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しゅわしゅわと、17歳の夏

雨がしとしと、空気がじめじめ。

ちょっと気持ちがしょんぼりする梅雨が明けると、夏がやってくる。

毎年、夏が来るたびに思い出すのは、「あの夏」

17歳の、あの夏だ。

はじめての彼氏

高校2年生だったわたしに、生まれてはじめての彼氏ができた。

クラス替えをして、同じクラスになったあのひと。

ちょっとはずかしいけど、わたしのひとめぼれだった。

背が高くて、スッとしてて、横顔がとってもきれいで。

明るくて元気でバレーボールが得意で、彼の周りにはいつも人がいた。

でも、どこか影を感じるところがあって。

柔軟剤の、とってもいいにおいがする彼は、みんなの人気者だった。

彼とは正反対のわたし

一方で、わたしはというと。

人見知りで、みんなの前に立って話すのがこわくて、男の子と話すのが苦手。

引っ込み思案で、とにかく目立たない、おとなしい子だった。

彼のことがすっごく好きだったけど、自分からはぜったいに話しかけられなくて。

何度も何度もがんばったけど、それでもだめだった…。

そんな彼とはじめて話したのが、高校2年生、17歳の、夏だった。

夏のスポーツ大会

わたしの高校では、毎年夏に、スポーツ大会が行われた。

クラスごとに、キックベースやドッジボールなどのチームをつくり、

クラス対抗で戦うものだ。

彼とわたしは、偶然同じチームになった。

とってもうれしくて、心の中でめちゃくちゃ喜んだ。

大会本番、特に会話をすることはなかったけど、近くで彼が楽しんでいる姿を見れるだけで幸せだった。

「よし、わたしもがんばって、彼にいいとこ見せるぞ!」

と、張り切っていたが、運動音痴でスポーツが苦手なわたしはミスを連発…

くやしくて、情けなくって、どうしようもなかったわたしは、ひとり抜け出して泣いていた。

とんとん。

肩をたたかれて、顔をあげると、そこには彼がいた。

びっくりして、声が出ないわたしに、

「なにしてんの?」

って、ちょっとはずかしそうにいう彼は、そりゃあもうめちゃくちゃかっこよかった。

奇跡に違いない

そのあと連絡先を交換し、毎日メールする仲になり、つきあうようになった。

それからは、毎日がキラキラしてた。

毎日が、たのしかった。

授業中に、ふと目があっただけで、心臓がばくはつしそうになった。

彼が、わたしの名前を呼ぶたびに、「ああ、わたしはここに存在してるんだ」と思えた。

勉強も部活もがんばれたし、毎日を生きる、理由になった。

忘れられない、あの夏

放課後、彼の部活の練習がない日は、いつもいっしょに帰った。

わたしも彼も自転車で通っていたので、ふたりで自転車をこいだ。

地元は周りに田んぼしかない田舎だったけど、わたしはこの景色がだいすきだった。

夏のにおいがすきだ。

青い空と白い雲に、田んぼや山々の緑色が映える。

暑くて額を流れる汗も、自転車のスピードで吹く風がそっとぬぐってくれる。

キラキラ輝く太陽よりも、しあわせそうに笑う彼はまぶしかった。

「もっと、家がとおくなればいいのに。」

「ずっとこのまま、つかなきゃいいのに。」

何度も何度も願った。

地元の花火大会で、乾杯

その夏、人生ではじめて浴衣を着て、人生ではじめて男の子といっしょに、花火大会にいった。

会う前からドキドキが止まらなくて、くるしかった。

「まだ高校生だからね」って、彼といっしょにラムネで乾杯。

ビンの中にビー玉が入ったラムネを、きゅぽんって開けて、

カチャンってビンを合わせて「かんぱーい!」

はじめて飲んだラムネは、しゅわしゅわで、口の中ではじけて、あっというまに消えていった。

「いつか、いっしょにビールを飲みたい」と思った。

大人になっても、いっしょに花火大会にいって、今度はビールを飲みたい。

それまでいっしょにいたいし、それからもずっとずっと、いっしょにいたいと、本気で思えた人だった。

叶わなかった願い

大人になったいま、わたしのそばに彼はもういない。

ラムネのように、しゅわしゅわと、音を立てて消えていった。

別れはすごくつらかったけど、そのぶん楽しいことや幸せなことも、たくさんあった。

時間とともに、傷は癒えた。

だけど、夏が来るたびに思い出すのは、「あの夏」だ。

彼といっしょに帰った、あの夏の帰り道。

彼とラムネで乾杯した、花火大会。

縁側で、心地よい風を感じながらアイスをたべて、お昼寝して。

「あの夏」を、精いっぱい生きた。

後悔はたくさんある。

どうしようもないほど、「あの夏」が忘れられないんだ。

今年の夏こそ、ビールで乾杯

いま、わたしには大切な人がいるし、彼のことが本当にだいすきだ。

はじめて飲んだときから、にがくて避けてきたビールだけど、

今年の夏こそ、いままで飲めなかったビールで、乾杯してみようか。

あの夏はラムネで、これからはビールで。

わたしにとって、夏は特別だ。

きっと、「あの夏」は、これからもわたしのこころの中にある。

でも、過去にとらわれたままじゃ、いまを生きることはできない。

いまを生きたい。

いま、この瞬間を、一生懸命に生きたい。

「あの夏」をこころのポケットに大切にしまって、いまを生きよう。

忘れなくていい、ときどき思い出してもいい。

今年の夏は、ビールで乾杯だ。

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