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街と匂い

暖かくなってきて湿度が上がると、
季節の風に混ざって色んな街の匂いがする。
私は物心ついた時から商店会に住んでいるから
日々色んな匂いに触れてた。

お肉屋さんのメンチカツが揚がる匂い、
ベランダでおっちゃんが吸ってるタバコの匂い、
クリーニング屋のスチームの匂い、
お茶屋さんの茶葉の匂い、
多分お風呂からする石鹸の匂い…。

街の匂いは、個性とバリエーションがある方がいい。
知らず知らずのうちに、それなりにみんな心が動いてると思う。
焼き鳥のいい匂いがするから一杯飲んじゃおっかなとか、
ほうじ茶のいい香りがするから、珍しく和菓子でも買ってお茶の時間を楽しもうかなとか。

匂いのバリエーションの数だけ、人の行動がある。
森林、潮風、もちろん大自然の中でしか感じられない匂いも好き。
それでもやっぱり地元に帰って来ると、匂いのバリエーションと人の気配に安心する。

街において、気配を感じるということは大事な事だと思う。
どんなに人が住んでいても、そこに居たとしても、
高層ビルだらけで、1階には何も無くて、出勤と帰宅のタイミングだけ人が溢れかえったところで、人々は「大勢のサラリーマンの集団」に見えてしまう。
一人一人に家庭があって、趣味があって、個性があるのに、それはあまりにも勿体無いんじゃないか。

街、建築、イベント、集団、何においても、個人を認識できる規模感は大事だと思う。
背景にならない、個性として街を際立たせる要素は色濃い方がいい。

食と暮らしの香りで出来上がる商店街の匂い、
排気ガスと居酒屋の煙で感じる渋谷の匂い、
古着屋となぜかお洒落な人からするお洒落な匂いで感じる下北沢の匂い、
雨の日の水道橋の坂の街路樹の匂い
このあたりは、何かと記憶にリンクする。

記憶と言うより、当時の感情と言った方が正しいかもしれない。
香りにはプルースト効果というものがある。特定の香りである記憶を思い出す事を言う。嗅覚は視覚や聴覚と違って、脳の記憶や感情を処理する場所に接続されているらしい。

音楽を聴きながら街を歩いていると、匂いと歌詞がリンクして色んな事を思い出す。季節の変わり目は、そんなことを感じやすい。

過去に浸るのはあまり好きでは無いけれど、日常で関わる場所の中に、思い出に残る街は多い方がいい。

実際私のひとり散歩の醍醐味はここにある。

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