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相反する2つの「遊び」の両立が、組織の創造性を刺激する

2021年3月1日に経営統合したMIMIGURIは、勝負の3期目を迎えました。創業日当日の節目に新刊『パラドックス思考』を発売できたのも感慨深いものです。

MIMIGURIは2020年3月の資本業務提携を経て、1年足らずで合併したわけですが、この2年で組織は急激に大きくなりました。合併前、私が経営していたミミクリデザインは20名規模でしたが、DONGURIとの合併、そして採用を経て60名規模の組織となりました。

こうして組織が大きくなると、どの会社にも大なり小なり起こりがちなのが「組織文化」のミスマッチではないでしょうか。私たちMIMIGURIは相当にうまく融合できたケースだと思いますが、それでも新規メンバーが増えてくると徐々に組織文化の揺らぎが生まれ始めており、気を引き締めているところです。

経営統合後に顕在化した「組織文化」の誤解

たとえば、最近浮き彫りになったのは「数字」や「目標達成」に対する考え方の誤解です。MIMIGURIは元来、事業計画の達成にコミットする風土が強く、営業管理に強い自負があります。

ところが、経歴的には十分に営業管理に強いはずの中途採用のメンバーたちが、営業管理をあえて緩めているような、数値の議論に遠慮をしているような、そんな様子が見られたのです。それとなく尋ねてみたところ、こんな言葉が返ってきました。

「MIMIGURIって、数字の話はあまり好きじゃないと思ってました」

これには私も共同経営者のミナベも大変驚きました。中途入社のメンバーが多いセールスチームですが、どうしてそんな誤解が生じてしまったのでしょうか。

MIMIGURIでは「創造性の土壌を耕す」をミッションに掲げ、独自の経営モデルである「Creative Cultivation Model(CCM)」に基づき、個人、チーム、組織が創造性を発揮するためのさまざまな施策やコミュニケーションを行っています。

例えば、半期に一度行う社内クラウドファンディング「PLAYFUL FUND(プレイフルファンド)」。チームや有志などが自分たちの「やりたい遊び(=探索や挑戦したいテーマ)」をプレゼンし、他のメンバーから投票を募って資金を集め、活動の成果や学びをレポートしてもらっています。最近では「MIMIGURIらしい香水をつくる」「“数百年後の悲しみ”をテーマに小説や楽曲を制作する」なんて“本気の遊び”もあって、全社総会のたびに盛り上がるコンテンツのひとつとなっています。

ところがこうした「創造性」や「遊び」を強調する施策やメッセージを繰り返してきた結果、中途入社したメンバーたちは「MIMIGURIは遊びを大切にしていて、ビジネスとしての数字を重視する会社ではない」と感じてしまったようなのです。いやいや、そんなつもりじゃないのに! 私とミナベは改めて全社に向けて目標管理と達成にコミットすることの重要性をフィードバックし、これまで以上に生産性を追求することを経営目標として掲げたのでした。

何を隠そう、そもそも合併前のミミクリデザインには、まさにこの「数字の話は苦手」な雰囲気がありました。資本業務提携に際し、DONGURIとミミクリデザインでは少しずつ価値観をすり合わせていきましたが、その際、メンバーたちがカルチャーショックを受けたことのひとつが、DONGURIの全体会議に参加したときのことです。

「今期は103%予算達成しました!」などと報告するチームや個人に対して、メンバー全員で拍手を送り賞賛する様子に、ミミクリのマネージャーたちは「……ヤバくない?」「一緒に働けるかな……」と、明らかに気後れしていました。当時、ミミクリデザインでは売上も利益も急成長していたものの、「目標を立てると逆に自分たちの可能性が縛られるようでイヤだよね」と目標管理は特に何もせず、“予定調和の計画を揺さぶる”ことに情熱を傾けていたからです。

一方、DONGURIのほうはと言えば、会議でアジェンダを無視して「別の可能性はないか?」と延々と対話を続けるミミクリデザインのメンバーに対して「脱線してばかりだけど大丈夫……?」「プロジェクトマネジメントの意識ある?」と不安がっていたようです(笑)

性質は違えど、「遊び」を大切にする組織文化

当初はDONGURI、ミミクリデザインどちらのメンバーも「組織文化がマッチするだろうか……?」と若干の不安があったわけですが、私たち経営陣は「相反する価値観と共通した価値観を併せ持ちながら、相互補完関係を築くことができる」と確信していました。資本業務提携に際し、さまざまな角度から価値観のすり合わせを行うなか、アジェンダのひとつだったのが、「我々にとって『遊び』とは何か」です。

社会学者のロジェ・カイヨワによる「遊び」の4類型に基づくなら、ミミクリデザインのメンバーがアジェンダを破壊しながら「別のものの見方」を探り続けていたのは、「ミミクリ=ルールの外側で、新たな見立てをつくる遊び」と言えるでしょう。

一方、DONGURIのメンバーが目標達成を目指して切磋琢磨していたのは、「アゴン=ルールに従って、競い合う遊び」に興じていたということ。つまり、ミミクリデザインもDONGURIも、その性質は違えど仕事を通じて「遊び」を大切にする組織文化があるということです。

それにミミクリデザインが「ミミクリ」を、DONGURIが「アゴン」だけを大切にしてきたわけではありません。DONGURIにはもともと「アソビジョン」という制度があり、本業には関係のない目標を設定し、自分自身にアンラーニングを起こす「ミミクリ」的な取り組みが行われていました。

ミミクリデザインでも「アゴン」をないがしろにしていたわけではありません。ルールが明確だからこそ勝敗が決まり、フィードバックを受けてトレーニングや創意工夫することができる「アゴン」の良さを認めたうえで、「ルールに従う」一辺倒になりがちな組織開発において、「ルールから逸脱する」ことで生まれる創造性の可能性を提案するのが、ミミクリデザインの価値だと考えてきました。

こうして、「我々にとって『遊び』とは何か」を導いていった結果、

  • アゴン=ルールに従って、競い合う遊び

  • ミミクリ=ルールの外側で、新たな見立てをつくる遊び

この相反するふたつを、MIMIGURIでは両方大切にするということ。『パラドックス思考』における「因果戦略=『AだからこそBである』『BだからこそAである』の因果関係を見出す」で言うならば、

  • 「日々徹底してアゴンで攻略しているからこそ、ミミクリによる逸脱の意義が高まる」

  • 「ミミクリで新たな視点を生み続けるるからこそ、中長期的にアゴンで勝利できる」

という感覚を大切にしようと結論づけられたわけです。

相反するモードを両立するからこそ、創造性が発揮される

しかしそれから約2年が経過し、やがてゲームのように数値目標にこだわる「アゴン」は暗黙の前提となり、忙しい日常において維持することが難しい「ミミクリ」による逸脱の重要性ばかりが強調されるようになった結果、前述したセールスチームの誤解につながってしまったというわけです。

MIMIGURIは今、3期目をキックオフするにあたって、あらためて相反する「アゴン」と「ミミクリ」を両立させていきたいということを全社に伝え直しています。

営業管理体制を推進するマネージャーたちも、なんだか楽しそうです。古参のメンバーも「数字にこだわるのって、そういや楽しかったな」と、アゴンの醍醐味を取り戻してきたようです。

「アゴン」と「ミミクリ」、ふたつの相反するモードを行き来し、揺さぶりを与えることで、チームや個人の創造性が最大限発揮される。規則や秩序に従ったうえで、ルールの中で最大限アクセルを踏むと、それすらをも楽しめる境地になれる。その状況をメタ的に問いなおし、リフレーミングすることで「その手があったか!」と思えるようなブレークスルーを見出すことができる。そしてその一連の活動そのものが“メタゲーム”となって、さらに全力で楽しめるものとなる──。

だから「A or B」ではなく「A and B」が大切なんです。これからも自分たちが一番の”パラドックス経営”の体現者であるべく、3期目も遊び倒したいと思います!


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