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金融の常識から外れた鎌倉の地、しかも築100年の日本家屋で創業したわけ

「いい会社の玄関は、微笑んでいるかのようだ」ある方のこの言葉はとても印象深く心に刻んでいる。鎌倉投信の本社屋の玄関が微笑んでいるかどうかはわからないが、朝出勤して、お日様の光がきらきらと注ぎ降りるかのようにも感じられる光景をみると、ありがたい気持ちになる。
日本で資産運用会社というと、その多くが金融の中心地「東京」に本社を構える。その中で、鎌倉投信は、なぜ、鎌倉の地を選び、しかも築100年の日本家屋を拠点にしたのか・・・

鎌倉で資産運用会社は成立しない?

鎌倉投信は、JR鎌倉駅から20分ほど歩いた住宅街の隅にあります。かつて源頼朝が父義朝の菩提を弔うために建立した勝長寿院(当時、鶴岡八幡宮、永福寺と共に鎌倉の三大寺社とされた)があった地域で、大御堂ともよばれる場所です。

日本では、運用会社といえば東京に拠点をおくのが常識です。当時、同業者からは、投資家が集う都心から離れた場所で資産運用ビジネスは成り立たないと言われたものです。しかも、本社屋に選んだ建物は、駅前のビルではなく、当時築85年、今では築100年になる日本家屋でした。この家屋を譲り受ける前はしばらく空き家でしたので、床が抜けたり、雨漏りがしたりと、改修工事はそれなりに大変でした。

「なぜ鎌倉?なぜ日本家屋で資産運用なのか?」という質問をよく受けます。一言でいえば、鎌倉投信の価値観や信条を表現しやすい場所を拠点にしようと考えたのです。鎌倉投信は、単にお金をふやすことを目指した運用会社ではありません。よりよいお金の循環を通じて、「いい会社」をふやし、持続的に発展する社会の実現を目指した運用会社です。そうした考えや想いを発信する場所は、東京でもなければ、駅前のビルでもないと感じたのです。

鎌倉には伝統文化や自然があり、武家社会を創ったり日本初のナショナルトラストを発祥させたりするなど、革新的なものを産み出す素地がある場所です。古くからあるものを大切にしながら新しい価値を未来に向かって産み出していく・・・鎌倉を創業の地に選んだのは、こうした価値観を大切にしながら世の中に本当に必要とされる金融を目指す、という覚悟を示したといえるのかもしれません。

家が100年もつには理由がある

本社屋は、地元の工務店さんに修繕してもらいました。今の時代、こうした木造家屋を扱える職人さんがどんどん減っています。焼き瓦を一枚一枚ていねいに直してくれた瓦職人とのやり取りは、今でも鮮明に覚えています。

黒く日焼けした瓦職人は、屋根をながめ、一服たばこを吸いながら僕にこう言いました。「いい屋根を作れば、家は100年くらい保てるよ」と。僕は、「家を100年保たせるいい屋根というのはどういう心構えで作るのですか?」と尋ねました。すると、瓦職人は「そうだな、五つほどある」というのです。

一つ目は、自分の家だと思って心を込めて作ること。
二つ目は、一枚一枚の瓦には個性があるので、それを見極めて組み合わせをよく考えること。こうした小さな仕事を丁寧にできる人は寺社仏閣の大きな屋根を扱うこともできる。
三つ目は、周りの山や植えてある草木、風向きとの調和が大事。
四つ目は、土台をしっかりとつくること。
そして、最後の五つ目は、時として遠くから眺めること。

僕は、この話を聴いた時、100年続く会社経営にそのままあてはまる、と感じたことを覚えています。

会社や顧客に対し自分の家や家族のように誠心誠意を尽くす。“一枚一枚の瓦”は社員一人ひとりにおきかえればわかり易いでしょう。“周りとの調和”とは、ステークホルダーとの関係性、“土台”は経営理念や志、“時として遠くから眺める”とは、時代の流れを俯瞰すること、といえるのではないでしょうか。一つの道を究めた職人から会社経営に通じる大切なことを教わった気がしました。

相互扶助の金融は正にこの場所から芽生えた

会社は、自らの立ち位置を明確にすることがとても大事である。業界におけるポジション(差別性)や本社をどこに構えるのかもまた重要な立ち位置の示し方である。鎌倉投信の場合、この地に本社を構えた時、お金をふやすことだけしか考えていない社員や投資家は近寄ってこなかった。考え方を共有できる社員や投資家に恵まれ、関係性の質が高まったと感じている。

鎌倉時代といえば、武家社会という新たな統治機構をつくっただけではなく、金融を通じて社会や経済が発展した時代でもあります。通貨の統一化が図られたり、手形という制度ができたりしたのもこの時代といわれています。今も残る「無尽」「頼母子講」の原型ができたのも鎌倉時代です。それは、幕末天保時代の大原幽学「先祖株組合(せんぞかぶくみあい)」、二宮尊徳「報徳社」へと繋り、その相互扶助の精神は、会員金融を土台にした信用金庫などへと連綿と受け継がれています。

お互いを支え合うという「結い」の精神に基づいた金融は、正に鎌倉投信があるこの地から生まれたことを考えると、不思議な導きを感じざるを得ません。

不思議といえば、木で作られた日本家屋も同じです。人が住み始めるとどんどん生き返ってくるのがわかるのです。歪みのある窓硝子から見える庭の風景は優しく、今ではとても造ることができない欄間や飾り硝子等、丁寧な職人技がひかります。何よりも自然環境と調和したこの空間にいることで、心が和らぎ感性が研ぎ澄まされます。

ここには、お客様、取引先、社会起業家、会社の経営者、友人や知人等が集います。いつも話が盛り上がり、色々な気づきやアイデアがどんどんでます。何故でしょうか?この「場」には、時間や既成概念に捉われずに想像力をかき立てる何かがあるように感じられるのです。イノベーション、創造力というのはある日突然生まれるものではありません。古くから伝承されてきた技術や地道な努力の積み重ねの上に、既成概念に捉われないアイデアとそれを実践する意思が合わさって生まれるのだと考えています。

築100年になるこの本社屋にはそうした場の力があるように思えてならないのです。

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