見出し画像

かっこ悪くても、大切なことを守っていく。「銀平町シネマブルース」

3月31日から行きつけの映画館、Uplink吉祥寺で「銀平町シネマブルース」の上映が始まっています。

わたしは初日の夜に見にいったのですが、上映後に脚本を担当したいまおかしんじさん、出演者の平井亜門さん、そして文筆業などをされているタカハシヒョウリさんのトークショーがありました。 

今回の監督は城定秀夫さんでしたが、脚本を担当されたいまおかしんじさんも映画監督。

わたしはいまおかさんが監督した「神田川のふたり」(うちの近所が舞台になっているのでわたしにとっては「ご近所映画」)「あいたくて あいたくて あいたくて」が好きだったので、今回脚本を書かれたこの作品も、とても楽しみにしていました。

平井亜門さんは「神田川のふたり」だけでなく、東かほり監督の「ほとばしりメルトサウンズ」にも出演していたのですが、「神田川のふたり」では高校生、「ほとばしりメルトサウンズ」ではまだ学生っぽさが抜けない若手社会人?を演じていた彼が今回は撮影現場でがんがん働く助監督役。

実際に撮影された時期はわたしが観た順番とは異なるようですし、別の監督の作品の全く異なる役ではありますが、なんだか一人の人の成長の様子を拝見するような気持ちにもなりました。
(これからご覧になる方もいらっしゃると思うのでストーリーの詳細は省きますが、若干ネタバレの可能性があります。)

主人公は諸般の事情で家族もお金も失った元映画監督、
彼が出会うのは映画を愛するホームレス、
見るからに経営が厳しい映画館を
なんとか守ろうとする支配人、
文句を言いながらもその映画館を大切に思うバイトさんや
売れない役者など。

社会的に恵まれた立場と言えそうな人は出てこないのですが、映画とこの映画館を愛する人たちの姿に心を動かされました。

そして、わたしがここ数年で一番笑ったのがこの映画の中で上映される映画、
「監督残酷物語」。

劇中劇ならぬ映画中映画なので、いくつかの断片しか見られないのですが、あまりに面白くて。

その部分はいまおかさんの脚本ではそんなに細かく書いておらず、監督が撮影前日くらいに自分で書いたのだそうです。

「できることなら『監督残酷物語』をフルで1本観たい!」
と心から思いました。

この映画は埼玉に実在するミニシアター「川越スカラ座」で撮影されたそうですが、いまおかさんが脚本を描く時にあったのは横浜の「ジャック&ベティ」という映画館。

横浜で学生時代を送ったいまおかさんはこの脚本を書くために横浜まで行き、「ジャック&ベティ」を当て書きするように脚本を仕上げたとか。
(でも、撮影ではこの映画館は全く使われなかったとのこと)

また、「ジャック&ベティ」の周辺にはホームレスの方も多いそうなので、トークショー出演のお三方みなさんが
「あの辺の人のエナジーがすごい」
「話しかけてくる人が多い。」
などと話していました。

いまおかさんもホームレスの方に
「月に2本は映画観に行ってる」
などと話しかけられたことがあるそうです。

この映画に出てくる「佐藤」もホームレスなのですが、映画を深く愛していて、お金がない中でも月に2本は映画をみていて、それが彼の誇りでもあるようです。

(ちなみにこの「佐藤」の名前はいまおかさんの監督作品には
常連の佐藤宏さんの名前からとったとのこと。
小ネタも満載なのです)

そのほかにも浅田美代子さんが演じていた圧の強い女性と老人たちの胡散臭い様子も、実際にいまおかさんが喫茶店で見聞きしたことが元になっているとか。

「後になって思うと、ほとんど現実にあったことを書いてる」
とおっしゃっていました。

また、主役の小出恵介さん、吹越満さんなど中心的な役割の他に、映写技師役で渡辺裕之さんが出演していたり。

渡辺さんは2022年5月に亡くなっています。 

本作は遺作ではないのですが、最晩年の出演作なのです。

この作品には渡辺さんの方から出演したいとおっしゃったのだとか。

渡辺さんにこの映画のどこに出ていただくか検討した結果、この映画の中ではかなり渋くてかっこいい映写技師の役になったそうです。

とても印象的なダンスシーンも、渡辺さんだから成立した場面でした。

なお、最後のダンスシーンは脚本にはなく、監督が付け加えたのだとか。

また、わたしが大好きな映画「いとみち」にも出演していた中島歩さんや宇野祥平さんもこの作品に出演されていました。

平井さんは
「登場人物はみんな魅力的で個性的。
最後にみんなにエンディングがつけられている」

タカハシさんも
「かなり緻密な脚本」
と話していましたが、みているうちに
「ああ、あれはこういうことの伏線だったのか」
と思うこともあり、それぞれの人物がじんわりと記憶に残る群像劇でした。

いまおかさんは
「映画、なんでもいいと思う。
僕は後々思い出して助けられたことが多い。
自分もそういう映画を作っていけたら」
「この映画に出てくる奴らはみんな金もってなさそう。
でも、『毎日カネがあって楽しい』なんて奴いない。
そういう人に向けて書いている。
『まあ、頑張ろうよ』みたいな。」

平井さんは
「映画の中の佐藤のようにふとことが寂しい人がなけなしのお金出映画を見てみにいくこと、素晴らしいと思う。」
「この映画をみにいく自分を愛せる映画だと思う。」

タカハシさんは
「ヒット作もそうでない映画も愛して欲しい」
と話していました。

かっこいい人や、おしゃれな生活をそつなく送っている人ばかりじゃない。 

どうしようもない自分と向き合いながら、なんとか日々を送っている人だってたくさんいる。

それでも、諦めず、自分が好きなものや人を大切にしながら生きていけばいい。

そんな風に励まされた気がします。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*すでに東京は桜は散ってしまいましたが、先日神代植物公園に行った時の桜は見事でした。

カフェで書き物をすることが多いので、いただいたサポートはありがたく美味しいお茶代や資料の書籍代に使わせていただきます。応援していただけると大変嬉しいです。