難関大の数学入試がモンスター化しました
俺は数強になるためにあらゆる参考書の問題を解いてきた。赤チャート、青チャート。あと何だろう。いろいろ買いすぎて覚えてねぇ。
ただ、正直力がついたのか自分ではよくわからない。俺は考えた末、数強(自称)の博士に訊くことにした。
「数強になるなら、やはりモンスターを倒すのが一番だ」
「博士、話が壮大すぎない?」
「そんなことはない。まあ、実際に見てみればわかる」
博士はそう言って目の前の黒板に何かを書き始めた。
「カズ、ちょっと離れておけ」
「博士、何する気?」
「まあ、いいから」
博士はそう言って何かを唱え始めた。そして次の瞬間、目の前にモンスターが現れた。
「博士! こいつマジのモンスターじゃん! 何なのこれ」
「さっきの問題をモンスター化した」
「なんで!?」
「ほどよい緊張感があった方が力が発揮できると思ってな」
「全然ほどよくない」
しかも普通に強そうじゃん。レベルAって難易度か。問題見る限りそんなに難しくはないけど、「クビックガーディアン」って……。
「カズ、アイテムカードも用意してるから必要なときに使え」
「用意周到だな」
俺が来るの予想してたのか? ま、いいや。とりあえず倒そう。えーと、まずは因数分解だな。てか、カードってどんな感じなんだ?
「無駄にカッコいい!」
これどうすんの? かざせばいいのか? 俺はおそるおそるモンスターの目の前でカードをかざした。
$${ a^3- b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2) }$$
「マジで因数分解された!」
こいつすげぇ!
右辺の217は7・31と、1・217の2パターンに因数分解できる。$${(-7)・(-31) }$$と$${(-1)・(-217) }$$も候補には挙がるけど、この2つはない。
aとbは整数だからその2乗は必ず0より大きい。つまり、$${(a^2+ab+b^2) }$$は正の数で$${ (a-b) }$$も正の数。ということは、
$${ a-b=7 }$$,$${a^2+ab+b^2=31 }$$
$${ a-b=1}$$,$${a^2+ab+b^2=217 }$$
をそれぞれ解けばいいわけだ。まずは一つ目、
$${ (a-b)^2- (a^2+ab+b^2)=49-31 }$$
$${-3ab=18}$$
$${ab=-6}$$
これ、a+bだったら解と係数の関係すんなり使えるんだけど、カードは……あった。
無駄に手が込んでるよな。博士、何になる気だよ。いい歳して中二病説浮上したな。それはともかく、今回は代入して解こう。
$${ a=7+b }$$より、
$${(7+b)b=-6}$$
$${b^2+7b+6=0}$$
$${(b+1)(b+6)=0}$$
$${b=-1,-6}$$
よって、$${(6,-1),(1,-6)}$$
二つ目の式も同じように計算して、$${ab=72}$$だから、$${b^2+b-72=0}$$だ。
$${(b+9)(b-8)=0}$$より、
$${b=-9,8}$$
よって、$${(-8,-9),(9,8)}$$
したがって、題意を満たす整数の組は$${(6,-1),(1,-6),(-8,-9),(9,8)}$$の4つ。
「博士、解けた!」
「その解答をモンスターに見せろ。正解なら敵は消える」
俺は博士の言う通り、解答をモンスターに見せた。途端、モンスターの体が崩れていく。どうやら合っていたらしい。問題が解けたと同時に緊張も解けた。博士は小さく拍手して言う。
「カズ、どうだ。なかなか面白かっただろ」
「確かに面白かったけど、普通に解いた方が楽」
トラウマにでもなったら洒落にならない。
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