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長編小説『because』 81

 私は彼の胸に頭を預けたまま聞いた。日曜日の昼下がり、彼がどこかから帰ってきた後の事だ。
「あの湯呑みあるじゃない?」
「ここに来る時に買ったやつ?」
「そう」
「それがどうかしたの?」
「なんで、あれを買ったの?」
「え、なんで?」
「うん。なんで?」
「なんでって言われても……気に入ったからだよ」
「気に入ったの?」
「うん。そうだよ」
「なんで気に入ったのよ?」
彼の言葉が止み、視線は自分の胸にもたれ掛かる私の頭に向けられた。
「どうしたの?沙苗さん。そんな事聞いて」
「誤摩化さないでよ。なんで気に入ったのか聞いてるだけじゃない」
「誤摩化してるつもりなんてないけど、なんか変な事聞くなって思ったから」
「どうでもいいのよ、聞く理由なんて。それより、なんで気に入ったのかを私は聞いてるのよ」
「沙苗さんは嫌だったという事?」
「私はそれほど気に入った訳じゃないけど、別に嫌でもない。……先に質問したのは私よ」
「ああ……ごめん」
「それで?」
一瞬固まったように口を閉ざしていた彼が、ゆっくりと口を開く。

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