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幸せそうなみんなの笑顔が苦しかった

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結婚したい。

ていうか、結婚式を挙げたい。

純白のウエディングドレスを着て、厳かな雰囲気のチャペルでバージンロードを歩きたい。

お色直しではカラードレスって決めてるの。色は…ピンクもいいしオレンジも悪くない。白無垢は前撮りで着てもいいかな。だけど和装も捨てがたい。

料理はちょっとこだわりのフルコース。テーブルの花はどれくらいのボリュームにしよう?ウエディングケーキはフレッシュケーキがいいよね。デザートとして食べてもらうの。

友達や親戚は何人招待する?人数によっては会場のサイズも変わっちゃうよね。招待状は手作りする?余興は誰に頼もっか。

BGMには、大好きなRADWIMPSの「いいんですか?」を使うって決めてる。「明日を生きる意味を探したらあなたといる答えになったよ」なんて歌詞を聞いたら泣いてしまうかも。

結婚式の前にはエステにも通って、直前になったらネイリストの友達にジェルネイルで可愛くしてもらおう。写真もたくさん撮って、来てくれた人たちみんなに「幸せそうだな」と思ってもらえるような式にしよう。うん、完璧。

 * * *

結婚の予定なんてなくても、誰かの結婚式に出席したら一度は妄想する自分バージョンの結婚式。

二度三度と出席するうちに、だんだん結婚式のパターンが見えてくる。一度も歌ったことのなかった賛美歌だって、いつのまにか歌えるようになった。

お色直しの回数、タイミング、使うBGM、ケーキの種類、式次第、出席者の人数…「私だったらこうしよう」を少しずつ積み上げる。

「今月は2回も結婚式があるからご祝儀貧乏だよ〜」

そんなセリフを何度口にしただろう。一年間に何人もの友人が結婚していく。毎月のように結婚式やら二次会やらの予定が入ってくる。

幸せそうな顔を、たくさん眺める。

 * * *

23歳頃、第一次結婚ラッシュがくる。新卒で入社して一年が経ち、生活が落ち着いたところで大学時代の恋人と結婚するパターン。

27歳頃、第二次結婚ラッシュがくる。仕事人間だった人も、社会人になって知り合った恋人と結婚を決めて家のローンの計画を立てる。

29歳頃、第三次結婚ラッシュがくる。30歳というひとつの区切りが、人を結婚へと向かわせるのかもしれない。

30歳を過ぎた頃、周りに独身はほとんどいなくなる。数少ない独身の友人には、結婚の「け」の字も見えない。

 * * *

「結婚はゴールではない」

わかってる。そんなことは、わかってる。

でも友人がどんどん結婚していくというのはまるで、一緒にマラソンを走っている集団から私だけ急にペースダウンしたかのような感覚なのだ。

え、待ってよ、なんでみんな急にペース上げたの?違う?私が走れなくなっちゃっただけ?

結婚したら子供ができて家を買って…周りのみんなはすごろくのコマをどんどん進めていく。すごろくのゴールに向かって振るサイコロの目は、私のターンだけ「1」ばかり。なんでみんなは「6」が出せるの?

私だけが前に進めない。進みたいのに。

 * * *

独身のまま度重なる結婚ラッシュをくぐり抜けてきた。

いくら「結婚」というものへの多様性が謳われようが「結婚が全てではない」と諭されようが、周りが幸せな顔をしているのだから憧れる気持ちを全く持たないでいることなんて不可能だ。

結婚したみんなだってきっと、色んなモヤモヤを抱えているんだろう。不満なんて、周りに見えないようカモフラージュしているだけだ。幸せ一辺倒の人生なんて、ない。

それはわかっていても、「結婚」が幸せなライフイベントのひとつであることに間違いはない。だってそれはいつか、「出産」というさらに幸せな奇跡に繋がるんだから。

結婚に対する価値観は人それぞれだけれど、周りと同じように学校へ通い周りと同じように就職した私の価値観は、やっぱりどこかマジョリティ。

みんなの幸せそうな顔を見ている瞬間に感じた幸せな気持ちは、ひとりになった途端に猛烈な寂しさとなって襲いかかってくるのだ。

 * * *

結婚ラッシュは、もう私の人生にやってこないだろう。

「結婚してもしなくても、幸せの総量は変わらない」と、度重なる結婚ラッシュを終えた今は思う。きっと結婚したことによって得られた幸せもあれば、結婚を選んだことによって得られなかった幸せもあるはずだからだ。

そして幸せの総量は、増やすことも減らすこともできる。それを決められるのは自分自身だ。どれだけ幸せでいるのか、どれだけ不幸でいるのか。全ては自分が決めているのだ。

私は今、とても幸せな人生を送っている。もちろん、独身だ。これから先、結婚するかどうかはわからない。だけど、自分を幸せにする方法を知っている。

きっと結婚してもしなくても、私は満面の笑みで言える。

「私、今すっごく幸せだよ」って。


Text by. ユキガオ

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