不可思議刊行筆風録5

前回

 さて。無事に改稿用の紙原稿が届いて、今度はそれにびっしり書かれた指摘や注釈などを追いながら、データの原稿を手直ししていく、という作業に取り掛かることになった。なおこの時点で送られてきた紙の原稿は編集の方の提案あってのもの、かつ、私の判断次第では使用しなかったかもしれないもので、本番の校正紙とは別のものであることを付け加えておく。

 四月のはじめに紙をもらい、ゴールデンウイーク明けあたりを目安にして終わらせてもらえれば、とのことだった。ただ、それ以降の工程を考えると早く済ませて悪いことは何もないし、GW中は出版社の業務もストップしてしまう。四月のあいだはサラリーマン業も体力を使い果たすほど忙しくはない。ということで、なるべくGWに入る前に改稿を済ませてしまおうと心に決めて、いざ、と紙原稿に向き合ったのだけど。

 タイトルの一枚目にいきなり書かれていたのは『どことなくビミョーに怪しいけどハッキリ間違ってるわけではないからこちらで直すのも難しい』とのコメント。単語の用法の間違いから文法的なもの、そして『ビミョーに怪しい』ものまで、蛍光ペンでの指摘やシャーペンによる補足・解説はそれだけで小冊子ぐらい作れるんじゃないかと思うほどだった。指摘のないページの方が明らかに少ない。その辺はほんとに申し訳ないというか、書き手としての至らなさを痛感するばかりで。ううむ。

 指摘が多すぎて向き合う度にアタマ痛いが、そうやって書いちゃったのは他ならぬ自分自身である。A4用紙にして約80枚の原稿と自分のデータとを見比べながらひたすら作業。だいたい3週間ほど、休日のたびに作業に没頭する生活が続いた。
 応募したデータはWordを使って文芸社が配布している縦書き原稿用紙の書式を使って作成していたのだが、以前、別の仕事で存在を知ったWordの校正機能この時ほど役に立ったことはない。どこをどう直したかが自分にも相手にも一目でわかる。人生どんな経験が役に立つかわからないものだ。まあ、それはともかく。

 どうにかこうにか3週間、ゴールデンウイークに入る数日前に改稿を終わらせることができ、改めて自分の文章を読み直すうち、違和感の正体もなんとなく把握することができた。修飾語がどこに係っているか分かりづらかったり、ライトノベルにありがち(と指摘された)な体言止めで終わる文章が多かったり、といった具合だ。どうやら『どこか心に引っ掛かりを残す表現を』とか考えすぎて『ビミョーに怪しい』結果を招いてしまったらしい。
 体言止めだけに限らず、ところどころラノベチックなのに関してはまあ仕方がないところかな。学生時代を思い返せば愛読書はだいたいスレイヤーズと当時の少年ガンガン漫画のノベライズで、20代の頃はハルヒだ。影響を受けすぎた自覚はあるので、それを十分に抜いたつもりではあったのだけど……まだちょっと甘かったようだ。実戦で叩き直す心構えだけしておく。

 最後に、この時いただいた指摘で最も印象深かったものを挙げよう。

本来『嫁』は『息子の妻』を指します

(自分の妻――『自分』が男性である場合の、女性の配偶者――を指す言葉ではない、ということ)
 ……指摘されるまで全然知らなかった。どこまでも勉強あるのみだなあ。

つづく。

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