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夏の休日

11時過ぎ起床。
身支度をととのえて12時過ぎに家を出て、投票所である近くの小学校へ向かう。

ここ2週間ほどは、ずっと選挙のことが頭の片隅にあった。調べて、考えて、わからなくて、自分の無知さに嫌気が差し、でもここで投げ出したら負けだと思って考えることをやめずにいた。

投票を済ませたあとは、やるべきことをやってやったぞ、という気持ちになった。
正直、100%の自信を持って、今できる最善の選択をしたと言い切ることはできない。でも、選挙期間中に見かけた「ベストではなくベターを選ぶ」という言葉をお守りに、なんとか心を決めたのだった。
絶対にこうあるべきだ、変えるべきだと声を大にして主張できることが、こんなわたしにもいくつかはある。望む未来に近づくと良い。

そのあと、高校時代の友人と待ち合わせ。
のはずが20分ほど遅れるというので、お気に入りの雑貨屋さんに立ち寄った。うっかりピアスとカットソーを買ってしまう。買ったらすぐ身に着けたくなる人間なので、お会計をしたあとそのままピアスを付け替えた。

珍しく寒色のもの。すずらんみたいでかわいい。
手持ちの洋服はほとんど淡色ないし暖色なので、ぱきっと映えるだろうと思う。

友人と合流し、わたしの欲望に付き合ってもらい焼肉へ。ランチメニューもあったけれど、当然のごとく速やかに食べ放題を注文する。

彼女が最近親しくなったという人の話になった。
自分と似ている人だと話すので、どういったところについてそう思うのかと訊くと、「大抵の人には、自分のことを120%話してもだいたい80%くらいしかわかってもらえない。でもその人は、100%話しただけで120%わかってくれるのだ」と言った。
80%の人と話すのもちっとも苦痛ではないし、そういう人と二人でごはんに行っても楽しめるのだという。実際、彼女は社交的で友達が多く、仕事終わりも休日もだいたい人と過ごしている。でもだからこそ、彼のような存在を貴重に思うのだ、というようなことを話していた。
性別年齢を問わず、特に大人になってから、そんな人に出会えるなんてすごいことだと思う。どうか幸福であれ。

ちなみに「あなたは少なくとも100%はわかってくれるような選りすぐりの人としか会わへんやろ。80%の人と会うのは時間の無駄やと思うやろう」と言われた。おっしゃる通り……。
しんどい思いをしてまで自分を変えたいとは思っていないけれど、彼女のスタンスには憧れる。

そのあとスーツカンパニーで彼女の仕事用スーツを見繕い、スタバでフラペチーノを飲んだ。
こんなに長い時間人と雑談をするのがひさしぶりすぎて喉が痛くなる。そして自分の声の通らなさ、抑揚の気持ち悪さを改めて自覚した。つらい……。

17時ごろに友人と別れ、映画『メタモルフォーゼの縁側』を観に行く。

映画が始まって、最初のほうはちょっと別のことを考えたりしながらなんとなく観ていて、気がついたら物語に引きずり込まれている感じがものすごく好きだ。はっと我に返ったとき、ついさっきまで別の世界を生きていたような錯覚を覚える。

印刷所から入稿期限を告げられたあと、追い込みをかけるうららちゃんの姿があんまりうつくしくて、目から涙がぼろぼろ落ちた。
思い切ってコミケに申し込むも、周りの雰囲気に呑まれて出店できなかったところや、帰宅後に雪さんと縁側で話すシーン。ふたりの出会いのきっかけとなった作品の作者のサイン会のシーン。絶えず心を揺さぶられて仕方がなかった。
高校時代なんてもうずいぶん前の話なのに、高校生の女の子の衝動や行動や心の動きにリアルタイムで感情移入してしまって、自分の青さを思い知る。東京で個展を開いたときの記憶が何度もよみがえった。

しゃくりあげないように息を止めながらだくだくと泣いていたら、酸欠で頭が痛くなった。良い映画を観るといつもそうなる。
ひさしぶりにハッピーエンドを心から祈りながら観ていた。うららちゃんと雪さんを応援したくなる気持ちが、劇中のふたりが愛するBL漫画のカップルを応援する気持ちにリンクしていた。
登場人物がみんなやさしかった。わたしもあんなふうに人にやさしくできると良い。

劇場を出て、原作コミックを買おうと書店に向かう道中。向かいから歩いてくるおじいちゃんの手が杖から離れた、と思った次の瞬間、ぐらりと身体が傾いてその場で転んでしまった。
とっさに駆け寄って身体に手を添えるもおろおろしていると、前から制服のコスプレをしたお姉さん、後ろから男性がたーっとかけてきて、「だいじょうぶですか?どこか痛い?頭打ってないですか?うん、だいじょうぶですね。どこに行きたいですか?バス停。一緒に行きましょうね」と話しかけ、男性が脇の下に腕を入れておじいちゃんを立たせ、お姉さんが散らばった荷物をまとめておじいちゃんの腕を取り、すぐそばのバス停まで一緒に歩いて行った。

一連の流れがあまりにスムーズで、ごく当たり前のことのようにくり広げられたことに驚いて、3人の後ろ姿をしばらくぼんやりと見ていた。
わたしは本当に役立たずだったが、それを気にする余裕もないくらい見事な連携プレイだった。介護のお仕事に就かれている方だったんだろうか。すごかった。

日曜日!という感じの休日だった。暑く蒸した夏の一日だった。
明日からもそれなりに。

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