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Zebras and Companyの代表取締役の退任に当たって 〜感じてきたこと、見えてきたこと〜

 2023年10月2日に、阿座上さん、田淵さんと共同創業したZebras and Company(Z&C)の代表取締役を退任させていただくことになりました。

 このnoteは、主に、これまでZ&Cや陶山に関わっていただいた方に向けて、今回の経営体制の変更や、その背景にある陶山の問題意識・思い・今後の活動についてお伝えできればという趣旨で投稿しています。
(ゼブラ企業・ゼブラムーブメントのより詳しい内容については、ぜひZ&CのWebページをご覧ください。)

 今回、このnoteを書くに当たって、経産省を辞めた時の寄稿も読み返してみました。「三つ子の魂百まで」とはよくいったもので、「"ばかもの"を増やす」、「"よそもの"になる」といった方向性について、自分の性分は何も変わっていないと改めて感じています。

 今回の経営体制の移行では、阿座上さん、田淵さんやその他の方々に大きな負担を掛けるところもありますが、長期的な視点でみた際には、それが社会の為、Z&Cのため、ステークホルダー皆のためになると思っています。
 
 今、自分が見えている景色を言葉にするという意味も込めてこのnoteを書いていますので、ぜひ温かい目でご笑覧ください。


1. 「ゼブラ企業」という考え方に興味を持ったきっかけ

 自分がゼブラ企業という考え方と初めて出会ったのは2018年。田淵さんが、スコールワールドフォーラムという社会起業家のカンファレンスで「ゼブラ企業」という考え方と出会い、そこから紹介を受けたことがきっかけでした。 

 もともと、ベンチャーキャピタル(VC)として活動している際に、創業間もない(場合によっては創業前の)起業家に投資して強力に支援できる「金融」のポテンシャルを強く感じていました。
 事業計画もない起業家に3,000万円を出資したり、自分たちの出資後数年で100億円を超える資金を集めて一気に挑戦の規模が拡大したり。「金融」というものが持つ力を使えば、もっと社会をよくできるのではないか。そんなことを感じていました。

 一方で、既存の金融の課題と限界も同時に感じていました。社会的意義が大きく、経営者も優秀で、収益性が十分にある事業でも、VCとして投資できないことも多く、かつ、日本の非上場企業に投資できる主体はVCやプライベートエクイティ以外はほぼいないという点に課題意識を持つようになりました。
 2017年からSIIF(社会変革推進財団)の活動に携わってインパクト投資の普及促進を行ってきたこともあり、「インパクト投資×新しい金融の交差点」という意味で、「ゼブラ企業」という考え方は自身の課題意識に非常に近いものだなと感じました。

 2019年11月には、田淵さんとともに、「ゼブラ企業」という考え方を提唱したZebras Uniteの支部としてTokyo Zebras Unite(TZU)を共同創設。この考え方を広めていくため、まずはイベントや情報発信を行なっていくことにしました。

 田淵さんがSIIFの仕事の中で出会ったブランディング・クリエイティブのスペシャリストの阿座上さんにもTZUの活動に参画してもらい、ありがたいことに、新聞、雑誌、テレビなどのメディアで数多く取り上げていただくことができ、何もないところから始まった活動が多くの方々のサポートで広がっていく様子に興奮したことを覚えています。

 活動を進めていく中で、ゼブラ企業という考え方を知った社会起業家、老舗企業、地域企業の方などから、「すごく共感した」、「同じような問題意識を感じていた」、「自分たちはゼブラ企業なんだと思った」という嬉しいご連絡をいただきました。
 同時に、「具体的に何をしたら良いか」、「事業を手伝ってくれないか」、「資金調達をサポートして欲しい」といった声もいただき、自分たちには何ができるのだろうと考えるようになりました。

 この動きを加速していくには何をしていったら良いのか、3人で議論した結果、(1)ゼブラ企業への投資・経営支援、(2)そこから抽出した学びの体系化・理論化、(3)仲間を増やしていく協業の推進、(4)ゼブラムーブメントの一層の促進といった活動を行う会社をつくることにしました。
 この活動に共感いただいた5人の素晴らしい支援者に株主になっていただき、2021年3月にZ&Cを共同創業することができました。

2. 事業を進める中での課題意識

 TZUの活動開始から約4年、Z&Cの設立から2年半。様々な経営者、支援者、共感者と議論をしていく中で、自身の問題意識が「金融」のあり方に留まらないことを感じ取っていきました。

 一つは、ゼブラ企業とは、「経営」のあり方であるということ。金融・財務(ファイナンス)は経営のあり方に大きな影響を与えますが、逆にどのような資本を集めるかという意味でも「経営」にまつわる観点を強く意識するようになりました。
 最近の自身の講演では、「ゼブラ企業」とは「経営と金融のあり方を考え直すムーブメント」だと言っており、「経済性と社会性(非財務的観点)の統合、長期的視点、ステークホルダー主義、言行一致」がゼブラ経営の要諦であると言っています。

 たとえば、まさにゼブラ経営と親和性がある業種が鉄道会社。長期的視点で莫大な投資を行い、鉄道を使わない(直接は事業に関わらない)方とも向き合ってまちづくりを行い、どんな沿線にしていきたいか(非財務的観点)と事業としての収益性(財務的観点)を統合的にマネジメントする。インフラ企業として、鉄道会社に求められるのはまさにそうした経営ではないでしょうか。
 そこから一歩進んで、まちづくり、都市経営などもゼブラ経営が求められる領域であり、さらには、大学などの非営利法人、自治体経営、国家経営にも共通するところが多いと感じるようになりました。

 時を同じくして、内閣府の「大学支援フォーラム PEAKS」というプログラムの一環でアドバイザリーにご指名いただき、ある私立大学の経営について議論させていただく機会もいただきました。
 まさに大学などもゼブラ的な経営が必要であり、さらに、研究機関たる大学の特性として、研究者個々人が自律した存在であり、かつ、不確実性が高い「研究」というものに取り組んでいる分、企業の経営よりも難易度が高いといったことも痛感するようになりました。

 くわえて、様々な経営者と出会う中で、ビジネス的な手法がどうしても通じにくいような社会課題にも意識が強く向いていきました。たとえば、貧困対策や公教育の変革、過疎地域での事業など、ビジネス的手法のみでは対応が難しく、フィランソロピーや行政の対応が必要な領域の解像度が上がっていきました。
 こうした領域で活動するゼブラ企業のためには、むしろ、行政・政治の経営やフィランソロピーのあり方が変わっていくことが必要不可欠ではないかと強く感じるようになりました。
(これまでも、ゼブラ企業の推進のために、スタートアップや中小企業の担当部局に働きかけたり、フィランソロピーの方々と話すことは多々ありましたが、それにとどまらず、そもそもの非営利・行政・政治の経営のあり方自体を変えていくことが必要ではないかと感じています)

 引き続き、社会性と経済性を両立するゼブラ企業の推進や、経営と金融の変革は必要であるものの、同時に、まだまだ課題としての認知が広まっていず、探究が進んでいない(改善の余地が大きい)非営利団体・行政・政治の経営変革にも取り組んでいかなければいけないのではないか。
 元々、国家公務員という公共(パブリック)出身の自分だからこそできることもあるのではないか。そんなことを思うようになりました。

共同創業者の阿座上さん、田淵さんと


3. Z&Cの経営体制の移行

 「ゼブラ企業の社会実装」が道半ばであることは事実です。
 一方で、社会性と経済性を両立するゼブラ企業が真に活躍し、より良い社会を実現していくためには、多方面において同様の動きが起こっていくことが必要であると感じています。

 Z&Cには阿座上さん、田淵さんという素晴らしい共同創業者がいるので、Z&Cの経営やゼブラ企業への投資促進は2人に任せていきつつ、自分自身は、よりパブリックな領域に活動の重心を移していった方が社会全体での全体最適に近づくのではないか。
 また、Z&Cという企業の経営を考えた際にも、自分たちとは異なる観点からの意見・アドバイスが入った方が、より良い経営がしていけるのではないか。
 共同創業者3人でそんな議論を行い、今回の経営体制の移行へと至りました。

 今回、Z&Cの社外取締役に、地域のゼブラ企業の経営者であり、私たちの最初の出資先である小林味愛さんに就任していただくことになりました。
 投資事業を行っている方であれば、投資先の経営者が投資元企業の役員に就くことに違和感を感じる方も多いと思います。もちろん、これには狙いがあります。

 Z&Cのビジョンは「優しく健やかで楽しい社会をつくる」というものであり、究極的には全ての人、社会全体が受益者です。一方で、「ゼブラ企業の社会実装」というZ&Cのミッションに照らして考えると、最も直接的な受益者はゼブラ企業の経営者ではないかと考えています。
 Z&Cが、そのミッションに向かった全うな経営ができているのか、それを確認する上でも、ゼブラ企業の経営者からフィードバックを受けることが最も理に適うのではないかと感じています。

 小林さんは、「ゼブラ企業」という考え方に深く共鳴し、また、Z&Cのビジョンやミッションへの理解と共感があります。くわえて、これまでの経験や地域での活動を通じて共同創業者たちには無い視点を数多く持っています。
 彼女がZ&Cの経営陣として加わってくれることで、ゼブラ企業のムーブメントがより多くの方に届いていくと確信しています。

新取締役の小林さんとともに

 私自身は、Z&Cの代表、取締役という立場を離れ、今後は「共同創業者(Co-Founder)」という立場で同社に関わっていきます。
 自分自身は非営利(フィランソロピー)・行政・政治の経営の変革にフォーカスしていき、起業家やゼブラ企業の経営者からZ&Cへの入口(アクセスルート)を確保するという役割や社会課題解決を目指す上でのコラボレーションという観点も踏まえZ&Cの一員として活動していきます。

 この社会を本当に良い意味で発展させていくために、非営利団体、行政、政治、アカデミアなども含めて、クロスセクターで領域横断的に協働を進めていく。
 そんなムーブメントづくりの一歩に、この動きが寄与できたら良いと思っています。

 引き続き、Z&C / 陶山をご支援いただき、より多くの方々とご協働できたら幸いです!
 今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

陶山 祐司




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