屋だった。

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自家製酵母パン JiJi (ジジ)

JR相模線北茅ヶ崎駅より徒歩約5分
営業時間は10時〜売り切れ次第(15時頃まで)
定休日は日・水・木
※最新情報はinstagramをご確認ください

Instagram：＠jiji.pan.chigasaki

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