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<旅行記>テルメ(温泉)

ルーマニアは,まさにローマ帝国によって作られた国だから,古くからテルマエ(ローマ浴場)があったはずだが,ターキッシュ・ハンマーム(トルコ式蒸し風呂)として今も残るアラブとは異なり,もともと風呂に入る習慣のないゲルマン・スラブ民族だったため,現在は何も残っていない。

しかし,ブカレストの北に車で45分ほど行ったところに,―その周辺には耕作地か耕作されていない土地しかないが―「テルメ」という温水プール施設が最近作られている。かなり簡単に例えて言えば,古くは船橋ヘルスセンター,常磐ハワイアンセンター,八王子サマーランドといった総合レジャー施設のようなものだ。

私は,もともとレジャー施設に関心がないので,今回はまったく期待しないで行ったのだが,意外と全体は非常に現代的な建物となっており,施設も家族用とそれ以外とに別れていて,各年代層が別々に楽しめるようになっている。また,受付も清潔感に溢れていて,まるでディズニーランドにも行くような雰囲気だった。

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私たち老夫婦は,当然家族連れ以外用の施設に入ったのだが,受付でもらった番号の付いたリストバンドがそのまま使用するロッカーのキーになっていた。ただ,これがヨーロッパ式のおおらかさというのか,ロッカーは男女で別れていない。そのため,ロッカーの近くに内側からしか鍵がかからない男女兼用の更衣室があり,ここで水着に着替えるようになっている。

老夫婦も行くような施設だから,当然と言えば当然だが,そこにはビヤ樽のように肥満したおばちゃんたちが,ビキニを着て多数たむろしていた。もちろん,ビール腹を肥やした亭主たちもいるが,この中に入ると,いつも「太りすぎ」,「立派なお腹ね」と言われている私が,まったく普通の健康体に思えてくるから不思議だ。いや,むしろ日本人が痩せすぎなのかも知れない?

水着に着替えてから中に入ると,冬なら少し寒く感じるだろうが,ぬるま湯よりさらに温度を低くした室内の大きな温水プールがあった。とりあえず入ってみたが,適度な水深もあって,小さな子供が遊ぶようなところではないためか,水は比較的綺麗だった。

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次に,屋外にある温水プールに移動した。夏という季節もあり,こちらの方に人はより多くいた。私は,その中に潜り込み,ジャグジーに入って,痛めている腰をマッサージした。金髪や茶髪の人たちの中に一人だけのアジア人としているが,なぜか違和感がなく馴染んでいる。

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ジャグジーから上がった後しばらく,デッキチェアに寝転びつつ,近くのレストランでビールを買って飲む。近くに,海も山も見えないが,ちょっとしたバカンス気分だ。

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ランチタイムが来たので,大きなレストランで食事をする。こういうときは,奥様がいつも主導権を握っているので,奥様が食べたいという,巻き寿司,焼いたチキンなどを買ってきて,分けて食べる。美しい夫婦愛?いやいや,私はイモ(フレンチフライ,マッシュドポテト,ベークドポテトなどなど)とビールさえあれば,それだけで満足なので。

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ランチを食べたレストランの向こうには,人工の砂浜があって,そこにはドリンクスタンドというか,アルコールを売っているカウンターがある。私たちはさらに移動して,またまたビールを飲む。今日何杯目だろうか?

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遠くに見える砂浜のデッキチェアには,ときおりモデルのような体型をした長い金髪の美女が,また同様にモデルが着るような派手な水着で,自らの姿を勝ち誇るごとく見せつけている。人生の最上の年頃を正に謳歌しているのだろう。もう人生の峠をとうに過ぎ去った老人としては,せいぜいこの瞬間を楽しんでください,と遠く過ぎ去った青春時代をおぼろげに回想しながら,つぶやくのがせめてもの抵抗だった。

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その日,何杯目かも忘れたビールを飲み干した後,ロッカーで着替え,カードで支払いを済ませ,タクシーで帰路についた。まるで,小学生の夏休みの絵日記のような夏の一日だった。



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