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『シルマリルの物語(最新版)』をまだ読んでない話

地域の図書館には、購入までにはいたらないまでも読むべき本というものがあって、特に『指輪物語』ないしトールキン著を全編通して楽しむための情報収集の場としてはインターネットより手軽で掘り出し物があるかもしれない。なぜなら、インターネットは情報が膨大すぎて手に負えないというのもあるし、自分の検索技術にゆだねられるからなんじゃないかなって。
今回の話は『シルマリルの物語(最新版)』(2023年11月20日発売)を読むのに際し、新たな捉え方が出来ないかと模索する話。


リン・カーター著 荒俣宏訳 『ロード・オブ・ザ・リング「指輪物語」完全読本』を読む

『ロード・オブ・ザ・リング』映画3部作と原作、『ホビット』映画3部作と原作、『シルマリルの物語(新版)』、『指輪物語 追補編』と、トールキンが表した作品内でしかトールキンを知らなかったわたくしは、誰か他人によるトールキン作品講評というものをまず見たことがなかった。(シルマリルの物語による序文などを除く)
「自分がトールキンを読んで作り上げた世界観に新たな視点を入れるのはファンタジー物語を読むにあたっては不必要じゃない?ファンタジーって読み方も自由なものだぞ。」歴史創作物に関しては容赦なく裏どりをしたくなるくせに、トールキンの著作に関しては適当な言い訳をして避けてきた節がある。まるでシングル曲につくミュージックビデオみたいに毛嫌いした。映画だって第三者の視点が存分に入った傑作なのにな。なにせ膨大で不確実でそれらに物語性がないかもしれなくて、とにかく、『シルマリルの物語(新版)』を読んだ時点でお腹がいっぱいだった。この話は今度する。
誰か、トールキン考察のおすすめの本があったら教えてください。

で、空いた時間で地域の図書館に寄った時、ふと映画関連の考察本なんてものがないかなんてふらりと漁ったとき(この時毎週一本、何か映画を観ることにはまっていた。この話も今度する。)この本を見つけたんです。

トールキンの作品に関する主なあらまし、アイデア、時代背景によって構成された当書は、世界の神話・民話など北欧神話くらいしか知らない視界を広げてくれるものだった。

そもそも日本に住む人々がエルフやドワーフに初めて触れるとき、その作品は何だろうか。今は漫画やゲームでもよく出てくる種族の一種ではあるけども、その見た目や出自はそれぞれ変わってくる。人間らしい見た目に近づけているのは半々くらいで、世界的に見ればいわゆるティンカー・ベルのような妖精をエルフとすることもあれば、夜中に靴を直してくれる小人のようなものをドワーフとすることもあったりする。
自分が初めてエルフ・ドワーフを意識したのはジブリの「耳をすませば」なんじゃないかな・・。

『指輪物語』のほうが先に映画化されたためか大人のファンタジーの印象が強いけど、『ホビット』は紛れもなく児童書であるし、『オズの魔法使い』に続き『不思議の国のアリス』などに並ぶ世界的人気を考えれば、トールキンはいわゆる教養の部類ではないかと思う・・んだけど、実際あまり身近にこれらについて会話できる場は少ない。

話を戻すと、当書ではトールキンのネーミングアイデアの源を『古エッダ』から見出していて、ドゥリンからソリン(トーリンおよびソーリン)、ガンダルフも含まれる。ドワーフ小人に関する主なネーミングを『古エッダ』から、そしてエアレンディルやフロドにもそれぞれ神にまつわる出自があり、名前そのものに歴史がこめられているようだ。

「ロード・オブ・ザ・リング」と「ホビット」両三部作のメイキングを観た時に(これもとんでもない時間だった)、アイデアの源をピーター・ジャクソン監督や脚本家チーム、アートチーム、が研究し尽くしているところを追いかけてたが、あくまで映画制作としての話で合って、その水源というものがどこから来たか、それを探るのは非常に・・
途方もなさそうだった。

アラン・リー挿画 瀬田貞二共訳 『「中つ国」のうた』を読む

映画内で歌われるいくつかは特徴的であるものの、その数はあまり多くない。もちろんミュージカル映画ではないから、完璧な演出バランスでおさめられているものなんだろうけど。メイキング映像で観たことには、作曲に対して歌詞の順序入れ替えなどを行って歌い方にも違和感のないような工夫なんかも凝らされていたようで、文章で読むだけとは全く違う。

そのメイキング映像をずーっと観ていると必ず覚える二人がアラン・リー氏とジョン・ハウ氏。見る限りずっとおじいちゃんのこの二人、挿画は最高に尽きる。トールキン作品の挿絵をずっと描き続けた人物が映画製作にかかわっているなんて、今思えば素晴らしいことだったんだなと思う。

翻訳家 田中明子氏で作られた世界観

お恥ずかしながら2021年に亡くなられていたことを『シルマリルの物語(最新版)』の序文で知り、でも特には驚かなかった。お年を召されていたのは知っていたし。それでも、最新版の初版が出る前に亡くなられてしまったことはとても残念だと思う。
英語なんてからっきし、翻訳されたものを読むしかない人間にとっては、丁寧に慎重に訳され、更新され、ほぼ差異なく表現されている日本語版がすべてなので、田中明子さんおよびその編集チームによって世界観が構築されているといっても過言ではない。(翻訳家によって雰囲気変わるしな)
これからまたじっくり読んでひたりたい。
まだそのお仕事を読者が追体験できるのは、残されるものに携わってきた特権だと思うから。

『シルマリルの物語(最新版)』上下巻は、枕もとで開かれるのを待っている。

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