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雲の端っこは黒くない~輪郭線は存在しない~

子供の教育には芸術が必要だ
芸術だけが人と違ってなんぼの世界だ
学校教育ではずっと、いかに正解を出すか、しかもいかに早く出すかを競わせてきた。その世界では正解が他の人と違ってはいけなかった。たとえ間違っていても。
でも芸術は違う。

絵の具が線からはみ出すのを心配しなくていい

この言葉は、はらぺこあおむしなどで有名なエリックカール氏の言葉だ。創作の秘密を、子どもたちへの特別授業として披露していたテレビ番組「未来への教室」の中での言葉。
2年ほど前、エリックカール展に行った時に、この動画が上映されていた。その中で特に印象的だったのは、彼の母親の育て方だった。この言葉も、おそらく母親から受け取り、彼の中で熟成させた言葉だろう。何をするのも許してくれた彼の母親。私達はそんな人になれるだろうか。
私はまず、境界線を引くことをやめたらいいと思う。

エリックカール展にて

雲の端っこは黒くない

私が小学校4年生の時、図工の授業で雲の絵を描く授業があった。それぞれ好きな場所で、好きな雲を描く課題。私は当時いじめられっ子で、仲の良い友達もいなかった。ひとりで描くのも目立つことだったので、それを避け、クラスで一番大人しい女の子の隣に座って描いた。その頃の私は、いじめっ子のターゲットになる行為を全て押し殺していた。主体性もなかった。この話はまた今度。
で、クラスで一番大人しいその子が描く絵は、丁寧で、とても素敵だった。その絵の具の塗り方も人と違い、変わっていて、パレットを使わずに絵の具のチューブから絞り出した絵の具を、直接筆につけて、少しずつ少しずつ塗り重ねるという、今考えると、油絵のような塗り方をしていた。図工の先生はそんなことは気にしなかった。あまりの丁寧さに、ずっと見惚れていた私は、自分の作品が仕上がってないことに気がついて、慌てて、まず、黒い絵の具で輪郭をスケッチをした。漫画みたいな屋根と空と雲が描けた。
そして色を塗ろうとしたとき、図工の先生がやってきて、私の絵を見てこう言った。

ゆかさん、雲の端っこは黒くないわよ

私の中で、電気のようなものが走った。私は当時から完全インドア派で、漫画を描くことも好きだった、だから絵は得意なほうだった。図工の成績も良かった。でもこの時、私は、自分に何かが欠けている事に気がついた。
雲の端っこが黒くない。私たちが感じる、物と物との境、つまり輪郭という線は存在しない。例えばあなたの目の前にある何かの物を見てほしい。そのものと空気の境目に、線は存在しない。むしろ、原子が見えるほど拡大したミクロの世界では、そこには揺れ動く粒子があり、かろうじて空気と物体が分かれている。が、間違ってもそこに線はない

絵の具が線からはみ出すのを心配しなくていい。この言葉はとても深い。この場合の線というのは、おそらく下書きの段階で目安で書いている輪郭線ことだと思う、つまり、そこから絵の具がはみ出てもいいということだ。
でも本当は、境界線なんていらない、本当はそんなものはないんだということを子どもたちに伝えようとしているのかもしれない。
親は子に、ここまでは普通、ここまでは OK という境界線を示しがちだ。また、学校では、ここまでできたら何点、ここができなかったらマイナス何点という境界線を示す。その結果、学校教育では子供は境界線をはみ出ないように気を付ける。逆を言えば、境界線までしか頑張らない。どんなにできる子も 100 点以上は取ろうとしない。先にはどんどん進もうとするが、そこで120点を目指したりしない。
そして、それを超えると人と違ってしまうと思われる境界線を、子どもたちは超えたがらない。こうしたら素敵かも!とわくわくしても、人と違うことはやりたがらない。

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