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木村石鹸的予算の立て方

木村石鹸での予算とか計画の立て方について説明してみます。といっても、どこにもない唯一無二の凄いやり方があるわけではないです。比較的オーソドックスなやり方なので、「そんなの知ってるよ!」「とっくの昔からやってるよ」という方もいらっしゃるかもません。

一時期、木村石鹸では売上を目標にするのをやめたというような話をしてて、メディアにもそう書かれたので、人によっては木村石鹸は目標や予算を立ててない会社と思った方もいるかもしれません。

実は、普通に予算はあります。目標数値/計画も掲げてます。正確に言うと、「売上」を目標数値や、計画を管理していく上での指標としては重要視しなくなった、という感じです。

今、木村石鹸で重視している数値は、MQとf/m比率です。MQもf/m比率も「MQ会計」の概念ですが、会計用語で言うならば「限界利益」と「損益分岐点比率」にあたるでしょうか。ただ、MQ会計を勉強している人なら理解できると思いますが、MQ会計と変動損益計算書はぱっと見は物凄く似てますが、深堀していくとかなり違いがあります。というか、MQ会計の方がより実践的です。ここではMQ会計の説明はしませんが、興味ある方は、こちらの本などを読まれると良いと思います。


最初、大枠の流れを説明

ざっくりと言うとこんなステップになります。

1)目標利益を決める
2)固定費を洗い出す
3)固定費に「投資額」を足す(→必要MQ額)
4)必要MQ額を、どの事業で、どの商品で、どの得意先で、いくらカバーするかをシミュレーションする
5)利益/固定費/MQ/MQ率/売上 で何パターンかの予算をつくる
6)月次の計画表に按分する
7)毎月、前年対比、計画対比で実績を追いかけていく

細かいところを説明していきます。

まず、目標利益額を決める

予算を立てる時、来期いくら営業利益を上げたいかという目標を決めます(MQ会計でのG)。その目標営業利益額は、融資返済に必要な額、内部留保としていくら確保したいか、「来期」のさらに次の翌期にどの程度投資に回したいか、等を考えて、最終は「えいやー」で決めるわけです。

今、年商が1億の会社が、来期営業利益目標1億を掲げるのは、これは流石に無理があります。現実味ある目標を立てることが必ずしも是ではないですが、無謀すぎる目標も意味がないので、ここは経営者が決めるしかないところですね。

ここでは仮に、売上10億、営業利益5,000万の会社があると仮定します。この会社は、「来期」営業利益1億を目指そう、と設定するわけです。

ひとまず、現状から考えて、多少の背伸びはしながらも、到底不可能ではないラインとして稼ぎ出したい営業利益額を決めます。絶対額で設定する方法もあれば、売上の●%みたいな比率から目安を立てる方法でも構わないと思います。いずれにせよ、利益をどれぐらい出したいか出す必要があるのかを考えるところからスタートします。

固定費を定めて、稼ぎ出す必要があるMQを決める

次に、固定費のシミュレーションをします。何を固定費扱いにするかは、会社によって多少異なると思うので、そこを決める必要はありますが、固定費を予算化することは大事です。

後に、固定費には調整が入りますが、最初は、通常の会社オペレーションに必要なもの経費を洗い出して年間予算を決めていきます。ここは数年やるとかなりの精度で予算を組めるようになるはずです。予算と実績でどの項目がどれだけズレたのかを何年間か追いかけると、勘所がつかめてくるので精度は上がります。

木村石鹸でも予算を立て始めた頃は、固定費の予測もかなり大きく外してました。今は高い精度で計画できるようになってます。計画を大きく上回る時もありますが、その場合は、元の計画よりMQや売上が大きく伸びる場合で、対売上やMQに対しての比率は大体計画の範囲内に留まってます。

ここで組む予算は、目標として掲げた営業利益を上げるために必要なことものを考慮したものではありません。ここから、目標営業利益を達成するために、何か今の固定費に予算化されてない、できてないもので必要な要素がないかを考えていくのです。例えば、営業マンを増やそうとか、広告費をもっとかけよう、新商品を投入しようとかね。

必要な固定費に当該年度に投入する「投資額」を設定する

ある程度の固定費ができたら、そこにいくらの投資額をオンするか、何パターンか作ります。投資額とは、その予算年度中に、その予算を達成するために投入する経費です。この時点では、何をするか、その中身までは分からないわけですが、何か投資は必要だろうと計画に組み込んでおきます。

例えば、固定費が年間6億、という予算になったとします。この場合、

パターンA:6億+2500万(投資額)
パターンB:6億+5000万(投資額)
パターンC:6億+7000万(投資額)

みたいな感じで、複数の投資額パターンを作ります。このパターンA~Cで、目標を達成するために必要な「MQ」が導き出されます。

パターンAなら、1億(目標利益)+6億2500万(固定費予算+投資額)=7億2500万

これが稼ぎ出す必要があるMQの総額ということになります。

これを昨年(進行年で達成する見込みの)のMQと較べるわけです。どれぐらい足りないか。基本、予算のMQは昨対(今期)より増えるはずです。

なので、増加分のMQを何でカバーするかを考えます。新規事業なのか、既存事業なのか、既存事業だとしたらどこを伸ばすのか、あるいはどこは伸びないのか、そんなことをシミュレーションしていきます。

もちろん、ある市場やあるお客さまは去年より伸ばすのは厳しい、みたいなこともあるでしょう。その辺もお客さんごとや商品ごとにそれぞれで稼ぎ出すMQを洗い出していって、積み上げでどれぐらいになるか、いくら足りないかを把握していきます。

この作業がかなり重要です。ここでどれだけお客さんや商品のことを考えるいか、施策について考えられるかも、予算を作成する一つの意味だと思うのです。こんな変化の早い時代で、予算なんていらない、計画なんて立ててもすぐ陳腐化するので意味がない、という人もいます。確かに、計画通りに事が進むことはほとんどないです。でも、それでも、商品や得意先の未来について考える、必死に知恵を絞る、という行為は、無意味な行為とは思いません。

必要MQから事業や商品のポートフォリオ、組み合わせを考える

うちの場合だと、ビジネスモデル的には、構造の違う事業が3つあります。それをここでは便宜的に事業①、事業②、事業③としておきます。

事業①のMQ率(限界利益率)は平均40%。
事業②のMQ率はやや高め70%
事業③のMQ率は50%

MQ率とは、限界利益率と同じようなものだと考えてください。

1−(原価(※基本、直接原価)÷売上)×100

です。率は高ければ高いほど、利益は大きくなります。

この辺は、事業の構造によって変わると思いますし、数年事業をやってると、それぞれ年ごとにどんな風に推移してるかは分かると思います。そこから、まずは平均で考えれば良いと思います。後々で、ここを1%改善しよう、ここをもっと伸ばそう、みたいな調整はしますが、便宜的に各事業ごとのMQ率を算出します。だいたいMQ率は事業モデルにかなり依存してます。なので事業ごとのMQでざっくり捉えるのが組み立てやすいのではないでしょうか。

さて、ここから、先程のパターンAのMQ7億2500万を、どんな事業構成で達成するかを逆算していきます。これも何度もシミュレーションしてどういう構成の実現性が高いかを考えます。

■プラン1
事業① MQ:3.5億 → 売上:(3.5億÷0.4=)8.75億
事業② MQ:2.5億 → 売上:(2.5億÷0.7=)3.57億
事業③ MQ:1.25億 → 売上:(1.25億÷0.5=)2.5億

こんな感じで、ざっくり事業ごとに必要MQを各事業に割当てます。MQとMQ率から逆算で売上は出せるので、売上も同時に見ると、どれぐらい伸ばす必要があるのかがより分かりやすくはなるかなと思います。

補足ですが、木村石鹸では売上予算はあってないようなものです。MQが達成できれば良く、売上が低くてもMQ率の高い事業が伸びれば、必要MQ額はカバーできるので。なので、MQから逆算して導き出した売上はあくまでも目安として設定されるものになります。ただ、予算組の際、事業ごとのMQ率がある程度決まってる場合は、事業ごとの売上で見て、トータルのMQを目標MQ額に持っていく方が分かりやすいかなとは思います。

こんな感じでポートフォリオを組んだとすると、売上は14.82億必要となります。数値の組み立ては、対前年までの各事業のMQ率、どの事業をより伸ばせそうか、という嗅覚、どの事業のMQ率はどれだけ改善できそうか、あるいは悪化しそうかという想定、そういったものを注ぎ込んで、何度も何度もシミュレーションしていくと、なんとなくこれってものが見えてきます。

例えば、MQ率が70%ある事業②。上記では売上3.57億となってますが、これを5億まで伸ばせる(伸ばそう)と仮定します。すると、事業②のMQは3.5億になる。つまり、事業①、事業②のMQを1億減らすことができます。

■プラン2
事業① MQ2.8億 → 売上:(2.8億÷0.4=)7億
事業② MQ3.5億 → 売上:(3.5億÷0.7=)5億
事業③ MQ0.95億 → 売上:(0.95億÷0.5=)1.9億

これでもMQは目標の7.25億になります。売上は13.9億です。プラン1だと、14.82億の売上が必要でしたが、プラン2は13.9億です。大きな差ですね。

まぁ、これは事業②をかなり伸ばさないといけないプランになりますが、でも、いくつかの事業の中では伸ばしにくいものもあれば、伸ばしやすいものもあります。どの事業を伸ばすか、どの事業を守るかを、方針として決めておくことも大事です。

これを投資額のパターン①、②、③ごとに作っていきます。

こんな感じの表を作っていく

上記の表は、利益目標は、7000万から2億まで6つのパターンを用意。投資額は①0、②1500万、③3000万、④5000万の4パターン。MQ率は45%から1%刻みで出して必要な売上額を見てます。これは単に全体的な数値のシミュレーションをするために作成している表です。

例えば、利益1.2億で、投資額最小(0)で、MQ率45%なら、売上18億必要になるよね、というような感じで全体の数値の組み合わせで、事業規模を分かりやすく見るために作成しています。

MQ率と絶対額としてのMQ額

上記のシミュレーションでは、事業ごとのMQ率から計算しましたが、本来、MQは「率」ではなく、「絶対額」として見たほうが良いものです。ただ大枠の予算を考えたりする時には、「率」で捉えるほうがわかりやすいし、検討しやすいのでそうしてます。

例えば、現状MQ率が平均40%の事業を、45%まで改善したいと考える場合、5%という率で見てると何も改善策は浮かびません。

MQは、実際には、

商品売価(P)ー 直接原価(V)=マージン (M)
マージン (M) × 数量(Q)= MQ

という式が、いくつもいくつも積み重なって構成されているわけです。会計上集計された「売上」や「原価」等では、実際の改善や施策には繋がりにくくいので、最終は個々の商品の具体的な数値までを見ていくべきです。

この粒度で考えると、Pを上げる、Vを下げる、Qを増やす、ことがMQアップに繋がることはすぐ理解できます。これを商品郡のポートフォリオとして考えていくのです。例えば、ある商品はPを上げられるんではないか、でも、そうするとQはかなり減るなとか、この商品はまだQを増やせるはず。販促費を投入してでも、Qを伸ばそうとか。それぞれ個別に見ながら、全体として、どういう商品ポートフォリオにしていくのが、絶対額としてのMQを挙げられるのかを見ていきます。

僕らはこれを商品ごとにもやるし、得先さんごとにもやるし、事業単位でもやります。

各要素の変化は、他の要素にも影響するので、そこも一緒に考えていく必要があります。Pを上げると、Qは落ちるんではないかとか、Vを下げると品質が悪化するのではないか、それは長期的にはQに影響しないかとか、一つの変数をどうこうするではなく、全部が関係しあってる、影響しあってるということを理解した上で、働きかける要素や方法を考えていきます。これも色んなパターンを検討するのが良いと思います。

何度も言いますが、こういうことを年に1度でもがっつり、しっかりやるというのが、予算そのものや計画そのものより大事なのではないかと、僕は思ってます。事業の解像度を上げるなんて言うと、今風の言い方になってしまいますが、実際に作業をやっていると、見えるものが変わってくる感覚はあります。

こういう作業をしていくと、自然と会社としての戦略とか方針は決まってきます。どの商品を伸ばそうとか、どの事業を伸ばそうとか、そのために何をしようとかですね。色んな角度から、何度も何度もこの数値を変え、あの数字をいじり、みたいなことを繰り返し繰り返し、いくつもパターンを作って検討を繰り返すので、方針みたいなものはかなりクリアにはなるのです。

僕の場合は、毎度毎度、必要なMQをどうやって稼ぎ出すか、で、ほんとにすごく悩みます。大きな方向としては、MQ率の高い事業を伸ばす、ということは当然なんですが、そこに注力しすぎると、別事業が予想外に落ち込んでしまったり、みたいなこともあるので、最終の予算を組み立てるまでにはかなりの時間考えます。

最終、月次の計画に落とし込む
月次で計画/実績を把握してギャップを追う

色んなシミュレーションをして、だいたいの方針や計画が定まったら、それを月次ベースの計画表に落とし込みます。僕らのような業態は12月の売上が他の月より大きく伸びますし、その反動で1月、2月は落ち込む、そんなトレンドがあります。単に1年12ヶ月で割って、月ごとに均等に計画を割り振るでも構わないのかもしれないですが、それをすると月次での数値にかなりの乖離がでてしまい、計画と実績を毎月追いかけていくことの意味も薄れてしまいそうなので、僕らは均等割りではなく、昨年までの実績から各月ごとの割合を算出して、そこから各月の計画数値を割り当てることをしています。

もうこういうシートは使ってない。5年前の予算管理シート。

これは5年前に使ってた月次の予算シートです。この画像では切れてますが、この下には固定費も管理してます。このシートは会社全体の計画だけですが、前年同月、目標、実績を管理していました。実は、今は全体の予算は、Managebordで管理しているので、スプレッドシートやExcelは、個別の事業とか得先さんとか商品ごとの細かい数値を追いかけるのに使ってるぐらいです。

月次で前年対比、目標対比を追いかけていくのは、計画とのギャップを早く把握して、方針の見直しや戦略の再考などをするためです。僕らみたいな経営力の弱い会社では、計画通りに事が進むことの方が稀です。上ブレすることもありますが、大抵は予算未達みたいなことの方が多いわけです。その時にも、当初の予算や計画に執着するのではなく、僕らはすぐ変更をします。予算をいくつかのパターンで持ってたりもするので、パターンを変えることもありますし、そもそもの大元の計画を見直すこともあります。

計画よりも、会社として存続していくための条件の一つである利益を上げる、ということを最重要視するので予算には固執しません。でも、だからといって、数値への執念やこだわりがないかというと、そういうわけでもないです。予算に近づけよう、なんとかならないか、ということには必死で頭を働かせもします。でも、予算に固執しすぎて、もともと描いていた事業モデルがおかしくなったり、社員が疲弊してしまったりしては意味がないなと思ってるので、そこは柔軟にバランスを取らないとと思ってます。この辺の匙加減も、経営の大事なところではないでしょうか。

売上目標をやめる、というのも売上はいくつかの変数の中の一つに過ぎないし、それは他の変数との関係で成り立ってるものだから絶対視しない、という意味でもあります。計画には売上も入ってますが、予算策定のプロセスでも、売上は最後に結果として出てくる1つの数値に過ぎないわけです。

売上何%伸ばす、みたいな目標や計画は成長市場や、スタートアップなどには重要な目標かもしれませんが、一方で、売上そのものや成長率が目的化してしまうことで、会社や事業としておかしな方向に進んでしまうこともあるかなと思います。
ちなみに僕らも自社ブランド事業など、これから伸ばしていこうとしてる事業や、まだまだ伸ばせる余地があると考えてる事業や商品については、MQとかではなく、売上とか成長率を指標として見ていたりもします。

(補足)日次でMQを把握していく
MQ>固定費で利益を把握するメリット

現状、木村石鹸では一応、一日単位で売上、MQがわかるような仕組みにはなってます。最近、システムの調子が悪くて精度に問題がでてきてはいますが、今日いくらのMQが稼ぎ出されたか、今月今日までの累積MQはいくらかがわかります。

これが分かると、だいたい今月の数値の予想ができるんですね。固定費は多少の変動はあれど、計画に近い数値になるので、固定費に対してMQがどれぐらい上回ってるのか、下回ってるのかが分かります。

会計で締めて処理が終わるまでには、どこの会社さんもそこそこ時間はかかると思うんですよね。最終月次の決算書が上がってくるのは、早くても締めてから1週間、2週間ぐらいはかかるところが普通かなと思います。最終締めて決算書が上がるまで、赤字なのか黒字なのか分からない、というのは、やっぱり不安だし、何か対策をとったり、施策を打ったりしていくにも早いに越したことはないわけです。MQベースで把握できるようにしておけば、会計処理が終わらなくとも、だいたいざっくりとは状況は把握できます。あと、MQが蓄積していくことで、あるタイミングで固定費を上回る、あるいは上回らない、という数値把握のイメージは、事業や商品の見方や考え方にも大きく影響を及ぼすと思ってます。

利益が出るという意味は、即ち、MQ > 固定費 ということです。MQは、1つ1つの商品やサービスが販売されるごとに蓄積していくわけです。そしてその蓄積が固定費額を超えると利益になります。このイメージを頭に描いておくと、商品1つあたりのMQの大事さや、数量の大事さ、固定費ラインを下げることの重要性などが直感的に理解できるはずです。いかに日々日々の積み重ねが大事なのかも理解しやすくなるのではないかと思います。

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