2023.5 市井ウォッチ20 老人とIT
シニア女性らの井戸端会議こそが日本の「世間」の縮図である。 これはそのウォッチの記録である。
▼全て失われた・・・(データが)
私は昭和生まれだ。人生80年なら折り返し地点だ。
この職場には昭和生まれしかいない。
私たちが生まれた時、インターネットはおろか、パソコンもケータイも、そんなものは個人宅にはなかった。
電話といえば固定電話(家電)。ビデオはVHS。音楽はカセットテープで聞いた。
ちなみにテレビはちゃんと総天然色(カラー)でした!
・・・そういう人たちが集まったところで、数年に一度、組織の都合で「IT機器の総入れ替え」が行なわれるとどうなるか。
阿 鼻 叫 喚 。
慣れ親しんだあれもこれも、すべてがどこかへ行ってしまった。
あれがない、これがない。仕事に必要なデータにアクセスするショートカットや避難させておいたデータが行方不明。
同時多発的に騒ぎ始めるマダムたち・・・。
出勤している正職員は見て見ぬ振り。触らぬシニアに祟りなしと言わんばかり。
たしかに、デジタル掲示板上には、情報は掲載されている。実際あった。
しかしそこにたどり着けなければ、そしてたどり着いても意味がわからなければ、文字が読めない人々の前に掲げられた高札と同じである。
そしてそこにたどり着けないのがシニアのシニアたるゆえんである。若い人にはそれがわからんのですよ!!!!!
そんな掲示板上に書いた文字情報で、我々がなんとかできるなんて思わないでほしい。(←THE 開き直り)
休日だけの非常勤職員として、週1~2回しか職場に来ない我々シニアを、舐めないでほしい。
本当に、平日の偉い人達にあの様子を見てほしいのだが、1つのことをたった数人のマダムらに説明するだけで、30分くらいかかるのだ。
1人が「何これ?! どうやるの!」と騒ぎ、そこに数名でワーっと押し寄せて「ああでもない、こうでもない」とやり始め、たとえ解決しても、その時トイレに行っていた1人が聞いていなくて「え? 何々?」とまた同じことが始まる。
どうして一度みんなで集まって、分かる人から説明を受ける(あるいは分かった人がみんなを集めて一度に説明する)ことをしないのか。
若者はそう言うだろう。
私も思った。
何万回もイライラした。
これがシニアを雇うということなのか・・・?
でも理由を考えても仕方ないと思った。もうなんていうか・・・そういう生き物なのだ。私も何度か介入しようとしたが諦めた。それこそ無駄な労力だからだ。
カイゼンしようとか、わからん人が集まっても時間無駄になるやろとか、もっとこうしておいてくれたらいいのにーとか、そんなことは思っていないのだ。
むしろ結構楽しそうなのだ。
「そういえば、前もこんなことあったわ~」
「できた~! アハハ。よかったねー!」
しかし、1日が終わってみれば(ものすごい無駄な時間はかかったが、結果的に)仕事には支障ないまでに復活。
単語登録もブックマークも消失したけど、また登録し直せばいい。
失われたものを嘆いてもしょうがない。
操作方法もちょっと変わったけど、また慣れればいい。
▼シニア女性は、意外と、レジリエンス!!!!!!
たしかに、「前はこうだったのに」「前はこれで良かったのに」とあまりに前のことをよく覚えていると、変わった時に、混乱し、哀しみが押し寄せてくる。
「忘れる力」(©鎌田實先生。未読)だ!
私も最近とみに「忘却力」を実感している。
もう何も思い出せない。
若い時、なぜあんなにいろんなことに怒っていたのか。
他人(親とか)を嫌っていたのか。他人が、世界が許せなかったのか。
ぜんぶ忘れかけている。
記憶力が低下するということは、執着も低下することなのかもしれない。
男性は分からないが、意外とシニア”女性”は融通無下に手放せるらしい。
「そんなこともあったなあ~」
「まあ、ええやんか!」
「せやな!」
すごいなと思った。
そういえば彼女たちは、よくオロオロするがイライラはしない。
「イライラ」というのは若者の特権なのかもしれない。
「早くしたい」「なぜこうであるべきなのに、そうじゃないのか」・・・過去と現在、理想と現実を比べられるのが若者だ。
我々シニアはもうどんどん忘却していく。
前のシステムのことは覚えていてもしょうがないから。
仕事のやり方もどんどん変わっていくから。
この忘却力は、政治や社会情勢に適用されるのは、いささか問題があるのだろうが、日常生活や、シニアとやっていく時には結構必要とされる力なのだと思った。
そして、老人とIT問題は、これからの「高齢者にもっと働いてくれ社会」では真面目に考えられるべき問題だと思う。
説明する力、伝える力もますます求められる。キリッ。
(当然、私たちも、もうちょっと読み取る力も磨かねばならないが・・・・・・・)
今週はここまで。
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