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およそ夏の夕暮れ

前も話したような気がするけれど、最近好きな作家の、気に入った短編をワードに書き写す遊びをしている。
今のところ角田光代を一編、江國香織を一編。
ただ書き写しているだけなのに、自分が気に入ったもの、つまり、書きたい憧れの文章を写経すると、まるで私が書いたように錯覚して得意げな気持ちになれる。
「やだ、うまい」
そりゃあそう。
だって第一線で活躍する作家の文章だ。

しかも自分で創作する時と違い、すでに完成されたものを写すので、タイピングが進む進む。
そりゃあそう。
じんわり胸に沈み込む表現も、思わず過去の気持ちを想起させるような鋭い描写も、たおやかでありながら色香を纏う言葉も、全部自分が一瞬で生み出したような気分に浸れる。

そして写経していると、この言葉やシーンは言い方や描写の仕方を変え、何度も出てくるな。
海や夏が舞台だから、ちょっとした心理描写にもそういう場面で使われやすい単語やイメージを想起させるような(たとえば、流れる、波立つ、じりじりなど)が用いられている気がするな。
と、純粋に娯楽として読書をしていた時には見落としていた細かい仕事にうっとりする。


たまたま角田光代の短編を写し終わった日に呟いたツイートに「角田光代?」とリプライがついた時には心臓がどきりとした。
写した短編とはテーマもモチーフも関係ないし、たかが30字程度のつぶやきだったから。
それに白状すると、神尾葉子の『花より男子』の中で一つだけ気に入っている台詞を私なりに装飾した言葉だったから、結局真似事の言葉を言い当てられたのには変わりなかった。

私はどうやら他人に思い切り影響を受けやすいタイプなのかもしれない。

30字で角田光代らしさを出せていたのか、単なる偶然なのかは分からない。たぶんただの偶然だとは思うけれど。
人は往々にして、偶然の事柄から無理やり共通項を見つけ出したがる生き物だから。

ちなみに私が最近、偶然から勝手に運命めいたものを紡いだのは、私が好きになった男、カラーレンズのサングラスで青を選びがち。です。
そもそも総数10未満のn数は3なので、あるあるにすらしてはならないと思う。
あとは、単純に世の中のカラーレンズサングラスを購入する男、9割青を選ぶという可能性も大いにある。

だから角田光代っぽいと思われたのも、好きになった男がブルーのサングラスをしているのも全部ただの偶然。

サポート…!本当にありがとうございます! うれしいです。心から。