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観光と趣味と教育と

今日は観光と趣味の話(教育はまた今度に)
インバウンド業界もOTA業界も、体験型アクティビティ、体験型ツアー、アウトドア体験、アウトドアアクティビティ、のことを「観光」とひとくくりにしてしまうような気がする。しかし、自分の意見として、アウトドアツアー業界は「観光」と、一括にはできないと思っている。実際は、大きく「趣味のニーズ」と「観光のニーズ」、そして「教育のニーズ」が条件によって入り乱れた業界だろうと認識している。今日はその話を。

「エメラルドグリーンの海で遊びたい」憧れ

例えば、「沖縄で青い海が見たい」という”観光客”がいるとする。この観光客のニーズが仮に「青い海が見たい」だった場合、青い海が見られれば、ダイビングでも、シュノーケリングでも、カヤックでも、クリアカヤックでも、SUPでも、メガSUPでも、パラセーリングでも、モーターパラグライダーでもなんでもよいわけだ。アクティビティの種類や道具は何でもいい。これを個人的にはアクティビティ業界における”観光”と定義している。

つまり「主たるニーズが、アクティビティや道具には紐付かないもの」これが狭義の”観光”だと思っている。

そう考えると、アウトドアアクティビティも、「観光といえるもの」、「観光といえないもの」に分かれてくる。もちろん観光、非観光で顧客のニーズが違うから、提供するべき価値も違う。

実はここの部分。「アウトドアアクティビティは顧客ニーズの観点から見れば、ひとつではない。」という事実が、日本では大きく見逃されているような気がする。みな口々に「観光」とはいうけれど、観光ではないニーズがあるということを意識したほうがよいと思う。

そもそもなんでこんな細かいことにこだわっているか、というと、「顧客のニーズとは?」という、ごく当たり前の発想をアウトドアアクティビティに当てはめて考えていったとき、顧客のニーズがアクティビティによって、もっといえば、同じアクティビティによっても実は違うのではないか、という疑問にたどり着いたからだ。それはイコール、顧客のニーズについて考えることにもつながっている。たかだか一つの言葉の意味の捉え方の話なのだけど、実は結構本質的なことだと思っている。

「ガイドがやりたいこと」=「顧客が求めていること」?

基本的に、アウトドアアクティビティ業界は、ほとんどが「ガイドがやりたいこと」をツアーにして顧客に提供する。という流れで商品ができている事が多い。ダイビングが好きなインストラクターがダイビングショップを立ち上げる。川下りが好きなラフトガイドがラフティング会社を立ち上げる。基本的には、「ガイド目線」で物事が進んでいく。

しかし、ガイド目線でツアー造成を進めた場合、観光客が求めるニーズとのギャップが課題になってくる。観光客はガイドが好きなアクティビティの世界をまだ知らず、現時点ではそこを求めていないことがほとんどだろうと思う。しかし、ガイドはそこに気が付かずにツアーを造成してしまうことが多い。これがニーズとのギャップだろうと思う。

ガイドが好きなことは、”その道具”がないと成立しないことである。つまりスキーであれば、スキー板がないと成立しないし、ダイビングであれば、レギュレーターがないと成立しないわけだ。

「カッコいいカービングターンを決めたい」

例えば「スノーボードを上手に扱えるようになって、カッコいいカービングターンを決めたい。」と、ある顧客が思ったとする。この顧客が求めていることは、雪遊びをすることでも、雪をみることでもなく、「カッコいいカービングターンを決めること」ただそれだけなわけだ。すると、顧客がガイドに求めることは、自分のスキルを見抜き、癖を見抜いて、最短でカービングターンが決められるようにモチベートし、適切な助言とスキルアップのステップを教えてくれる人、ということになる。こういう人のことを世間一般には、「インストラクター」と呼ぶ。つまり「ガイド」ではないのだ。

インバウンド業界、アウトドア業界、OTA業界では、このスキーやスノーボードも”観光”という括り方をしてしまうが、個人的には、インストラクターと名がつく人に従う体験は、”趣味”だと思っている。

趣味は、上述のように、顧客のニーズが、観光とは違う。だから同じアクティビティ、例えば、ダイビングでも体験ダイビングとファンダイビングは提供価値が全く違う。これを全て混ぜ合わせて考えてしまうと顧客の正確なニーズがつかめないのではないかと思っている。

雪遊びがしたい、青い海がみたい、というお客にとって、スキー板がどうこうとか、レギュレータがどうこう、というのは、正直どうでもよい。青い海が見られて、写真が撮れて、着替えや過ごす時間の中で不快な思いをせずに終えられれば、基本的には口コミに5星がつく。観光客相手の商売は、この部分をいかに深く掘れるかがとても大切になってくる。

現実には、趣味の中でも更に提供価値は細分化されるし、観光の中でも提供価値はさらに細分化される。例えばラフティングの提供価値が「フロー効果による一種のマインドフルネス」であった場合、道具には紐付かないので、観光の一種といえる。しかし、観光の一種でありつつも、知床五湖ハイキングのような対象者の知的好奇心を満たすような観光とはまた提供価値が違う。

観光の中でもアクティビティごと、あるいは同じアクティビティでも提供価値が違うのだ。提供価値というよりは、顧客の中で気持ちや思いに違いがある、という言い方もできるかもしれない。

こういった提供価値の違いは、わざわざ御託を並べなくても、本能的に気がついている人がほとんどだとは思う。

が、予約サイト業界やインバウンド業界、あるいは観光庁、都道府県庁、DMOなどを含めて、空中戦が専門の人達からはあまりこういう話を聞かない。あまり聞かないというよりは全く聞かない。

高付加価値のツアーを造成しよう。と銘打っても、顧客のニーズに思い至らないまま、ビッグデータで課題を解決しようとしても、本質とは随分それてしまうような気がする。

ここでは書ききれなかったけど、教育、もまた、観光と趣味とは違う顧客ニーズがあるにも関わらず広義の”観光”に組み入れられてしまっているセグメントの一つだと思っている。その話はまた別の機会に。



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