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時間がゆっくり流れる空間

すっかり冷めてしまった紅茶。読み始めた本はキリのよいページまで、あともう少しかかりそうだ。店内にはまだボク以外に1人いるから、長居してごめんなさいという気持ちを誤魔化しながら文章を堪能した。

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友人のストーリーに流れてきた本を落ち着いて読める場所を求めて初めて訪れたカフェは、カウンター席それぞれにドライフラワーが置かれている。店内に入ったときに見つけた右側が壁の席を迷うことなく選んだ。2席隣には、明るい髪色の女性がいた。

大きなクリップが付いた木の板には、紅茶の種類と特徴が書かれた紙が留められていた。1枚目に「期間限定の紅茶」の記載を見つけ、また訪れると感じたボクは、今しか飲めない紅茶を選ぶことにした。サバラカムワ。紅茶に詳しい妻なら知っているのかもしれないが、ボクは黒糖のような香りとか、さつまいもとか、ほどよい渋みといった馴染みのある文字でサバラカムワを選んだ。ガトーショコラは売り切れていたから、チーズケーキを一緒に注文した。

待ち時間に鞄から本を取り出す。目次に「宮澤賢治」を見つけて緊張が走る。タイトルが気になった本で、ボクは内容を知らなかった。奥付きには、1997年発行と書かれている。第一印象はとにかく読みやすい。先週まで内容が頭に入ってこない本を読んでいたせいもあるだろうが、言葉の一つ一つが活き活きしていて、スッーと全身に文章が染み渡っていくような感覚になる。渋みのあるサバラカムワは舌に渋みを残し、食道、胃へ流れていくが、この本の文章はボクにとって、飲みやすく、身体に吸収されていく水のような文章だった。もちろん1度読んだだけでは、理解できていない文章もあるだろうけど、2度、3度読むことが苦に感じない。こんな文章が書けるようになりたいと久しぶりに思った。

ボクは憧れの人の思考に憑依するために、その人がしていることを真似する癖がある。今回の場合だと、本で紹介されていたモーツァルトだ。このnoteもそれを聴きながら書いている。とても優雅な気分になる。今年はホールでピアノ演奏を聴く計画を立てていたから、この本に出会えたことも偶然ではないように思える。

ポットから2杯目のサバラカムワを注いだころに、新しいお客さんが登場した。店員さんがちょうどお店の奥に入っていて、2、3度ベルを小さく鳴らしていたけど反応がない。すると、明るい髪の女性が、「いつも好きな席に座ってくださいと案内してくれるので、座っていていいと思いますよ」と、中川翔子さんのような明るい声で優しく声を掛けていた。髪色だけで、ビビっていたボクを許してください。そして、「すみませ〜ん」と明るい声が店内に響く。奥の方でバタバタと音が聞こえた。店員さんも「すみませ〜ん」と現れた。ボクはこの一連のやり取りで、さらにこのカフェが好きになった。

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ほぼ毎日更新予定。 写真、音楽、本、仕事、家族、日常をテーマに毎日書いています。1行くらいしか書いていない日は、きっと疲れているんだと思い…

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