日経新聞の広告、「就活で『今日の日経の朝刊一面は?』と聞かれました」エピソードの問題点
最近、日経新聞のFacebook広告で、次のようなものが表示されます。
この広告は、「日経新聞は採用面接でも取り上げられることがあるので、ぜひみなさん購読しましょう!」という意図のものと思われます。
就職差別を助長する広告
この広告には、就職差別にかかわる問題があります。
厚生労働省が公表する「公正な採用選考の基本」には、「採用選考時に配慮すべき事項」として、次のような考え方が示されています。
購読新聞に関する面接での質問は、労働法上で明確に禁止されているわけではないものの、「就職差別につながるおそれ」のある行為として、差し控えるべきものとされています。
「今日の日経の朝刊1面に掲載されていた記事は何ですか?」という質問は、まさに、日経新聞を毎日購読しなければ回答に窮する質問であり、厚労省の示す上記の考え方に反するものです。
この広告から感じた2つのこと
この広告について、全く違う視点から、2つのことを感じました。
Web広告のチェックの甘さ
あくまでも憶測の域を出ませんが、日経新聞がこのような広告を掲載したのは、「Web広告のチェックの甘さ」が大きな要因ではないかと感じます。
厚労省が「就職差別につながるおそれ」を理由に差し控えるように求めている行為を、日経新聞が「社の方針」として推奨することは、なかなか考えがたいものがあります。この広告は、社内のごく一部の担当者のチェックのもとで出稿されたものであるように想像されます。
広告は、新聞の紙面上でも、テレビCMでも、Web広告でも、受領者にとっては、「会社全体の方針が示されている」印象を受けることに変わりはありません。ですから、本来であれば、広告媒体を問わず、「社の方針に反する出稿がないか」を厳重にチェックすべきです。
今回の問題は、「Web広告くらいならば、チェックを厳密にしなくてもかまわない」という日経新聞社内での意識の甘さが招いているのではないかと感じました。
日本的な人材採用の「悪いところ」がまさに現れた広告
最終面接で「今日の日経の朝刊1面に掲載されていた記事は何ですか?」という質問をされた、というのは、おそらくフィクションではなく、現実にあることだと思います。「何の新聞を読んでいるか?」「愛読書は何か?」といった質問を採用面接で実施している企業は、現代でも少なからず存在しているのではないかと想像されます。
「日経新聞を読んでいる人は優秀」というステレオタイプに基づいた採用選考は、まさに、「個性的な価値観・思想を持った人は採用したくない」という、いかにも保守的な発想によるものです。
新卒採用・年功序列が当たり前であったかつての日本社会では、「いかに会社の敷いたレールに沿って働けるか」が採用上重視されていました。会社の方針に合わない個性を持った人は、「使いづらい人材」として、出世コースから外されていました。時代は少しずつ変わりつつありますが、それでも、このような発想をいまだに固持している企業は、少なからず存在します。
しかし、日本がグローバル社会の中で先陣を切っていくためには、「会社の敷いたレールに沿って働くことを重視する考え方」を捨て、「1人1人の個性を発揮できる職場づくりを大切にする考え方」にシフトしていかなければなりません。
今後、世の中は、AIの普及により、「定型性の高い仕事はすべて自動化できる時代」になっていくと予想されます。「これまで社内で培われたやり方どおりに働くこと」は、今後、AIに委ねられ、人の手を離れていくように思います。
そのような時代においては、1人1人が「AIには任せられない仕事」を見つけていく必要があります。それはまさに、「1人1人が自分の個性を発揮して『自分しかできない仕事のやり方』を見つけていくこと」とイコールであるように思います。
(極端な意見ではありますが)「1人1人の個性を発揮できる職場づくりを大切にする考え方」にシフトできない会社は、今後、時代の流れに取り残され、衰退していくように思います。
私が日経新聞のWeb広告を作るならば?
全体を通じて日経新聞社への批判的な内容になってしまいましたが、日経新聞を否定する趣旨では全くありません。日経新聞は、ビジネスにおいて重要な最新情報を中立的・専門的な視点で報道されていて、「購読して損はない」ことは確かです。
日経新聞を高く信頼しているからこそ、就職差別を助長するようなWeb広告が日経新聞から出稿されていたことは、大変残念です。
もし私が日経新聞のWeb広告を作るならば、次のような視点を盛り込みたいと思います。
日経新聞にはビジネスの専門情報がすべて詰まっています
就活で個性を発揮するには幅広い専門知識が必須です
朝の購読習慣だけで就活の成功につながります
Web広告担当者からすれば、「情報を盛り込みすぎると広告上よくない」と感じるかもしれません。ただ、この広告は「日経新聞を毎日購読してくれる人」をターゲットにしています。情報の多い広告を毛嫌いする人は、それよりもはるかに情報量の詰まった日経新聞の購読者にはならないのでは?と思います。
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