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難関大の数学入試がモンスター化しました

 俺は数強になるためにあらゆる参考書の問題を解いてきた。赤チャート、青チャート。あと何だろう。いろいろ買いすぎて覚えてねぇ。
 ただ、正直力がついたのか自分ではよくわからない。俺は考えた末、数強(自称)の博士に訊くことにした。

「数強になるなら、やはりモンスターを倒す 良問を解くのが一番だ」
「博士、話が壮大すぎない?」
「そんなことはない。まあ、実際に見てみればわかる」

 博士はそう言って目の前の黒板に何かを書き始めた。

 $${ a^3- b^3=217 }$$を満たす整数の組(a,b)をすべて求めよ。

京都大学2005年理系第4問

「カズ、ちょっと離れておけ」
「博士、何する気?」
「まあ、いいから」

 博士はそう言って何かを唱え始めた。そして次の瞬間、目の前にモンスターが現れた。

クビックガーディアン(レベルA)

「博士! こいつマジのモンスターじゃん! 何なのこれ」
「さっきの問題をモンスター化した」
「なんで!?」
「ほどよい緊張感があった方が力が発揮できると思ってな」
「全然ほどよくない」

 しかも普通に強そうじゃん。レベルAって難易度か。問題見る限りそんなに難しくはないけど、「クビックガーディアン」って……。

「カズ、アイテムカードも用意してるから必要なときに使え」
「用意周到だな」

 俺が来るの予想してたのか? ま、いいや。とりあえず倒そう 解こう。えーと、まずは因数分解だな。てか、カードってどんな感じなんだ?

「因数の魔法杖」(因数分解)

「無駄にカッコいい!」

 これどうすんの? かざせばいいのか? 俺はおそるおそるモンスターの目の前でカードをかざした。

 $${ a^3- b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2) }$$

「マジで因数分解された!」

 こいつすげぇ! 

 右辺の217は7・31と、1・217の2パターンに因数分解できる。$${(-7)・(-31) }$$と$${(-1)・(-217) }$$も候補には挙がるけど、この2つはない。
 aとbは整数だからその2乗は必ず0より大きい。つまり、$${(a^2+ab+b^2) }$$は正の数で$${ (a-b) }$$も正の数。ということは、

 $${ a-b=7 }$$,$${a^2+ab+b^2=31 }$$
 $${ a-b=1}$$,$${a^2+ab+b^2=217  }$$

 をそれぞれ解けばいいわけだ。まずは一つ目、

 $${ (a-b)^2- (a^2+ab+b^2)=49-31 }$$
 $${-3ab=18}$$
 $${ab=-6}$$

 これ、a+bだったら解と係数の関係すんなり使えるんだけど、カードは……あった。

「公式融合の護符」(解と係数の関係)

 無駄に手が込んでるよな。博士、何になる気だよ。いい歳して中二病説浮上したな。それはともかく、今回は代入して解こう。

 $${ a=7+b }$$より、
 $${(7+b)b=-6}$$
 $${b^2+7b+6=0}$$
 $${(b+1)(b+6)=0}$$
 $${b=-1,-6}$$

 よって、$${(6,-1),(1,-6)}$$

 二つ目の式も同じように計算して、$${ab=72}$$だから、$${b^2+b-72=0}$$だ。
 $${(b+9)(b-8)=0}$$より、
 $${b=-9,8}$$

  よって、$${(-8,-9),(9,8)}$$

 したがって、題意を満たす整数の組は$${(6,-1),(1,-6),(-8,-9),(9,8)}$$の4つ。

「博士、解けた!」
「その解答をモンスターに見せろ。正解なら敵は消える」

 俺は博士の言う通り、解答をモンスターに見せた。途端、モンスターの体が崩れていく。どうやら合っていたらしい。問題が解けたと同時に緊張も解けた。博士は小さく拍手して言う。

「カズ、どうだ。なかなか面白かっただろ」
「確かに面白かったけど、普通に解いた方が楽」

 トラウマにでもなったら洒落にならない。

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