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シーズンを終えるその前に/アランニット制作日記 2月後編

 寒い冬を凌ぐためには、ニットは手放せないアイテムだ。でも、セーターやカーディガンは、肌に直接触れないこともあり、「洗濯する」を意識せずに済ませてしまいがちだ。

「全く洗わずに着てる方もいると思うのですが…こまめにお手入れした方が長持ちすると思いますよ。秋冬物は色も濃いし汚れが目立たないのですが、花粉やホコリが溜まったり襟や袖に皮脂が付着したままにすると、生地の劣化の原因になるので、定期的なお手入れをおすすめします」

ニットの洗い方についてはこちらの前編もぜひお読みくださいね。ちなみにこの赤いニットは小6の時に父にもらったもの。シーズン毎に手入れをしているのでもう20年近く(!)愛用しています

 特に“記憶の中のセーター”は箔が押されており、皮脂に触れると箔が酸化してしまうので、洗わなくとも汗をかきやすい箇所を、濡らして固く絞ったタオルで撫でておくだけでも少し効果があるという。そして、クリーニングに出すよりも、自分で手洗いがおすすめだとゆきさんは語る。

「普通のニットの製品ならいいんですけど、ご自身での手洗いをおすすめします。というのは、クリーニング屋さんによって洗濯方法に差があり『手洗い』と表記していても、洗濯機の手洗いコースで洗ってるクリーニング屋さんもあるので。どうしてもクリーニング屋さんに出す場合はドライコースで相談してみてください」

 普通のニットと異なり、“記憶の中のセーター”には箔が押されている。箔というのは、どうしたって経年変化するものだ。箔の変化を楽しんでもらうために――それが手洗いを推奨する理由だ。

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左:お直し前/右:お直し後。2014-15年のシリーズ。お客さまからお預かりして4年の時を経てリペアしました

「誰かが洗ってくれたときに箔が落ちたら、どうしても『壊れた!』って悲しい気持ちになると思うんです。そうではなく、自分の手で育てていく楽しみとして、面倒だけど手洗いしてもらえたらなと思います。もし箔が擦れてきてもお直しできますし、追加で箔を足すこともできるから、心配せずに洗ってください。形あるのもは必ず変わっていきます。その変化をご自身の手で前向きに受け取ってもらえたらいいなと、いつも思います」


 さて、残るは脱水だ。洗濯ネットの中で、ニットが少しよれているのであれば、やさしく形を整える。そうして洗濯機に入れて、脱水モードで回転させる。

「うちの洗濯機はドラム式なので、強いスピードでまわり始めて、30秒ぐらいしたら止めてます。縦型の洗濯機だと、遠心力が強いから、もうちょっと短いほうがいいかもしれないですね」

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 ドラム式と縦型でも違いはあるけれど、洗濯機ごとに脱水の強さが異なるため、慎重に様子を見て欲しいとゆきさんは言う。

ずっしり重いまま干すと、なかなか乾かず、生乾きの匂いが残ってしまう。ただ、普通の洗濯と同じように乾かしてしまうと、ニットに負荷をかけ過ぎてしまう。ニットがわずかに水分を含んでいて、多少ずしっとした感触が残ったところで洗濯機から取り出すのがベストだ。

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「ニットを干すときは、必ず平干しです」とゆきさん。

「“記憶の中のセーター”を洗うときは裏返し。でも裏返したままだと、箔の表面が濡れたままになり劣化の原因になるので、干すときは表に返してください。ただ、ニットが一番ダメージを受けやすいのは濡れてるときなので、そろーり、そろーり、ちょっとずつ表にひっくり返してください。」

 干し台に対して、なるべく均等にニットが載せられるように。袖をだらんと垂らして干すと、水分の重さで伸びてしまうので、全部が載せられるように、形を整えながら干してゆく。

「うちは日当たりが良すぎて、日光が当たっちゃうんですけど、日焼けしちゃうので陰干しをおすすめします」とゆきさんは言う。

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 ニットを収納するときは、ハンガーに吊るしたままだと襟にテンションがかかってしまうので、畳んで保存したほうがよいそうだ。畳むときも、上に他の衣類を重ねても均一に圧がかかるように、袖を互い違いにして畳むのがよいという。

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袖を互い違いにして、なるべく平たくなるように

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すそもなるべく平たくなるよう折り返して、完成

「洗濯は、クローゼットにニットをしまう前と、また冬がきて着る前と、一年に二回やってもらえたらいいなと思ってます。収納しているあいだにホコリが溜まったり、収納してるあいだにぺたんこになってしまうのですが、洗ってあげるとふっくらするんですよね。もし洗えない場合は、ブラッシングしたり、一日でも風通しのいいとこに干しておいたりするだけで、長く着てもらえるようになると思います」

 もうすぐ春がやってくる。暖かくなれば、ニットの季節も終わりを迎える。これまではクリーニング屋さんに任せきりだったけれど、今年はよく晴れた春の日を選んで、ニットを手洗いしてみようと思う。

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この取材日は、よく晴れた春のような日でした。我が家にいるねこさんもお洗濯を一緒に見守りました。ねこさんを洗うような気持ちで、やさしくやさしく、ニットをお手入れしてみてくださいね

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【アランニット制作日記 最終回 3月前編】 へ続く

words by 橋本倫史

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