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イラストレーターが【選挙ポスター】を絵解きしてみるー2019埼玉県知事選

前回、参議院選挙で選挙ポスターをあれこれ解いてみました。

埼玉県知事選でもやろうと思っていたのですが、腹痛と40度の高熱に見舞われ埼玉まで行く気力(と余裕)を失っていました。
実際現地に行って写真を撮ってきていないので、いろんな方のリンクで失礼します。

それと今回は選挙ポスターだけではなく、大野氏陣営におけるビジュアル制作全般に亘って「絵解き」をしてゆこうと思います。
前も書いたのですが政策的な批判や批評では一切ないことをご理解いただければ幸いです。

ポスターが大きく情勢を動かした?

そもそも体調崩して書くつもりもなかったのに、改めて書こうと思った理由がこちらの弁護士早川氏の記事でした。

どこで逆転したのか。
私は、大野候補の陣営がポスターを貼り変えた辺りからではなかったかと見ている。 選挙戦の序盤のポスターは、候補者とアントニオ猪木氏、上田知事の3人の顔が並んでいる普通のポスターだった。
ちょっと目力が落ちている感じのポスターだったので大してインパクトがなかったが、貼り替えた新しいポスターは、文字だけのポスター。 これではそう大した影響はないのじゃないかな、と思っていたが、どうもこれが案外奏功したようである。

おいおい。
選挙の情勢が最後の2日間で逆転されたって語るのに、ポスターを貼り替えたことがそんなに大きく関わっているのですか?文字だけポスター!?

そしてこちらの記事にも。

大野さんの祖父の大野 元美(おおの もとよし)さんは元川口市長でした。
大野さんも埼玉県川口市の出身でその川口市に対してのアピールがうまくできたのだと思います。
こんなふうに川口市限定で選挙ポスターを作ったりして地元へのアピールをしていました。

川口市限定の選挙ポスター
大野氏陣営、細やかなビジュアル表現をしていたとでもいうのでしょうか。
俄然、興味が湧いてしまったのです。

どんなポスターだったのかを確認ー文字だけポスター

まずは弁護士早川氏の書いていた「文字だけポスター」を探しました。
ポスターだけの画像はなかなか見つからなかったのですが、駅頭活動中に使用された同じものと思われるポスター画像は見つかりました。

「県知事に必要なのは知名度か政策か」がまず最初に目に入る文言です。
ポスターだけ貼ってあったら、正直これだけ見て終わる方も多いと思います。
実はその次に目に入るのが「埼玉県知事選挙8月25日(日)」という情報。
「55歳新人へ一票を」は見逃してしまうかもしれないくらいアピールされていないポスターです。

特定の候補者のポスターというより意見広告みたいに見えませんか。
上のツイッター画像は活動と同時に置いてあるものだから良いとしても
ポスター単体だったら、意見広告くらいの「ラフさ」で見えてしまうと思うんです。

序盤に貼っていたポスターでは大野氏に加え他2名と並んだ割とありがちな(失礼)選挙ポスターだったと思われます。(引用できそうな画像がなかった)

情勢を見ながら自陣営を圧倒的にアピールするよりも
この日に知事選があって知事になるならこんな人がいいよね(あとは考えよう)
って言った方が効果がある、と判断したのだと思われます。

にしても、ほぼ「意見広告」に近いような見せ方で誘導しようと決めるには
ビジュアル表現に対する印象づけや効果に相当信頼がないとできないと思います。

どんなポスターだったのかを確認ー川口限定ポスター

こちらは先の記事に掲載されていたものをそのまま確認。

通常の選挙ポスターの内容に加え
「初地元川口から知事を」「川口生まれ・川口育ち」という内容が加筆されています。まさに地元アピール。

これでなんか変わるのかなぁと思いました。が、少し考えてみると、
自分も同郷の人とか同郷に関わる人に対して親近感を覚えるので
確かに「親近感」という「好意的に受け止めやすくなる」というのは、
選挙にはかなりアドバンテージがあるかもしれません。

これ「川口市限定」なんですよね。
この市内でしか響かないものだということがよくわかっているのでしょう。
埼玉北部で「埼玉県出身」とアピールしていないのが証拠でもあります。
地域が限定されればされるほど、その効果が望めるから。

たかがポスター、だけどここに戦略をしっかり立てているのがわかります。
やっぱり「目で見て入る情報」というものに信頼がある戦略と思われます。

公式キャラクター「もっちゃん」

大野氏の選挙ポスターにも載っているしツイッターアカウントもあるような
大野氏の公式キャラクターが存在します。
その名も「もっちゃん」

正直、ツイッターアカウント見る限り効果があったかどうかは知りません(笑)
ただ実は先の「文字だけポスター」をよく見てみると「大野もとひろ」と書かれていないんです。
この「もっちゃん」が掲載されているだけなのですよね。
キャラクターを介して実在の人物との距離を敢えて作っているんです。

生身の人が「知名度より政策!」なんていうと、ただのdisにしか聞こえないのに
キャラクターがいうと「意見広告」のように捉えることもできます。

自身と意見と有権者の距離の取り方として、介在人であるキャラクターを上手く利用している印象です。
そういった意味で何をどう使えば視覚的にうまく伝わるかがよく考えられていて
「うまい」と思ってしまいます。

視覚的なものに対する大野氏陣営の配慮

いままで3点ポスターやビジュアル表現を解いてきました。

文字だけポスターの効果
川口限定ポスターの効果
キャラクターの言葉による候補者との距離

ああ、ほんとうに視覚に訴えることに対してしっかり配慮しているなと私が感じたのは大野氏のツイッターを見た時でした。
それについて2点挙げてみたいと思います。

1)政策ごとにコピーがある

ツイッターを見ていて政策ごとに画像を作っているんだということにまず驚きました。

確かにまとめた自分の方向性というのは選挙ポスターでもなんでも見れるのだから
わざわざツイッターでまで来てくれた人には細かく話したいところですよね。

それだけであれば
実は対立陣営だった青島氏も同じように政策ごとに画像を作っています。

ただ大変失礼ながら、スマホでツイッターで見ていて、最初パッと見て2つの画像で書いてあることが違うと思っていませんでした。

青島氏は全体的に同じ色調や細かく政策内容を載せていて、メインのキャッチコピーは共通のものを使用しています。
この同じキャッチコピーが「同じこと書いている」と私が思った最大の理由です。
その下にそれぞれの政策のキャッチコピーがあっても、細かい政策内容と同化していて目がいかないのです。
なんなら文字色変わっている詳細内容の方に目がいくのと、詳細内容が細かすぎて読む前に「はい、次」ってTLたぐっていたのが違う内容と気づかない原因でした。

大野氏は政策ひとつひとつのキャッチコピーを大きく載せています。
それぞれの画像で色も変えていて「違うことをツイートしている」というのがすぐにわかりました。
画像のキャッチコピーで何をするかイメージを持ってもらって、投稿内容で詳細が読めるという形を作っていました。

2)途中でリサイズしている

大野氏のツイートを遡ると、実は途中から画像のサイズが変わっているんです。
序盤はスクエアサイズ(正方形)で投稿されています。

インスタでも使えるようにという配慮なのかな?と思って
インスタ覗いてみたのですが、ご本人は特に政策としての投稿はされていないようでした。
ただ応援アカウントがあってそれでは政策のスクエアサイズを使用されています。
インスタだとプロフ画面でのサムネイル表示では、どのサイズで投稿しようがスクエアになるので、スクエアの画面が良いと思われます。

ただツイッターではそのスクエアサイズの画像が途中から消えます。
特に政策をうたった画像に関してはまったく使用されなくなり最初にあげたサイズになります。

なぜこのサイズでの投稿か、といえば画像単体ではなくTLを流れてきた時のサムネイルにしてみるとわかりやすいでしょう。

まずはスクエアサイズ

続いて、リサイズ後の画像

サムネイルの時点で「キャッチコピー」が見えるようにしているんです。
そうすることで、画像をクリックするというのがなくなります。
さらに投稿内容からもキャッチコピーが消えています。
本来見てほしいはずの詳細な政策内容をよりしっかり読めるでしょう。

先ほどの青島氏の画像を敢えてサムネイルで見るとその差は歴然とします。

この小さな文字を読もうと思うか、URLをクリックするでしょうか。

訴えたいことがどう受け手に見えているか?
ものすごく意識的に、意図的に大野氏は設計しているのだと思われます。

ビジュアル表現の分かれ道

大野氏のツイッターの画像がスクエアで投稿されていたのは、8月16日が最後でした。
先に取り上げた川口限定ポスターも「貼り替えた」となっているんですよね。
先に紹介したツイートが8月17日でした。

「文字だけポスター」も弁護士早川氏によれば「貼り替えた」と書かれています。

つまり8日告示で始まった選挙戦で1週間〜10日経って、ビジュアルツールに一斉にテコ入れをしたのではないでしょうか。(想像に過ぎませんが)

ひとつのポスターを貼り替えただけではなく
それ以外も含め訴えるものの優先度、それによってビジュアル面を大幅に練り直していたのです。
前回の参院選の絵解きでも、何を訴えどこで見せより伝えていくかというのが非常に大事なことだと書きました。

政策(コンセプト)を真ん中にして、見る場所のことを考え設計しているか。

それぞれの場所でそれぞれの設計をしっかり見直して練り直したということ。
訴えたいことを、ビジュアル表現に落とし込んだことが、どう伝わっていくかを
設計していくのがデザインだなぁと思いました。

世の中デザインを制するものがビジネスを制すとか言っていても
日本じゃそんなに使われないなぁとか思っていた、しがないフリーランスとしては
もしこういうビジュアル戦略が功を奏したのであれば、とても興味深く思います。

読んでくれてありがとう!心に何か残ったら、こいつにコーヒー奢ってやろう…!的な感じで、よろしくお願いしま〜す。