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<芸術一般>ニジンスキー

昨日少し言及していた、ニジンスキーについて。簡単な解説をすれば、1890年生まれのヴォスラフ・ニジンスキーは、20世紀初頭、世界中に衝撃を与えたディアギレフ率いるロシアバレエ団(背景画ピカソ、音楽ストラビンスキーなど、当時の前衛芸術の集合体でもあった)の花形バレエダンサーとして、アンナ・パヴロヴァとともに、未だに世界最高のバレエダンサーとして歴史に名を残している。

しかし、ニジンスキーはディアギレフとの確執、また生来の精神病傾向から、29歳の時に分裂病(現在の統合失調症)となり、バレエを辞めてアルゼンチンに移住した。そして、60歳の時入院先のロンドンで死んだ。30年の間、発狂したままであったといわれる。

彼の死後、自らを「神」と称した手記が見つかる。狂人のたわいない文章と想像されるかも知れないが、内容は宗教的・啓示的であり、半ば崇高なものすら感じられる。とても、精神が錯乱した人のものとは思われない。いうなれば、「神がニジンスキーの身体を借りて、口述させた」というようなものだ。

ニジンスキーの手記1

ニジンスキーの手記2

ニジンスキーが、その最後の性的な演技によって、パリの社交界をスキャンダルに巻き込んだ「牧神の午後への前奏曲(クロード・ドゥビッシー作)」の写真がある。今でも、世界の著名な男性バレエダンサーは、このニジンスキーの演技を再現しようとするが、私がyoutubeで見た限りでは、何か単純なコピーという印象がぬぐい切れない。ニジンスキーは、この画像だけからでも、身体中から牧羊神(上半身が人で、下半身が雄羊)のあり余る神話的・生物的なエネルギーを発散していることが感じられる。

ニジンスキーの手記5

しかし、ニジンスキーが世界中から名声を集めたのは、その跳躍の凄さだった。まるで、天国へ届くような跳躍であったと証言されている。その写真の一部が、上の画像の右下にある「薔薇の精」のものだ。そして、この彼の跳躍は、普通の跳躍ではなく、両手両足を8の字に交差させている。

この8の字の形は、横にすれば数学の無限大(∞)の記号となる。また、それを自らの尾を飲み込む蛇の形にすれば、錬金術の象徴(ウロボロス)となる。ニジンスキーがそこまで意識してやっていたかはわからないが、もし自然とそうしたのであれば、何か神の啓示があったのではないかとしか思えない。

さらに、右上の写真は、ニジンスキーが49歳の時に、バレエダンサーのセルジュ・リファールがニジンスキーを訪ね、発狂している彼の目の前で「薔薇の精」の跳躍を見せたときに、ニジンスキーが反射的に跳躍したときのものだ。この時は、両手両足は交差していない。

ちなみに、左側の写真はニジンスキーが58歳の亡くなる少し前のものだが、発狂している人の姿と見ればそれまでだが、何か神の声を聞いている預言者の姿にも似ている。

そのニジンスキーが、60歳のときロンドンの病院で亡くなったときのことだ。彼は、ベッドの上で息を引き取る直前に、「薔薇の精」の両手両足を交差する跳躍の姿をしたというのだ。つまり、天国へ行く前に、そのための跳躍の姿勢を自らしたということではないだろうか。

20世紀初頭に、このニジンスキーが出現した。そして、21世紀の今、COVID19に対する世界中の極端に過度な対応により、世界は混乱に陥っている。これは、人類に挑戦する疾病との闘いというより、過剰な反応で自縄自縛に陥っている、現世人類の精神の問題ではないかと思う。

100年後の我々を見て、ニジンスキーはどういう反応をするのだろうか。再び天国へ向かう跳躍を示すのだろうか。または、8の字の記号そのまま、永劫回帰のニヒリズムの世界に耽溺するのだろうか。何か読み取れるものはないかと、私も神(日本精神的に言えば、天)の声に、もし聞こえるのならば、しばらくはじっと耳を傾けてみたい。

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