警察官に示されたビルの正面に行くと、すでにツアーガイドがせわしなく動き回り、ツアー客もちらほら見受けられた。
受け付けのツアーガイドに名前を聞かれ、答えると、
「パス、パス」
と言ってきた。恐る恐るパスポートを出すと、
「NO!　パス！　パス！」
という。何やらペラペラとしゃべってくるが、まったく理解できない。
そして、私が英語を理解できないことがわかると、苦笑しながら仲間のツアーガイドと何やら話している。

仕方なくiPhoneの7チョイスバーコードを出すと、OKと言いながらピッと読み込んだ。7チョイスとは別に＄42支払い済みなのに。
7チョイスとはシティーパスのことで、一定料金を払ってパスを買い、施設に入場できる観光パス。私は7か所の施設やイベントに、ピッとするだけで参加できるように購入していた。

実は、日本からこのゴスペルツアーにネットで申し込んだとき、その場で＄42を支払わないと、予約が完了しないようになっていた。シティーパスで参加できることはわかっていたのだが、聞く人もなく、英語もわからず、面倒だったこともあり、＄42ならまあいいかと思って、さっさと支払い、予約をしてしまったのだった。
だから、＄42を支払って予約を取ったのに、当日、シティパスを出さなければならなくなることは、何となく想像ができていた。

本当は、＄42支払い済みの画面の、プリントアウトをした用紙を持っていたけれど、何故かおののいてしまい、ツアーガイドに言えなかった。
正確には、言う隙も与えられないほど、全く理解できない英語を、ワーっと話されてしまったため、ドギマギしてしまい、固まってしまったのだった。

私の勝手な被害妄想だが、私が英語が理解できないとわかると、客として扱われなくなったような気がした。というより、きっとツアーガイドたちも、私の逆で、まったく日本語がわからないため、私をどう扱っていいのか、わからなかったのだろう。

とりあえず、シティパスで余分に＄42を支払うと、1人の女性ツアーガイドが指差された。どうやら私はこの女性ツアーガイドについていくことになったらしい。

集合時間8：15と案内しながら、8：45になっても続々と集まってくるツアー客の対応で、ツアーは中々始まらなかった。
9時少し前になり、やっと5～6人ほどのツアーガイドたちが、5～60人ほどのツアー客を、ビルの出入り口前に集合させ、何か説明を始めた。
一切の日本語通訳も日本語表示もないため、私は何がなんだかさっぱりわからない。

何時から何時までのツアーなのだろう。
どこに行ってどんなことがあるのだろう。
どこで何が行われるのだろう。
何を説明しているのだろう。
これから何が起こるのだろう。
私はどうしたらいいのだろう。

孤独になりながら戸惑っていると、1人のツアーガイドが客の名前を呼び始め、10人ほどに集まると、コースになっているらしき方向へと、客を連れて進み始めた。
次のツアーガイドも同じように10人ほど集め、先へ進んだ。
次々とツアーガイドが客を呼び、1つのグループが出来あがり、次々とツアーに出かけて行った。

先ほど指差された女性ツアーガイドも、ツアー客の名前を呼び集めたが、
呼ばれた客の中に私は入っていなかった。なんだよ置いてきぼりかよ。
ツアーガイドは自分が担当するツアー客の確認点呼はしないのか？　
集合時間もあってないようなものだったし、＄42余分に払わされているし、名前は呼ばれないし、一切の説明もわからないしで、少し怒りが込み上げた。でも主宰側からしたら、一応の説明はした。ただこの日本人（私）が理解できなかっただけだ。

名前が呼ばれないのなら、このままここに残っていても仕方がない。こうなったら、もう誰がガイドでもいいや。とりあえず先ほど出発したツアー客のグループのところに走り、輪の中に無理やり入った。
集合場所から数十メートル先の教会の前で、ガイドがペラペラと解説らしきことをしている。

10分ほど話しただろうか。
ツアー御一行は、ガイドの後ろからぞろぞろとついて歩き、また数十メートル先の、次の教会の前で止まると、ガイドがペラペラと解説らしきことを始めた。
〝なんだ！　ツアーって解説ツアーか！！〟
この時、初めて理解した。

私はてっきり、教会の日曜礼拝をハシゴするものだと思い込んでおり、ゴスペルを歌う気満々だったのだ。それなのに、これでは、英語が理解できなければ、面白くもなんともないではないか。
余分に＄42払ってこれかよぉ……。ガッカリした。
若干、騙された感に襲われながら、騙されたままで終わるのは悔しい。
よし、こうなったら意地だ。英語がわからないならわからないなりに、楽しんでやるっ！！　
私はツアーガイドの真後ろにピッタリと付き、ついて行った。