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オーケストラで「短い休符」を書く・読むことの重要性

1.はじめに

タイトルに「オーケストラ」と書きましたが、オーケストラ以外にも多くの音楽の演奏で当てはまる話になると思います。吹奏楽のように十数人~百人近くの大編成による合奏や、それよりもっと小規模なアンサンブルはもちろん、クラシック以外のジャンルの音楽にも通ずる内容となるでしょう。

また、この記事は「オーケストレーション(管弦楽法)」の観点で文章を書いていますが、主に作曲・編曲に携わる方だけでなく、譜面を読んで実際に音に出して演奏をする方にも有益な情報を載せています。DTMで楽曲を作る方にとっても、本記事の内容は打ち込みのヒントとして役立てられるでしょう。

前回は「長休符」について書きましたが、今回はそれの続きです。(→前回の記事:『オーケストラで「休符」を書くことの難しさ』


前回の記事で、「3種類の休符」という分類を提示しました。

1.数小節間演奏しない状態が続く休符(長休符)(前回の記事)

2.フレーズの中や、フレーズの前後に書かれる休符

3.上記の1・2どちらにも属さない用法の休符

今回は「短い休符」がテーマですが、この短い休符とはずばり2つ目の「フレーズの中や、フレーズの前後に書かれる休符」のことを指します。

2.短い休符も、ないとしぬ。

前回の「長休符」の記事では、

「オーケストラではなるべく各楽器・各パートにまとまったお休みを入れてあげないと奏者の疲労が蓄積してパフォーマンス力や演奏効果が落ちるよ」

「でもまとまったお休み(長休符)を書くというのは音符を書くことより難しいから、音符を書くor楽器を足す以外のことを勉強してしっかり意識しないと長休符は書けないよ」

というお話をしました(超要約)。

ですので、「まともなオーケストレーション」をするために、あるいは楽団に効果的なパフォーマンスで良い演奏をしてもらうために、長休符はしっかりどのパートにも与えておくべきだ、ということなのですが、では長休符を与えるだけで「まともなオーケストレーション」「効果的なパフォーマンスで良い演奏」が期待できるかと言うと、答えはNOです。「短い休符も、ないとしぬ。」とか言ってますが、要するに「長休符だけでなく、短い休符もちゃんと意識して書きましょうね」というお話です。

このお話は管楽器の例を発端にすると分かりやすいでしょう。日本の義務教育を受けている方であれば、ほとんどの方が鍵盤ハーモニカやリコーダーを音楽の授業で演奏したことがあるかと思います。鍵盤ハーモニカもリコーダーも、人間が息を吹きかけて音を鳴らしてあげる必要のある楽器です。笛やラッパなどの管楽器を演奏しない方は、あの体験を思い出してください。

世の中には「循環呼吸」という途中の息継ぎなく音を出し続けることができる特殊能力を持った演奏家の方もいらっしゃるのですが、ほとんどの演奏家はそんな特殊能力を持っていません。管楽器の場合はそのような特殊能力を持ったごく一部の奏者を除いて、誰もが息継ぎをしないと死んじゃいます。永遠に息を吹き続けることはできません。悲しきかな、人生。しんでしまいます。

我々人類は、そういう分かりきった常識をお互いに理解して生きているわけですが、さて以下のような譜面はどうでしょう?

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例として、20小節と少し長めですが、あえて問題のあるメロディ譜をこしらえました。アーティキュレーション等はあえて何も書いていません。ドレミとか音程とかはどうでもいいのですが、一度脳内でも声に出してでもなんでもいいので、初見で歌うなり楽器で演奏するなりしてみてください。テンポは厳密な指定ではありませんが、120ぐらいと考えてください。

最初から最後まで目を通してもらうと分かりますが、休符がどこにも書かれていません……。

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息がもちませんね……。

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しんでしまいますね……。

やっぱり長い休符だけじゃなく短い休符も1つや2つは欲しいですよね……。やっぱり……、短い休符も……、書きましょう……。それでは……、また来世…………。

ここまでお読みいただきありがとうございました…………。

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というところでは終われませんので、続きます。

3.人によってバラバラになるブレス箇所

上記のクソ長20小節メロディの譜面をもう一度貼ります。

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さあ、どこでブレス(息継ぎ)を取りましたか?

あるいは、フレーズの切れ目はどこだと思いますか?という問い方でもいいですね。音を出すのに息を使わない弦楽器などはこちらの方が表現として適切かと思います。

まさかこの20小節を丸々一息で歌える人は……、いませんよね……?(おそらく)私も音楽性を抜きにしてなるべくブレス無しで歌おうとしても最低2回は息継ぎをする必要がありました。一段ずつ紐解いていきましょう。

おそらくほとんどの人が、一段目は問題なく一息で歌うことが出来ると思います。しかし音符が改段する時が、人によって解釈が分かれるポイントですね。

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このメロディでブレスを取るところ、フレーズの切れ目となるところはどこなのでしょうか。一応ですが、これは私がこの記事のために作ったメロディなので正確な答えは予め用意していません。

ソルフェージュや初見演奏に慣れている人であれば前者(赤色)の切り方、「このメロディは1拍のアウフタクトで始まっているので、4小節目の3拍目で一度切れて、残る4拍目はその次の5小節目に対するアウフタクトだ」と即座に判断して赤色のブレス位置で吸うかもしれません。

一方で「どこで吸えばいいか分からないけれどとにかく息が続くところまで歌ってみる。しかしだんだんと息が苦しくなってきたので、改段時のキリのいいタイミングで吸っておく」というような方は後者の青色のブレス位置で息継ぎをしたかもしれません。繰り返しになりますが、このメロディは赤色と青色どちらが正しいかというのは、この楽譜の情報量からは知る由もありません。

続いて2~3段目です。

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1段目で赤色のブレスを取った人は、「各段の後ろの音符はアウフタクトなのではないか?」という予想をつけて、2段目でもこのようなブレスを取るかもしれません。8小節目の付点4分音符の「ミーー」までがワンフレーズで、残った「シドレードーシーソ♯ー」は9小節目に対するアウフタクトだという判断です。こういう判断が初見で咄嗟にできる人は、初見演奏に長けていて楽譜を先読み先読み……とできる人ですね。

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一方で青色のブレスです。同じく、どこで吸えばいいか楽譜から判断できないので、息が続くところまで歌ってみる。そうして、8小節目の「ミーーシドレードーシーソ♯ー」も間があくことなく続けてきましたが、やはり一段につき一息で吸いたくなるのではないでしょうか。そうすると9小節目に差し掛かるぐらいで苦しくなるので、「ミーーシドレードーシーソ♯ーラーーー」のラの伸ばしで吸わざるを得ないかと思われます。

このように、赤色のブレスと青色のブレスで考えていくと、これは一部の例に過ぎませんが、ブレスを取った箇所は以下のように分かれるのではないかと考えられます。

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