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味覚の機微、人生の俯瞰、書店が好き

約3週間前にコロナに罹り、療養期間が明けてもしばらくのあいだ、味覚と嗅覚の不調が続いていた。
食べることを生きがいとしているわたしにとって、この状態はかなりこたえた。

「洗剤と食べものの匂いはなんとか嗅ぎ分けられるかな……」レベルが2日、「洋食か和食かくらいはなんとなくわかる」レベルが2日、そして「においも味もおおまかにはわかるけど、風味とか香りとか繊細なところはようわからん」というレベルが2週間ほど継続していた。その「繊細なところ」を、わたしは「味覚の機微」と名付けた。気に入った。

ようやく復活したかも、と思えたのが今週の水曜日。発症してから身体が欲さなくなっていたコーヒーを「なんか飲みたいかも」と思い、買って飲み、ひさしぶりにおいしいと感じたのだった。
コーヒーは健康のバロメーター。味覚の機微よ、おかえり。



ひとりで過ごす休日。
昨日の鍋の残りで雑炊をつくって食べながらテレビをつける。民放では俗なワイドショーしかやっていなくて、なんとなくNHKののど自慢にチャンネルを合わせた。するとうっかり出演者の人生に思いを馳せてしまい、まったくそんなつもりはなかったのに、どうにも泣けて仕方なくなった。

老若男女、いろんな人がいろんな想いでこのステージに立っているのだ。知らない人の人生にも、当然それぞれの物語がある。
そして、バックミュージシャンの方がときどき歌を口ずさみながら、にこにこ楽しそうに演奏しているのも心を揺さぶってくる。なんてやさしい空間なんだろう。
メソメソしながら雑炊をたいらげ、洗い物もちゃんと済ませた。とんだトラップ、のど自慢。

食後、昨日買った『海が走るエンドロール』の4巻を読む。
夫に先立たれたうみ子が、映像専攻の美大生・海(カイ)との出会いをきっかけに、65歳で美大に入って映画を撮る物語。

1話を読み終えた時点で、コンタクトをつけるために席を立った。
わたしは視力に左右差があって、片目だけコンタクトを常用している。両目合わせたら裸眼でも問題なく過ごせるのだけども、この作品には完璧な視力で臨みたいと思ったのだった。

毎巻、作品にのみこまれるすごい漫画で、それこそ波にさらわれたような心地がする。
自分を俯瞰することの必要性、というか作品づくりに際しての必然性を改めて思った。

わたしの人生にはどうしたって物語が必要だし、こちら側にいるわたしの人生もまた物語である。わたしの物語は誰にも侵せない、わたしだけのものだ。舵は自分でとるし、責任も自分で引き受ける。
鑑賞後、そのように思わせてくれる作品のことを心から愛している。



週に一度はおめかしして外に出るようにしている。
仕事の日は、制服と化した洗濯機で洗える洋服2〜3パターンを着回し、BBクリームに粉だけはたいて外に出ているもんだから、「ベストを尽くして最善の状態になったわたし」を取り戻すために。

コンシーラーやハイライトやシェーディングなど、平日まるっと省略している細かな作業も丁寧に行う。アイシャドウとリップはオレンジ系にした。春気分。
昨日、1ヶ月半ぶりにサロンで眉毛をととのえてもらったので調子が良い。毎回なぜか「自己処理でもいけるやろ」と思ってしまって、1ヶ月半とか2ヶ月ごとに予約を入れているのだけども、全然いけたためしがない。いつも予約日の2週間くらい前から「こんな荒れ地みたいな眉毛をさらして人様の前に出るなんて……」と悶々としながら過ごしている(ワックス脱毛の効果を最大限発揮するためには、2週間前からは自己処理をしないほうがいい)。
昨日はおとなしく、推奨されている1ヶ月後に予約を入れて帰ってきた。精神安定代。

メイクしながら、自分の人生について想いを馳せる。努めて俯瞰し、事実だけを考える。うみ子さんの物語から抜け出せていないのだった。
26歳で、出版社で働いていて、恋人と一緒に暮らしている。もっとも欲しかった2枚のカードを手に入れた今、これからはどうなりたいのか。どんな事実が並べられていくんだろう。

先日、上司と話していて「あなたはちゃんと人の話を聞くし、普段はそう思わないけども、実はすごく頑固なところがあるよね」というようなことを言われた。
褒めたつもりはなかっただろうけども、わたしは少しうれしかった。どうしても譲れない部分がある人間のほうが、ない人間よりも自分の理想に近い気がする。



おめかしして出かける先はたいてい、新刊書店かセレクト書店か、古書店か図書館。たまにカフェ。
出版社に勤めていて趣味も本ではあまりにも芸がないので、何か新しい風を取り入れたいなあと思っている。ボルダリングとか。全然やりたいと思えないのだけれども。
今日はお気に入りのセレクト書店をはしごすることに決める。

1軒め、隅から隅まで30分近く吟味した結果、古本を2冊購入する。600円。
申し訳ない、という気持ちが先立つ。欲しい本は山のようにあったが、単行本をぽんぽん買えるほどの余裕が今の家計にはない。大金持ちになりたいわけではないけれども、新刊の単行本をためらいなく買えるくらいの経済力を手に入れたい、と強く思う。好きな場所がこれからもありつづけてくれるよう、力になりたい。
せめてもの応援の気持ちで、ちいさな書店では手持ちがある限り、現金で支払うようにしている。

紙袋に入れてくれた。
本を小脇に抱えて歩くの、良い

2軒め。このお店にはじつは先週も訪れていて、その際買うかどうかものすごく迷ってやめた『パンダのうんこはいい匂い』を買う。

足音に気を遣いながら店内をゆっくり歩く。装丁を眺めて、本を手に取り、帯の文言をおもてうらと読み、まえがきを読んで、作者の略歴を見て、中身をぱらぱらとめくる。それを何冊もくり返す。こんなに心満たされる時間がほかにあるものか、と思う。
自分もこんな本を出せたら、そしてここに並んでいたら、すごく素敵だろうなと思ったりする。

時々はひとりにならないと感情が鈍っていく。
でもひりひりしっぱなしなのもしんどいし、かといってひとりで居すぎると、今度は寂しさで頭がおかしくなってくる。ちょうどよい塩梅でやりくりしたい。

書店を出たら小腹がすいていたので、さっき見かけたカフェに入る。
ひさしぶりにパンケーキが食べたいと思ったので、キャラメルとピスタチオのうんと甘そうなやつを頼んで食べた。おいしかった。味覚の機微がわかるようになってうれしい。

ミント横向き



はりきって香水を2プッシュ吹き付けたら、外出中、自分の匂いに酔ってしまった。
何度も同じことをやっている。つけすぎ注意。

今夜は「ブラッシュアップライフ」7話!楽しみだ。

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