yuiichihara825

30歳おんな、編集者

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最近の記事

過去を巡る旅

故あって自分の故郷を巡る旅をしている。 旅、と言うのは大げさで、電車で1時間くらいなんだけど、過去に私がいた場所におもむいて話を聞いて、話をして、自分の思春期を客観的に見つめ直す作業は、苦しい。 思い出す、途轍もないさびしさ。蘇る家庭の悪夢、自分の足で立てなかった頃、ぐらぐらしていて不安で認知が歪んでいた自分はそのまま自分の中にまだいるような気がして、泣きたくなってしまう。なんの解決もされないままなあなあになっているけど、すべての人生って地続きなので過去はなかったことにな

    • 春はたけのこ

      お隣さんちの裏が竹林という立地の実家では、毎年春になるとたけのこをどっさりもらう。 春先のとれたてのたけのこは苦みがなくてとてもおいしい。 こんなたけのこを早々に知ってしまったものだから、私は幼少期から水煮のたけのこを受けつけず、すっかり旬のたけのこしか食べないワガママ女に育ってしまった。 両親は子どもながらに旬の味を感じ取る舌をもった娘が誇らしかったのか、たけのこの季節はよく炊いてくれて、それも穂先のやわらかい部分ばかりよこしてくれたものだった。 東京で暮らすようにな

      • テレビの向こう側

        2014年10月1日、内定式。 某キー局の子会社である版元に内定したわたしは、この日局から天下ってる役員に連れられて同期たちと一緒に局本社に足を踏み入れた。「親会社のことを知っておこう」という建前で、内定者にキー局の華やかな場面を見せてテンション上げてやろうという行事である。こういうところがまたテレビっぽくて少々ズレている気がしなくもないが、そこは出版社に入るくらいにはミーハーなわたしたち、素直にキャッキャとついて行った。 局のエレベーターで早速当時の本社社長、K氏と遭遇

        • いちばん初めの悪はなんだったのか

          3人いる姪っ子(正確には私と姉妹のように育った従姉妹たちの娘)のうち1人だけ私の父を忌避する。まだ1歳なので、生理的なものだと思う。 それを父が「来年からお年玉知らねえぞ! お前はダメだな」とか言っていたので「ダメなわけでないでしょ!!」とキレてしまった。父親のこういうところが本当に嫌いだったし、いまだにそれを注意しない周囲にも軽蔑がある。その筆頭に母がいる。 30代になって、父ではなくて母のことを考える時間が増えた。 母は私を23歳で産んで、右も左もわからないまま旧家で義

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          概念にすがるいきもの

          今年、弟が結婚した。めっちゃめでたい。 相手は性格も頭も顔もいいという非の打ちどころのない方で、弟は一生分の運を使い果たしたと自分で豪語していたけどほんとそうだと思う。彼女に逃げられないように今後もがんばってほしい。 弟の結婚という事態に、わが家の両親はおおいに張りきった。新郎の親が張りきってもしょうがないのだが、彼らからすると「本家長男の結婚」は一大事なのだ。 ちなみに本家とか言っているが、地方都市のただの家に本家もくそもなく、だからなに? って私や弟は思っている。なにがそ

          概念にすがるいきもの

          年末進行とお粥

          今年も年末進行が始まった。 年末進行とは、年末年始で印刷所やら流通やらがストップするのを見越して、夏を過ぎたあたりから徐々に締め切りがまかれていく鬼の進行のこと。だいたいこの時期、私はおなかの調子を悪くする。 忙しいのに、年末に向けて外食が増える。なんとか年内にご飯に行きたいね、という会話が会社の人や友人らと交わされて、お酒を飲む機会が多くなる。出社が増えるからなんとなくランチ外食も増え、そして寒いので予定がない日は家に引きこもって、体は重くなるばかり。こんな体たらくで年末

          年末進行とお粥

          私のなかの反出生主義について

          私のなかには、反出生主義的な思想が少しだけある。ぴったりその思想に寄り添っているとは思わないし、絶対的ではなく、ゆるやかな支持だとは思うけれど、それはもうここ10年ほどは、消えることなく抱き続けている、と思う。 具体的には、生まれてきてしまうこと、そして生きることには必ず苦しみが伴うので、ならば新しい命を生み出すのは残酷な罪なのではないか、という感情があるということ。 苦しいこともあれば楽しいこともあるという反証は成立せず、楽しいことがあるからなんだというのだ、苦しいことなん

          私のなかの反出生主義について

          『鬼滅の刃』ヒットに感じた違和感について

          もはや説明の必要もなく、社会現象として流行している『鬼滅の刃』。そんなに面白いなら、とアニメを2話くらいまで観たけれど、美しすぎる映像と展開していく視点に酔いを起こして物語への没入感が得られず、早々にリタイアした。(これは4Kを採用した大河ドラマ『麒麟がくる』にも言えることで、鮮やかすぎる映像は目に痛いのだ) では原作の漫画なら、と手にとったけれど、これも3巻あたりで主人公・炭治郎の底抜けの真っ直ぐさや正義感についていけずダウン。うーん、なんで流行ってんだろ…と思うまま時が過

          『鬼滅の刃』ヒットに感じた違和感について

          読書感想文のこと

          読書感想文がいちばん好きだった。なんでだろう、と思うけど、今でもそうだけど、感情を言語化していくのが好きなのだ、きっと。言語にして自分の気持ちを確かめたいのだ。だから書くことが好き、というのがまずある。 読書感想文はテストじゃないから、物語の中に、どこまでも好きに踏み込んでいっていい。踏み込んでいった先に、未知の感情との出会いがある。この人はこのとき、どうしてこんなことをしたんだろう。この人の気持ちがわからない。私ならどうするだろう。そうやって物語の中に入っていくと、自分の

          読書感想文のこと