見出し画像

最終回「短歌西荻派の夕べ」Q&A @西荻窪・今野書店

長く書き続けてきた「短歌西荻派の夕べ」のお話も、今回が最後です。 

今回も、前回の質疑応答の続きです。
 
Q 「センス(感覚)と技巧はどちらを優先しますか?
どちらを優先すべきと考えますか?」
 
A 木下さんが入門書「天才による凡人のための短歌教室」に書いたのは、ほぼ技巧の話。

自分で短歌を作っていても、感覚の方はこれまでの生き方や見て来たものが入っている渦のようなもので、あまり言語化できないのだとか。

「そこの2つを分けて考えているわけではない。
 
どっちを優先って言われると難しいけど、感覚で捉えて技巧で作ることもあるし、技巧で捉えて感覚で作ることもあるから、歌による。」 

山階さんは、質問者がどういうものを感覚と技巧だと捉えているのかわからない、
とした上で
「この人がもし感覚と技巧が別々にあってどっちかを大事にしなくてはいけないと思っているなら、『技巧』と思っているものを大事にした方が歌は作りやすいと思う。

言語化できない何かが感覚としてあるとしたら、言語化できてそこに気を使える部分が技巧だと思う。 

意識的に稼動させられるのがそこだけだと思うので、そこを使っていく」
と言いつつ、
「(その二つは)全然切り離せないですよね。どっちかっていうものじゃない気がします」
と話していました。

枡野さんは
「僕はあまりその2つを区別したことがない。
技巧とか上手いねと思われる短歌は失敗していると思う。」

Q「短歌を作る時は、単語や使いたいフレーズを書き出して作っているのか、それとも何かが頭の中に「降ってきて」、それをブラッシュする形で作っているのですか?」

A 木下さんによると、どちらもあるそうです。

ただし、『頭に何かが降ってきて・・・』という巫女のような経験については、
「短歌を作り始めた頃は初期衝動があってそういうこともあったと思うけど、今は映像を言葉に置き換えて行くことが多い」とのこと。

Q 「テレビ・ラジオ・映画・演劇・読書など、日常で感情や言葉を集めるために、何か意識していることがあれば教えて下さい。」

A 木下さんは、
「見たものはたくさん覚えておくようにし、それを言葉に置き換えていく」
そうです。

しかも、言葉にした後で
「その言葉から映像に立ちかえれるか」
を確認するのだとか。 

例えば、短歌を一首作ったらもう一度文章に戻してみて、また短歌に戻れるか、その行き来をしてみるそうです。 

(わたしが翻訳をする時も、訳した英文を日本語に逆変換して確認することがあり、共感しました)

確かに、作者が伝えたい思いを短歌にしても、その歌を読んだ人が短歌単体から
その元になったものや思いを自分の頭の中で再生できないと、作者の思いは伝わらないですものね。

「自分が伝えたいものが長いほど、どこを伝えたいか選ぶことが必要になる。

自分が思ったことを短歌にする時、イメージと短歌は必ずずれる。 

そのずれることを前提に考えて、ずれを極力少なくするのが推敲だと思う」
とのコメント、なるほどと思いました。 

Q 「今まで読んできた中で、色が出てくる印象的な短歌はありますか?」

A 木下さんが
「今まで読んだ中で一番色が鮮烈に出てくる短歌」
としてあげたのは
「円形の和紙に貼りつく赤きひれ掬われしのち金魚は濡れる」
(吉川宏志) 

この金魚の赤はよく思い出すのだそうです。

山階さんが選んだのは
「呼吸する色の不思議を見ていたらひよとあなたは教えてくれる」
(穂村弘)

枡野さんは、兵庫ユカさんの
「きっと血のように栞を垂らしてるあなたに貸したままのあの本」
という歌を
「赤いな、と思った」
と選んでいました。

また、お話の中で枡野さんは今野書店の花本さんが短歌西荻派の立ち上げを
発案してくれたことについて、
「すごく良かったし、ありがたい」
と感謝していました。

木下さんが
「山階さんも僕も初期の頃に枡野さんに助けられていて、多分枡野さん自身も
いろんな人に助けられていると思う」
と言って、短歌はすごく人間的なものだと話していたのも印象的でした。

人の心や姿を描くものであるだけでなく、人との出会いや繋がりで歌が生まれたり、歌人が成長していったり、その人の短歌が広まっていったりするのでしょうね。

最後に、登壇者の皆さんからも
「今日(3人で話して)わかったことがいくつもあった」
「共通点がいくつもあって面白かった」
とコメントがありましたが、お三方がよくいく西荻のお店のお話など、短歌以外のお話もとても楽しかったです。

山階さんの
「短歌西荻派、なくならないんですよね?」
の質問に、枡野さんが
「ぼんやりと続けていけばいいんじゃない」
と答えていたので、今後を楽しみにしたいと思います。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*井の頭公園でも紅葉が進んでいます。
昨日は快晴の土曜日で、アートマーケットも賑わっていました。


カフェで書き物をすることが多いので、いただいたサポートはありがたく美味しいお茶代や資料の書籍代に使わせていただきます。応援していただけると大変嬉しいです。