免税店で、お使いを頼まれていた、アメリカには売っていないのに、
アメリカンスピリッツという名前の、紫のパッケージのタバコを無事購入し、襷がけ鞄とタバコが2カートンが入ったビニール袋の、2つを持ってゲートの方へ進んだ。
実はこのときはまだ、どこから飛行機に乗るのか、わかっていなかった。
だから、この後にもまだ何かの手続きがあるのかと思いながら、モールをどんどん奥に進んだ。
すると、52と書かれたカウンターへ行き着いた。
NH10便は52ゲートだったので、スタッフに、
「あとはどんな手続きをしたらいいですか？」
と尋ねた。
「NH10のお客様ですか？　チケットを確認させていただけますか？」
と言われ提示すると、にわかにカウンター内がざわつき、スタッフ数人がササッと動き出した。
え？　何？？　私？？？　何かやらかした？　え？？　でも私、何にも悪いことしてないよ？　ライターはちゃんんと申告して手荷物の中に入れたし、潔白だよ！！　
スタッフたちのざわつく姿を見て、一瞬怖くなった。

カウンター内の職員の1人が手にしていた封筒が見えた時、全身の血が逆流したかのごとく、身体がガッチガチに固まり、驚きのあまり声も出なかった。冷静な職員は、落ち着いた口調で静かに言った。
「YUKIE様、お忘れ物が届いております」
それは、郵便局のレターパックの封筒だった。

もちろん私の物。その中には、数枚のクリアファイルに分けられた、
重要書類がいくつも入っていた。

• 飛行機のチケットを取ってもらった旅行会社から送られた、　　　　　　飛行機のeチケット

• 保険の書類

• 旅行時の注意

• もしものときの連絡先一覧

• Wi-Fiルーターの契約書

• シティパスの控え

• New Yorkでのメトロカードの買い方写真付き説明書

• JFK空港から宿泊先までの電車移動の案内

• 観光場所リスト

• 宿のオーナーさんが教えてくれた諸注意、空港から宿までの生き方やチケットの買い方の説明、これらのメールをプリントアウトしたもの

• そして最も大切だったのは、11月10日（土）に、マディソンスクエアガーデンで行われる、Billy Joelのコンサートチケットが入っていたのだ。 

ビックリ仰天しながら、顔面蒼白になっていくのを感じた。
「ぎゃゃあぁーーっ！！！　す、す、すみません。あ、ありがとうございますっ！！　えーーっ！？　どこにあったんですかぁ？？？！！！」

あまりの驚きに、声が裏返ってしまった。
焦って聞くと、冷静な職員はゆっくりと静かに言った。
「手荷物カウンターです」
ああーっ！そうだ！！　あのとき、チケットだのパスポートだの提示が求められ、その度に、襷がけ鞄の中の、もうひとまわり小さな襷がけ鞄の中の、
ポーチの中の、紙封筒の中から、いちいち取り出していたのだった。
さらに、ライターを出すために、スーツケースを開けて引っかき回したのだった。
そんなドッタンバッタンの中で、襷がけ鞄の中の大切な封筒を出し、
ひょいと横に置いたまま、荷物を預けた安心感から、すっかり忘れてしまったのだ。
しかもその直後に、コートをボストンバックから出し忘れたことを思い出したため、封筒を出した記憶すら、すっかりどこかに飛んでいた。

「きゃあっーーー！！！　この中には大事なコンサートのチケットが入ってるんですよぉ～。助かりました。ありがとうございますぅーーーっ！！」

ビックリの次に安心したせいで、予想外に大きな声が出てしまった。
カウンター内の職員たちは、私の無駄に大きな声とは裏腹に、
動じず冷静な声で、
「あってよかったですね」
と。　はい。あってよかったです。

そして、ここで渡されるまで、こんなに大事な物オンパレードの書類が入った封筒が、手元から無くなっていることに、全く気づいていなかった、アン・ポン・ターンの自分が恐ろしかった。 

あーやれやれ。