【小説】悲しい色やね
瀬戸内の小さな漁師町、寂れた、といってもいいくらいの、場末のスナックの、ぼんやりとした照明に包まれた店内。
黒い大理石のテーブルに頬杖をついて、私は父のカラオケを聴いていた。
父は、歌が上手い。
教員同士のカラオケ大会ではいつも優勝し、どこからどう見てもしょうもないような賞品を、上機嫌でもらって帰ってきていた。
教え子の結婚式に呼ばれても、教師らしい、何か人生の深みのようなものがあるスピーチをするでもなく、ただ毎回のように長渕剛の「乾杯」をリクエストされていたらしい。
父は