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30分待った特急は、目の前にとまって、走り去った。

あれは、いくつの時だったのだろう。

少しだけ大人で、でも時の流れにのれなくて。瞬間を記録した写真のように、記憶の中で高校生のまま止まっていた友人の顔。数年ぶりに会ってあそんだ。

季節は夏だったんだろうか。不快なほど暑くはなく、寒くもなく。だけど、快適な気温でもなかったことは覚えてる。

最寄りの、特急がとまる駅。そこから二人電車に乗って、街に遊びに出掛けた。「お祭りで着る浴衣はどんな色がいいかなぁ」と、電車が走る轟音で途切れ途切れになる声にお互い必死で耳を傾けて話したっけ。

たくさん話して、食事をして、名残惜しい帰りの駅のホーム。30分に1本の特急電車を待つ間、私たちはまだ尽きぬ話に夢中になっていた。電車が来るアナウンス、開くドア、乗り降りする人。笛の音が鳴り、電車はホームを離れる。

途切れぬ会話に耳と声を向けながら、そんな光景をぼんやり眺めていた。

それから数分。ふと気になって時計を見ると、目当ての特急電車が来る時間はとうに過ぎている。

さっき通り過ぎた電車こそが、乗る予定の電車だったのだ。

「また30分後に来るから大丈夫だよ!」そう言ってわたしは能天気そうに笑ったわたしは、ほんとは…。

30分に1本の電車を逃したって、また30分待てば同じ行き先の電車が来るように、ひとつぐらいチャンスを逃したって、人生は長い。きっとまた何度か似たようなチャンスはやってくる。

だけど、何度でも来ると油断して逃したチャンスは、とんでもない出会いの可能性を秘めた、たった1回のチャンスだったかもしれない。

「もしかしてわたしは、一生そんな風に掴めたはずのものを掴みそこねるのかな。」

せっかく待っていたのに、乗り逃した電車。

「だけど、偶然ずれたタイミングのおかげで出会えるものもきっとある。」

相変わらず弾むおしゃべりを、不安がリアルにならないように、願いがリアルになるように、ざわつく心を消さないように、つづけた。

おいしいごはんたべる…ぅ……。