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メタバース×バーチャルライブ~アーティストとプラットフォームにおける課題を試案する~

1.メタバースとバーチャルライブ

メタ(Meta:超越した)とユニバース(宇宙)を合わせた造語であるメタバース。
メタバースとは、端的にいえばインターネットにおける三次元の仮想空間であり、多人数がデジタル的な同一性(アイデンティティ)を保ったまま仮想空間内を自由に行動できるのが特徴とされる。

2021年Facebookが社名をMetaに変更する前後から、やや狂信的にメタバースという言葉が叫ばれるようになったが、宇宙の誕生と同じく、メタバースという新世界が我々の前に誕生しつつあると考えれば、人類がいささか冷静さを欠いたとしても無理はない。

いつかくる完全な形のメタバース(現実世界と同程度の存在となるような仮想世界)の実現を夢見ながら、各企業はメタバースという新世界の創造主(プラットフォーマー)になるべくしのぎを削り、メタバース内での新経済圏の覇者になるべく様々なジャンルでの競争が既に始まっている。

その典型的なジャンルの一つがバーチャルライブといえるだろう。

「ジャスティン・ビーバーが自身初、メタバースでのパフォーマンス披露!」と銘打ってなされた無料バーチャルライブ『Justin Bieber – An Interactive Virtual Experience』
やや厳しい感想も聞かれたライブの詳しい中身は以下の解説記事等に委ねるが、メタバース的な体験として一つの可能性を提示したことは間違いない。

また「BTS」や「BLACKPINK」など、今や世界的人気を誇るK-POP業界においてもメタバース的な取組みは加速しているとされる。

たとえば2020年にデビューした「aespa(エスパ)」のメンバー4人には、もう一人の自分であるアバター「ae-aespa(アイ-エスパ)」が仮想空間に存在し、「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を経験する」という世界観をベースにしている。

正直この文章だけでは全く意味がわからないが、以下の動画もぜひ併せて見てもらいたい。確かにアーティストとアバターのコラボという新たなエンタメビジネスの可能性を感じることができるようにも思える。

近い将来、日本の音楽業界においても、各アーティストのアバターによるバーチャルライブが開催され、それどころかバーチャル上にのみ存在するアバターのアーティストに熱狂する時代もくるであろう。
(もっとも日本においては2013年から初音ミクらバーチャル・シンガーの3DCGライブ「マジカルミライ」が開催されおり、アバターのアーティストに熱狂する時代なんてとっくに来ている感はあるが、それが仮想空間内で行われるとなればやはり新しいライブ形態といってよいかもしれない。)

2.アバターによるバーチャルライブに関する課題(概要)

実在するアーティストのアバターによる仮想空間内でのバーチャルライブの取組みは、まさに今始まったばかりである。
したがって、その課題や法的論点の多くはこれから生じてくることが予想されるが、たとえばアーティストとプラットフォームとの関係だけに限っても、以下のような課題が生じることは想像に難くない。

・プラットフォームとの収益配分方法、割合について
・投げ銭などチケット収入以外の収益方法の有無(プラットフォームにおいては資金決済法上の問題等をクリアできるか)
・当該プラットフォーム上でのNFTを用いたデジタルグッズ販売等の可否(リアルでのライブにおけるグッズ販売のような仕組みが作れるか)
・スポンサー広告等の掲示の可否(タイアップ等の可否)
・権利帰属に関する問題(ライブコンテンツの二次利用権限の所在等を含む)
・JASRACなど著作権管理団体との包括契約の有無
・参加地域選択の可否(国内参加に限るか国外参加も可能かにより権利処理方法が変わり得る)
・(アーティスト側がプラットフォームを選択する要素として)ライブに参加するための障壁やUI(ファンの満足度に直結する要素)の完成度

その他、深く掘り下げての検討は別機会に委ねるが、実在するアバターがライブを行うことによる固有の法的問題として、

・アバターの実演は著作権法上の実演となるか(ライブの歌唱はなるとして、その動きも実演となるか。モーションキャプチャーの場合とAIによる自動認識のような場合とで差が生じるか)
・アバターの実演はレコード会社との関係で専属解放処理が必要といえるか(むしろ仮想空間内におけるアバターによるバーチャルライブが見込まれる場合に、専属実演家契約においてどういった内容を盛り込むべきか)
・そもそもアバターが著作物だとしてアバターの著作権処理は適切にすんでいるか(3Dモデラーとの関係はどうか)

などいくつか興味深い論点が生じる。

  • いずれにしてもメタバース(仮想空間)内におけるアバターでのライブビジネスに携わる上では、従前の議論を踏まえた上で、上記のような課題に対しどう向き合い、どう乗り越えていくかが成功の鍵となるだろう。またこうした新たな課題は何もアバターによるバーチャルライブに限った話ではない。メタバースという新世界におけるビジネスはまだまだ始まったばかりである。(田島 佑規)


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