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誰と共にいい社会をつくるか

2010年3月に「結い 2101」の運用・販売を始めて間もなく丸14年になる。この間、独自の視点.で「いい会社」とは何かを探求し、投資し続けてきた。その中で、会社が「いい会社」を目指す上で大切な要素として「人」「共生」「匠」の三つの軸があることは既に書いた。この14年間、この三つの観点から「いい会社」を見続けてきたが、中でも「共生」という軸で量る、会社と会社の外にいる人との関係性、会社と自然・地球環境との関係性は年を追うごとに重要度が高まってきた。今回は、「いい会社」を量る2つ目の着眼点「共生」という視点について書いてみたい。



個社単体で成長する時代から共に価値を共創する時代に


「共生」を量る着眼点として、鎌倉投信は主に、「顧客・取引先」との関係、「地域社会」との関係、「自然・地球環境」との関係が重要だと考えてきました。10年前は、どちらかというと会社が、顧客や取引先、地域社会に一方的に貢献するという印象がありましたが、ここにきて価値を共創するパートナーといった関係に変わってきたように感じます。

会社と自然・地球環境との関係においては、単に地球に優しいでは済まされず、使用する自然資本をプラスにするための取り組みが求められ始めました。この流れは、人権や地球環境、これらに関連するサプライチェーンへの問題意識の高まりと無縁ではないでしょう。

これらは、個社単体で成長する時代から、取引先や顧客、地域などと共に価値を創造し、共に発展する時代への変化を意味していると感じます。言葉を換えると、会社は、一般のESG投資でおこなわれる評価、「顧客や取引先に対する責任、サプライチェーンの問題の有無」などを形式基準で満たすことを超えて、共生における取組みが本業の中心に据えられること、その独自性や社会的影響度に真剣に向き合うことが求められ始めたといえるでしょう。投資をする側も、その点を見極め、伴走・支援することが大切になってきたと感じます。


見えない先を想像する


僕の友人で、世界で少なくとも25万人以上いるといわれている「少年兵」の自立支援や、紛争があった地域の地雷除去などに取組む認定NPO法人テラ・ルネッサンス(本部、京都府京都市)の創設者 鬼丸昌也さんは、いつも僕らにこう語りかけます。
「世界中のあらゆる紛争は、僕らの生活と無縁ではない。世界の紛争、その結果として生まれる貧困の原因の多くはレアメタルなどの資源を巡るもの。その争いの元となる資源を、知らないうちに僕たち自身が使っているかもしれない。世界で起きている様々な問題を他人事にせず、関心を持ち、行動しなくてはならない」、と。世界で起こる全てのことは自分と無縁ではない、他人事であってはならない、ということでしょう。

会社も同じです。会社に関わる人は、会社と直接接点のある社員、取引先、顧客、地域、株主に留まりません。経済活動やサプライチェーンが世界中に広がったことによって、さらに先にいる人、社会や世界、自然の中で起きる(起きている)ことに想像を働かせることが大切になります。サプライチェーンとは、企業が商品(モノやサービス)をつくる上で必要な原材料の調達から商品を顧客に届けるまでの生産・流通プロセスをいい、一般には、サプライヤー(供給者)全体における法令遵守、品質管理、人権尊重、情報開示姿勢などが評価されます。

ところが、経済のグローバル化によって国際分業が進み、サプライチェーンはより広範に、かつ複雑化している中で、その実態を把握することは容易ではありません。しかし、経営者の言動などからサプライチェーンの細部に心を配る経営姿勢を感じることは少なくありません。以前、漢方薬の開発・製造・販売をおこなうツムラ(本社、東京都港区 東証プライム上場)の加藤照和社長と面会した際、漢方の原料となる生薬の産地(主に中国)を自ら訪問し、その実態を把握しながら、農家の生活が不安定になることがないよう配慮している、といった話を伺ったことがあります。中には問屋を通すケースもあるので、100%産地を特定することは難しいかもしれないですが、そうした努力は信頼できると感じたものです。

また、僕の友人で、長野県伊那市に本店を置くケーキ屋さん菓匠Shimizu(非上場)の清水慎一社長から、チョコレートの原料となるカカオの産地に赴き、「ここで働く皆さんのおかげで、こんな美味しいケーキができる」、と同地の原料から作ったケーキをわざわざ届けたという話を聞いたとき、深く感銘を受けたものです。


「共生」の根本命題


こうした事例から大切だと感じることは、「商品づくりに関わるすべての人への眼差し」です。元をたどれば、あらゆる商品の原料は自然から生まれ、どこかの地域で採取され、取引先によって加工・運搬され、自社で商品化されます。そして、顧客に届けられ、使用後は廃棄を含め形を変えて自然へと戻ります。この過程は、自然環境、地域社会、顧客・取引先のつながりそのものです。そう考えると、これらの「共生」によって生まれる価値は、「商品をつくる過程において関係するすべての人、自然や地域社会の豊かさの総和」、といえるでしょう。「共生」にみるサプライチェーンとは、「自然環境」「地域社会」「顧客・取引先」のつながりであり、そのどこにも負の歪みを生じさせない関係づくりへの本気さこそが、「共生」の根本命題なのだと感じます。

そうした本気さを感じさせる「いい会社」の事例をいくつか紹介しましょう。

例えば、プラスチック容器などを製造販売するエフピコ(本社、広島県福山市 東証プライム上場)では、リサイクルの工程で重度の知的障碍を持つ社員が活躍しています。彼らが根気と正確性が求められる仕事に一所懸命に取組むことによって、同社のリサイクルの効率が高まり、本業における競争優位性につながっているのです。同社の障碍者法定雇用率12.5%(2023年3月末時点)という高さもさることながら、難易度の高い重度障碍者の雇用、本業との直結した業務で雇用を生んでいる点を高く評価しています。

さらにエフピコは、自社の商品を供給するスーパーなどにも障碍者雇用のノウハウを提供し、人財の多様性を社会に広めることに注力しています。これによって顧客であるスーパーは、人手不足の中で人財を確保しつつ多様な雇用機会を創出し、スーパーで買い物をする人や社会からの共感や信用を高めているのです。まさに顧客と共に取り組む社会価値の共創の事例です。観るべきポイントは、独自性、質の高さ、本気度であり、さらには個社を超えて、取引先や顧客などとの価値共創につながるか否かです。

また、家庭用石油ファンヒーターや加湿器などを製造販売するダイニチ工業(本社、新潟県新潟市 東証プライム上場)は、部品や原材料を供給する取引先を下請けとは呼びません。価値を共創するパートナーとして協力工場と呼んで対等な取引をおこなっています。例えば、同社が取扱う商品が季節性のものであったとしても、敢えて通年生産をおこなうことで協力企業への発注を安定化させています。同社が在庫リスクを100%負い協力企業には負担をかけることはありません。ここに協力企業と価値を共創するという「本気さ」を感じるのです。

アウトドア用品などを製造販売するスノーピーク(本社、新潟県三条市 東証プライム上場)は、地元の燕三条の職人と共に商品開発をおこなうケースが少なくありません。世界中のファンを魅了する同社の大人気商品、焚火台やペグ(杭)、ダッチオーブンは、何百年にわたって承継され、時とともに洗練されてきた鋳物成型技術や金属加工技術を守る燕三条の職人を大切にしているからこそ共創できた商品といえるでしょう。

これらの例から改めて感じることは、「いい会社」は、「自社の商品やサービスを生み出す過程において、関係するすべての人、自然や地域社会の豊かさの総和」を探求している、ということです。言葉を換えれば、「共生」に求められる視座とは、社内外すべての関係者とともに、どれだけの価値を共創しているか、つまりサプライチェーンではなくバリューチェーン(価値共創力)にある、といえるかもしれません。


「共創」とは


そもそも「共創(Co-Creation)」は、米国ミシガン大学教授C.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミが提唱した概念で、「企業がさまざまなステイクホルダー(全ての関係先)と協動することで、共に新たな価値を創造すること」と定義されます。これは、鎌倉投信の志(経営理念)の中で謳う「和」の精神に通じるものでもあります。近年では、上場企業の統合レポートなどの中で「ステイクホルダーとの価値共創」といった表現をよく見かけるので、随分と一般化したと感じます。

多様なステイクホルダーとの取り組みを、企業活動のリスクや、サプライチェーンにおける問題の有無といったモニタリング的視点で捉えようとすると本質を見誤ります。こうした関係性のマネジメントを、「イノベーションに向けた価値統合のマネジメント」として捉えなくては、企業の本質的価値や持続性を量ることは難しいでしょう。個社を超えたステイクホルダーとのマネジメント力が競争優位性をもたらす時代になっている今、「共生」を量る重要性が一段と高まっていると感じるのです。

次回、「共生」の中の会社と自然・地球環境との対話について書いてみたいと思います。


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