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新卒カードについて思うこと

入社式に出たこともなければ、新入社員研修も受けたことがないし、同期と呼べる存在がいたこともない。アウトローというには弱いけれども、まっとうな道を歩んできたとも言いがたい。
そんなキャリアをさまよってきた社会人6年目のわたしから、もしかしたらいるかもしれない新入社員の読者さまへ、なんの説得力もないメッセージを送ります。



「今の環境が嫌だから」という理由のみで、せっかく入った会社を辞めるべきではない。一度しか使えない新卒カードをみすみす捨てるべきではない。まっさきに強く思うのはそのことです。
かくいうわたしは、新卒で入ったベンチャー企業を3ヶ月で辞めました。本当にどの口が?という感じですが、まあいったん聞いてほしい。

大学4回生のとき、わたしは出版社以外の会社にほとんど応募しませんでした。就活の在り方に強く疑問を抱いていたこと、どうしても出版社に入りたかったことがその理由です。
エントリーした会社すべての選考に落ちたあと、就活浪人する気力がなくて、ご縁のあったIT系のベンチャー企業に入社を決めました。西新宿の会社でした。

当時の社員は自分を含めて5人。もちろん入社式もへったくれもなく、研修と称したビジネス書の講読やデザインソフトの操作の練習をやりつつ、なし崩し的に実務に携わり始めました。
3ヶ月で退社した理由はいくつかありますが、「恋人との同棲資金を貯めるため、とにかく目先の給与を上げたいから」ということがもっとも大きかったです。雇用形態の差もよくわかっていないまま、時給1,700円(たしか)の派遣社員へ転職することを決めました。今度の職場は恵比寿でした。

約1年半後、念願叶って同棲を始めることが決まり、神戸への引越しに伴って退職。4ヶ月ほどの無職期間を経て、次は大阪のコンサル会社で派遣社員として働くことになりました。
1年ほど経って正社員化の話が決まりかけたころ、やっぱりどうしても出版社で働きたくなり、転職活動を始めました。ご縁あって今の会社での採用が決まり、入社してから約1年半が経ちます。なんだかんだでもっとも長く働いている職場になるのだと、今気づきました。

大学の同級生や先輩後輩たちは、みんないわゆる「まっとうな道」を進んでいる人が多いです。大手企業や地元の堅実な企業に入社し、長期間にわたる(お給料の発生する)研修を受け、年に二度ほどのボーナスをもらい、同期と愚痴や悩みを分け合いながら、ひとところで着実にキャリアを築き上げていく。
正直、新卒1〜2年目のころは、そのような働き方に対してまったく何も思わなかったです。むしろ、同世代との人間関係や組織内での処世に無縁であることをラッキーとすら感じていました。
でも、今は少し違います。やや異色ともいえる自分のキャリアに対して(負け惜しみではなく)後悔はひとつもありませんが、大きな切り札となり得た「新卒カード」を使っていたら、はたしてどうなっていただろう。そう夢想することがたまにあります。

就職活動の本格化前。新卒で就職するメリットってなんですか、とゼミの教授に尋ねたことがあります。型にはまったやり方で就活をして、卒業後すぐ組織に揉まれなくったって、あとからいくらでもやり直しはきくのではないか。そのような趣旨の質問だったと思います。
やり直しがきくのはその通りだ、と頷いたあと、彼女は「でもね、会社のお金とノウハウをもって、その企業の人材や社会人にとって必要なことの研修を受けられるのは、やっぱり新卒だからこそなんじゃないかな」と仰いました。
当時は「ふーん」と思っただけでしたが、今となっては首がもげそうなくらい頷いてしまいます。本当に本当にそう。しかもその研修にはお給料が発生するんですよ(2回目)。そんなおいしい話はない。こればっかりは、この先二度とない。

それから、同期っていいなあと思うことも最近になって増えました。わたしには、「同世代かつ同キャリアで、気の置けない同僚」という存在がいたことがありません。
あたりまえですが、仕事の愚痴や悩みをだれかに話す際は、まず業務や人間関係といった前提条件の説明から入ります。その煩わしさなく、気軽に仕事の話をできる相手がいたらどんなにいいだろう、と切に感じます。
かつてはめんどくさそうだと思っていた同期とのコミュニケーションも、堅固な絆を築いていそうな友人たちの様子を見ていると、ちょっと羨ましく思うようになりました。きっと、「入社時から一緒にがんばってきた」という付加価値あってこその関係性なのだと思います。

ここで冒頭の話に戻ります。
会社を辞めるのは簡単です。27歳で既に3回も退職経験のあるわたしが言うのだから、ここに関してはかなり信憑性が高いと思います。数万払えば退職代行にも依頼できるこのご時世、辞めようと思えばすぐにでも辞められます。
ただ、一度手放した新卒カードはもう二度と使えません。第二新卒という枠もありますが、選択肢はやはりどうしても新卒時より大幅に狭まります。これはどちらかというと就活生に向けた話だったのでは?と今になって思い始めましたが、とりあえず書き進んでみます。

個人的には、昨今の「嫌なら逃げてもいいんだよ」という風潮が不安でなりません。
会社の雰囲気や仕事内容が思っていたのと違う。研修がだるい。やっていける気がしない。そんな負の感情でいっぱいのところに、「嫌なら辞めてもいいんだよ、なんとかなるもんだよ」といった甘いささやきがあれば、つい身を委ねたくなるのもわかります。でも、辞めたあとの自分の生活は、自分自身で引き受けるしかない。たしかになんとかはなるかもしれませんが、今以上に意に沿わないことをしなければ、生活が立ちゆかなくなる可能性も高いと感じます。
心身の健康を著しく損なう環境であれば一刻も早く逃げるべきですが、そうではないのなら、負の感情のみで会社を辞めるのはやめた方がいい。いつでも辞められるのだから、明確に達成したい目標ができたあとでも、決して遅くはないと思います。



いろいろと偉そうなことを書きました。きらめく(と、今となっては思う)新卒カードを使わずに手放した、いち会社員の戯言です。
でも、たしかになんとかはなりました。この先のキャリアはまったく描けておらず手探りの毎日ですが、あらためて振り返ってみたところ、おぼろげながらも道ができていたことに今は安堵しています。また数年後、同じように思えたらいいな。

ともあれ、自分の稼いだお金で自分の人生の舵を切れる生活は最高です。
大人って長いなーと途方に暮れつつも、どうか楽しみながら働いていけますように。新社会人に幸あれ!

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