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あす最終回「僕の大好きな妻!」が問いかけたもの

土曜深夜枠のドラマ「僕の大好きな妻!」が、あす最終回(全八回)を迎える。

エンターテインメント作品で、見た目でわかりにくい大人の発達障害をどう描くか。そのプロセスで、様々な意見が出される。万人が納得する形にはなりにくいことが多い。一方で、大半の当事者が違和感を覚えることになりえる描き方もある。マイノリティを描くことについては、制作側の姿勢が問われることになる。

原作「僕の妻は発達障害」タイトル変更に賛否

ドラマの原作は漫画「僕の妻は発達障害」だった。

ドラマ化のタイトルは「僕の大好きな妻!」となることが今年4月に発表された。

漫画のドラマ化の過程で、ドラマが原作と異なるタイトルになるのはよくあること。

しかしネットやSNSでは、戸惑いの声があった。「発達障害って言葉はタイトルに使っちゃいけないのか?」「発達障害に対する歪んだものを感じる」「配慮せざるを得ないのは認知や理解がまだまだだからか」

ドラマ化企画を立ち上げた東海テレビ制作局の中頭千廣氏は、メディア116のインタビュー(7月12日公開)に対し、「『発達障がいのドラマ』にはしたくなかった。人が生きる上で立ちはだかる困難の一つに、発達障がいがある。今回タイトルから障がい名を排したのにも、そういった意味もある」と答えている。(『僕の大好きな妻!』 ドラマ化の背景とは?制作者に直撃!

だがタイトルから障害名を外したことが、一部には、制作側の意図しない形で受け取られてしまう、ということが起きてしまっていた。

発達障害者と定型発達者は分かり合えるか

タイトル変更には戸惑いの声があった。だが、ドラマ制作においては、東京都自閉症協会や発達障害自助会が運営するNeccoカフェ(「発達カフェ」のモデルとされる)が協力し、当事者の意見が反映された。

「発達障害=エジソンや坂本龍馬などのような歴史の偉人」ではなく、また「発達障害=知花みたいな人」でもなく、様々な特性の当事者がいるということが描かれた。接客業や営業職も含めた職種の幅の広さも提示された。

第四回、発達カフェには、過去の結婚生活の破綻からの屈折が背景にあるのか、「発達障害者と定型発達者は分かり合えない」という主張を強硬に続ける桐島がいた(ここまで強硬に主張するのは当事者でも少数派)。この人物は最終回に再び出てくるもようで、何か変化の兆しが出てくるのかが気になる。

「発達障害者と定型発達者は分かり合えるか」をめぐっては、ネットでも論争になっているのを見かけることがある。

結婚や仕事において、当事者と周囲の相互理解は大きな課題。それが、このドラマを通して問いかけられた。

ドラマでは、発達障害者と周囲の関係は、二項対立にならず、「スペクトラム」があり、曖昧な色合いが混じり合ったものになっていた。

悟と知花の関係は、色々トラブルが起きながらも、愛の力で乗り越えていく、という道で一貫していた。

先述した桐島について、悟は「付き合えない」と戸惑うが、「なぜそういう考えを持っているのか理解したい」という立場を示した。

第五回以降、知花が働くことになるアパレル編では、当事者だけが一方的に社会の「普通」に合わせていくのとは違う道が模索された。

知花は、客の懐に入っていくのがうまく売上に貢献できるが、不注意から商品を落としてしまうことがある、正直に発言しすぎる、暗黙のルールがわかりづらい、聴覚過敏を抱える、という難点があった。

アパレル店の環境には引っかかりがあった。どこか疲弊していて、思考停止しているように感じたからだ。

第六回、店長に「あなたとは働けない」と言われたにもかかわらず「働きたい」と思った知花がとった行動は、仕事を見て覚えるためクビになった店に押しかけたり、店長の子供の看護に家まで押しかけたり、というものだった。

発達障害の人が、相手の都合を考えずに「正しい」と思った信念で行動してしまう、ということはよく言われてきた。「普通」ならこうした行動も抑えるよう指導されるのだが。

知花の行動は、周囲に変化を起こした。

第七回、店長が知花を再び雇うと決め、「売上に貢献できるスタッフを雇うのは当然」「できないところはフォローする」と言い、発達障害に関する本を読んで勉強したりしていた。周囲が少しずつでも変わっていくことは、当事者にとって希望が持てるところだ。

知花の方も、できないことばかり並べて「あれもして、これもして」と配慮ばかり求めるのではなく、どこが良くなかったのかを周囲に尋ねる、具体的な情報を一緒に働く店員に開示する、できないところは自分なりに補うようにする、という描き方になっている。ここも良い。

ただし、最終回の手前では、それでも納得しない店員、知花が抑うつ状態になっていくのが描かれている。どんな着地になるのかが気になるところである。

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