#52 やっと、やっと、あった!!!!!!・・・ニューヨーク1人旅  2018年11月3日(土)3日目・・・11

充分に休息をとって、元気にBryant Parkを出た。

私にとって、人生で目指す聖地であり、勝手に約束の地と思い込んでいる企業が、すぐ近くにある。明後日の月曜日にうかがうことになっているのだが、遅刻だけは死んでも絶対に嫌だ。私は、方向オンチ選手権で世界一に輝ける、筋金入りのスーパー方向オンチなので、しっかりと場所を把握しておかなければ。

聖地はMadison avenueにあり、住所もわかっているので、すぐに見つけられるだろうと思った。マップアプリで確認すると、わずかワンブロック先だ。
ところが、である。
6ave、7ave、8aveと、歩いても歩いても、Madison avenueは見つからなかった。再びマップアプリを開いてみると、何と反対方向に遠ざかっていた。

後々わかってくるのだが、このマップアプリが100%信用できないのである。自分の現在地や向いている方向、行きたい場所を案内してくれるはずなのだが、往々にして大嘘をつくのだ。3週間の滞在中、何度騙され泣かされたことか。
けれどもこの時は自分の現在地の丸が、明らかにMadison avenueから離れていた。来た道を泣く泣く戻る。ただし、まったく同じ道を戻るのは癪に障るので、ストリートを1本ズラし、気分も風景も変えて戻った。
途中警官に聞き、指を差された方向へ進みながら、やっとMadison avenueと書かれた標識を見つけた。たったワンブロックのはずなのに、随分歩いた。

よし、企業はこの通りにある。後はストリートがわかれば辿り着ける。
以前に頂いていたお名刺の住所を再確認してみると……ない。ない……。
ストリートナンバーが書かれていないのだ。ここへ来てストリートナンバーもわからず、Madison avenueを端から歩けと? 
Bryant Parkで充分休息したのにドッと疲れが出た。

唯一の救いは名刺にビルの番号が書いてあったこと。New Yorkのビルは、入り口にビル番号が付いていることを知っていたので、その番号のビルを探すしかなかった。Madison avenueをひたすら123番のビルを探して歩く、歩く、歩く、歩く。

途中、ふと横を見ると、見覚えのある風景に出逢った。彫刻Glory of Commerce。そう、Grand Central Terminal。
正面にはヘルメス像、その両隣には、フランスの彫刻家、ジュール・アレクシス・クータンが創った、ヘラクレス像とアテナ像があった。

ここも憧れて憧れて憧れ続けた場所だ。
行きたい! 中に入りたい! 
インフォメーションの上にある四面時計の下に行きたい! 
でも今は企業が入っているビルを探さなければ。約束の明後日、迷うことなくスムーズに行けるように。何しろ私は方向オンチ選手権で世界一に輝ける、筋金入りのスーパー方向オンチなのだから。

横目でGrand Central Terminalを恨めしく思いながら、123番のビルを探して歩く、歩く、歩く。そして、四つ角に建っていたビルの真横の壁に、大きく123の数字が金色に光っていた。あった!123番のビル。

早速入ってみると、広くてきれいなエントランス。土曜日なので守衛さんが1人、ポツンとブースに座っている。
「Excuse Me」
と声を掛け名刺を見せた。
15階に行きたかったので、〝15〟の数字を指差して、
「OK?」
と聞いてみた。すると守衛さんは、背後の壁にかかっているプレートを指して〝ここは123だよ〟と言い、出入り口のドア(の外)を指差した。
〝え?だから123でしょ?〟再び守衛さんが何か話しているが、理解できない。でも、何かが違うことは分かった。

すると守衛さんは名刺に書かれたビル番号を、トントンと指した。よく見ると、なんと、124と書かれてある。私はビル番号を間違えていた。勝手に123と思い込んでいたのだ。自分のアホな間違いにようやく気付き、
「Sorry」
と言って苦笑いしながら、身体がズドーンと重く感じられた。
ここじゃない……。

「Thank you」
とお礼を言い、123のビルを出て、今度は124を探す。そして疲労感が増してきた。
さらにやっかいなことに、ビルは番号順には並んでいなかった。125の隣りが134だったり、128の隣りが130だったり。
どうしてバラバラの番号がついてるの!? 
どうしてお隣同士番号が離れてるの!? 
少々腹立たしく思いながら、124は中々見つからず、途方にくれた。
それでも歩いて探すしかない。

Madison avenue沿いをあっちにこっちに散々歩き、もう疲れて人に聞く元気も出ない。そして聞いたところで話されてもわからないし、知らないと言われたときのショックを考えると、自分で探す方がマシだと思えた。 

すっかり夕方になり、空は暗くなり始めていた。Madison avenue沿いにあることはわかっているのだから、ビルが番号通りに並んでいないのなら、ひたすら歩いて探すしかない。
ただ、136,127、122など、近い数字のビルが並んでおり、このご近所だろうと察しはついた。

今度は123のビルとは反対側の歩道を歩いた。1つ1つ番号を確認しながら進む。すると、あった! あったよ!! 124のビル。
なんと、Madison avenueを挟んだ、123ビルのお向かいだった。
ああ、ここかぁ。私が目指した、勝手な思い込み山盛りのビルは……。
たったワンブロックを、30分以上ウロウロウロウロと散々探し回って、やっと見つけた。

私は、ただただ働きたいだけの日本人。けれど、どんなに社長のお許しが出ようが、私が働く気満々だろうが、アメリカは許してくれていない。私には働くためのビザは取れないのだ。だったらせめてビルに入るくらい、いいよね。

そーっとドアを押し開けて、ビルの中に入る。すると、ここにもブースに守衛さんがいた。シーンとするホールで、自分を鼓舞するために、わざと元気な声で、
「Excuse Me」
と言ってみた。言ってはみたものの、悲しいかなその後は続かない。
企業の名刺を見せると、〝ジャパニーズに会いに来たのか?〟と聞かれているような気がした。土曜日の夕方だったので、床を指さしながら、
「Monday、here」
というと、〝あ~あ、なるほどね〟という表情で納得してくれたようだった。本当は〝月曜日にここに来るから、場所の確認と下見に来ました〟と伝えたかったが、できなかった。
「Thank you」
とだけ言い外に出た。

あのままエレベーターに乗って15階に行けば、オフィスがあるとわかっているのに、この日は行けなかった。突然押しかけるのは失礼だし、遊びに行くところではなく、職場なのだ。自分の都合でズカズカ入っていくのは躊躇われた。月曜日にはちゃんと約束してある。今日のところは、当日方向オンチ全開で迷子にならないように、下見に来ただけだ。

ちゃんと来られるよう、もう1度確認しておこう。お向かいのビル、隣りのビル、周辺の店舗、忘れないようにしよう。月曜日にすんなり来られるように。

ビルを出ると、すっかり日は落ちて夜になっていた。
そして安心したら、私の元気もすっかり回復していた。
さあ、憧れのGrand Central Terminalに行こう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?